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手術の前投薬・禁忌確認事項

周術期は「出血」「循環動態」「呼吸」「血糖・代謝」「感染」「せん妄・誤嚥」リスクが上がる。
前投薬(術前投与)は不安や疼痛、嘔気を減らし、麻酔導入〜覚醒を安全にするために行う。
一方で、禁忌・中止薬の見落としは重篤な合併症につながるため、チェックリスト化して確認する。

1) 手術の「前投薬」まとめ(代表例)

施設・術式・麻酔方法(全麻/区域麻酔)で方針が変わる。最終は麻酔科/主治医指示に従う。

A. 不安・鎮静(前投薬の定番)

  • ベンゾジアゼピン系(例:ミダゾラム)
    • 目的:不安軽減、健忘、導入をスムーズに
    • 注意:高齢者/呼吸抑制リスク、せん妄、転倒

B. 鎮痛(術前の疼痛・侵襲対策)

  • アセトアミノフェン(術前投与されることが多い)
  • NSAIDs(術式・出血リスク・腎機能で可否判断)
  • オピオイド(必要時:呼吸抑制・悪心・便秘に注意)

C. 悪心・嘔吐(PONV)予防

  • 5-HT3拮抗薬(オンダンセトロン等)
  • デキサメタゾン(PONV予防として使われることがある)
  • ドロペリドール等(QT延長に注意)

D. 誤嚥・胃酸関連(必要時)

  • H2ブロッカー / PPI(胃酸抑制)
  • 制吐・胃運動改善薬(例:メトクロプラミド)
  • (緊急/高リスク)クエン酸ナトリウム等(施設運用による)

E. 感染予防(術前抗菌薬)

  • 術前抗菌薬(例:セファゾリン等)
    • 原則:切開前に投与(タイミングが重要)
    • 注意:アレルギー歴、腎機能、MRSAリスク、手術時間に応じた追加投与

F. 循環・気道分泌の調整(必要時)

  • 抗コリン薬(アトロピン/グリコピロレート)
    • 目的:分泌抑制、迷走神経反射への対応
    • 注意:緑内障、前立腺肥大/尿閉、頻脈

2) 禁忌・中止/調整が必要な確認事項(チェックリスト)

A. 出血・血栓(最重要)

  • 抗凝固薬(ワルファリン、DOAC等)
  • 抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル等)
  • サプリ/健康食品(EPA/DHA、高用量ビタミンE、イチョウ葉等)
    • ポイント:中止=出血は減るが血栓は増える。術式とリスクで判断。

B. 糖尿病薬(低血糖・ケトアシドーシス・乳酸アシドーシス)

  • インスリン:絶食・侵襲で調整が必要
  • SGLT2阻害薬正常血糖ケトアシドーシス → 事前中止(目安:術前数日前)
  • ビグアナイド薬(メトホルミン)乳酸アシドーシス(腎機能低下/造影/脱水など)

C. 循環動態に影響する薬(麻酔中の低血圧など)

  • 降圧薬(ACE阻害薬/ARB、利尿薬など)
    • ポイント:麻酔で血圧が下がりやすい。施設方針で当日休薬・継続が分かれる。

D. ステロイド(副腎不全)

  • 長期ステロイド内服/吸入高用量
    • ポイント:HPA軸抑制 → ステロイドカバーが必要になることがある。

E. アレルギー・既往(薬剤選択に直結)

  • 抗菌薬アレルギー(特にペニシリン/セフェム)
  • 麻酔関連:過去の麻酔でのトラブル(悪性高熱、アナフィラキシー、PONV重症など)
  • ラテックスアレルギー

F. 呼吸・鎮静の禁忌/注意

  • 睡眠時無呼吸(OSA)、COPD、呼吸抑制リスク
  • 鎮静薬・オピオイドの過敏/併用(アルコール、向精神薬)

G. 腎・肝機能(薬の投与量/禁忌に影響)

  • eGFR低下、透析
  • 肝硬変、黄疸

H. 妊娠・授乳

  • 妊娠可能性、最終月経、授乳中(薬剤選択・検査に影響)

I. 絶食(NPO)と内服可否

  • 最終飲食(固形物/水分)
  • 当日内服してよい薬/だめな薬の指示
    • 「朝の薬」は一括ではなく、薬ごとに可否がある。

3) 学生向けポイント(覚え方)

  • 周術期は「出血」「低血圧」「低血糖/代謝異常」「感染」「誤嚥」が事故につながりやすい。
  • 中止が必要かどうかは、薬のリスクだけでなく「中止によるリスク(血栓、増悪)」もセットで考える。

4) 追加で情報が欲しいもの(確認項目)

  • 手術の種類(出血量が多い/少ない、緊急/予定)
  • 麻酔方法(全麻/脊椎・硬膜外/局所)
  • 既往(血栓症、脳梗塞、冠動脈ステント、腎障害、OSA)
 

5) 検査の前投薬・休薬確認(代表例)

検査(内視鏡、造影CT/MRI、血管造影、歯科処置、生検、腰椎穿刺など)でも「出血」「腎機能」「アレルギー」「鎮静による呼吸抑制」「低血糖」がポイント。
具体的な休薬日数は検査種類・腎機能・施設運用で異なるため、“何を確認するか”をまず押さえる。

A. 鎮静がある検査(内視鏡など)の前投薬

  • 鎮静薬(ミダゾラム等):不安・苦痛の軽減(呼吸抑制/せん妄に注意)
  • 鎮痛薬(必要時):呼吸抑制、悪心、ふらつきに注意
  • 鎮痙薬(ブチルスコポラミン等:施設により):緑内障/前立腺肥大/頻脈に注意

抗コリン薬(鎮痙薬)の禁忌・要注意(内視鏡)

  • 禁忌(原則使わない)
    • 閉塞隅角緑内障/疑い(眼痛、頭痛、霧視、虹視の既往):急性緑内障発作の誘発リスク
    • 前立腺肥大などによる尿閉:尿閉を悪化
    • 麻痺性イレウス、腸閉塞:蠕動抑制で悪化
    • 重い不整脈・頻脈(コントロール不良):頻脈・動悸を増やす
  • 要注意(リスクを理解して使用判断)
    • 高齢者:せん妄・口渇・便秘・排尿困難が出やすい
    • 心疾患(虚血性心疾患、心不全など):頻脈が負担になることがある
    • 胃内容停滞/誤嚥リスクが高い:鎮静+抗コリンで咽頭反射低下・分泌低下が絡むため慎重に

禁忌の場合の対応(学生向け:どうするか)

  • 「鎮痙薬なし」で実施(施設により標準)
  • 代替薬を検討(施設運用による)
    • グルカゴン:平滑筋弛緩目的で使われることがある(糖尿病・血糖変動に注意)
    • ペパーミントオイル等:大腸内視鏡で使う施設もある(効果は施設差)
  • 前処置・手技でカバー
    • 送気/送水、体位変換、鎮静深度の調整など
  • 禁忌確認を先に徹底
    • 緑内障のタイプ確認(「緑内障=全て禁忌」ではなく、閉塞隅角が問題)
    • 尿閉リスク(前立腺肥大、排尿困難の有無)を問診で拾う

A-2. 気管支鏡検査(鎮静+局所麻酔)で事前に注意すること

  • 絶食:誤嚥予防(施設のNPO指示に従う)
  • 鎮静:呼吸抑制・低酸素に注意(COPD/喘息、睡眠時無呼吸、在宅酸素などは要申告)
  • 局所麻酔(リドカイン噴霧など):しびれが残る間は誤嚥リスク → 検査後もしばらく飲食禁止の説明が重要
  • 抗凝固/抗血小板:生検・ブラッシングを予定する場合は出血リスクが上がる(休薬の要否確認)
  • 咳止め/鎮咳薬・吸入薬:当日の指示(吸入は継続が多いが、個別指示を確認)
  • 運転禁止:鎮静後は帰宅手段・付き添いの確認

B. 造影検査(造影CT/血管造影など)での休薬・禁忌確認

  • 造影剤アレルギー歴(蕁麻疹、喘鳴、血圧低下など)
  • 腎機能(eGFR):造影後の腎障害リスク
  • ビグアナイド薬(メトホルミン):腎機能低下+造影で乳酸アシドーシスリスク → 休薬/再開条件の確認
  • 利尿薬・脱水:造影腎症リスクが上がるため、当日の水分・補液方針を確認

C. 出血が問題になる検査・処置(生検、内視鏡治療、抜歯など)

  • 抗凝固薬(ワルファリン/DOAC)
  • 抗血小板薬(アスピリン/クロピドグレル等)
  • NSAIDs
  • ポイント:検査の侵襲(出血リスク)と、休薬による血栓リスク(ステント、脳梗塞既往等)をセットで判断

D. 糖尿病薬(絶食を伴う検査)

  • インスリン:絶食の有無・検査時間で調整(低血糖に注意)
  • SU薬など低血糖リスク薬:当日中止/減量の指示確認
  • SGLT2阻害薬:絶食・脱水でケトアシドーシスリスク → 施設指示の確認

E. 眼底検査(散瞳)で事前に注意すること

  • 散瞳薬(トロピカミド等):検査後しばらくまぶしい・ピントが合わない運転は避ける(帰宅手段の確認)
  • 禁忌/要注意閉塞隅角緑内障(急性緑内障発作)リスクがある人は要申告(眼痛、頭痛、霧視、虹視などの説明)
  • コンタクト:施設によって外す指示がある(点眼後に装用しにくい)
  • 点眼後の全身作用:動悸などが出たら申告(頻度は高くないが注意喚起)

F. 検査前のチェック項目(学生用チェックリスト)

  • 目的:検査により “やってはいけないこと” が違う(出血?腎?鎮静?絶食?)
  • 確認①:抗凝固・抗血小板・NSAIDs・サプリ
  • 確認②:糖尿病薬(特にインスリン、SGLT2、メトホルミン)
  • 確認③:腎機能(eGFR)、脱水、利尿薬
  • 確認④:造影剤/薬剤アレルギー、喘息
  • 確認⑤:鎮静の有無(検査後の運転禁止、付き添い、転倒リスク)