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悪性貧血

病態

悪性貧血(pernicious anemia)は、自己免疫性胃炎によって胃壁細胞と内因子が障害され、回腸でビタミンB12を吸収できなくなる病気。ビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血と神経障害を来す。
📌
「悪性」は歴史的な病名であり、悪性腫瘍という意味ではない。ビタミンB12治療が確立する以前は致死的であったことに由来する。

発症のしくみ

💡
自己免疫性胃炎 → 胃壁細胞の減少 → 内因子欠乏・胃酸低下 → 回腸でのビタミンB12吸収低下 → DNA合成障害・無効造血 → 巨赤芽球性貧血
病態起こること
胃壁細胞の自己免疫性障害胃体部・胃底部を中心に萎縮性胃炎が進行する
内因子欠乏食事由来のビタミンB12を回腸で吸収できなくなる
DNA合成障害巨赤芽球化、無効造血、大球性貧血。重症では白血球・血小板も減少
髄鞘障害末梢神経障害、亜急性連合性脊髄変性症、認知・精神症状など
胃酸低下高ガストリン血症を来し、胃病変の長期的な観察が必要となる

関連する背景

  • 自己免疫性甲状腺疾患、1型糖尿病、白斑などを合併することがある
  • 高齢者で増えるが、年齢だけでは除外できない
  • 長期的には胃癌や胃神経内分泌腫瘍のリスク上昇が報告されており、消化器科での評価が重要

主な症状

分類症状・所見
貧血症状倦怠感、易疲労感、息切れ、動悸、めまい、蒼白
消化器・粘膜症状舌炎、舌の疼痛、食欲低下、体重減少、下痢など
無効造血による所見軽度黄疸。LDH・間接ビリルビン上昇を伴うことがある
神経症状手足のしびれ、振動覚・位置覚低下、歩行障害、筋力低下
精神・認知症状抑うつ、易刺激性、記憶・認知機能低下など
重症時汎血球減少による感染・出血傾向、心不全など
⚠️
神経障害は貧血が軽い場合やMCVが正常の場合にも起こり得る。治療が遅れると不可逆的になることがあるため、しびれ・感覚低下・歩行障害を見逃さない。

検査・診断

① 血算・末梢血

検査項目典型的な所見
Hb・Ht低下
MCV上昇(大球性)。鉄欠乏併存などでは正常のこともある
網赤血球低値。治療後は造血反応により増加
末梢血塗抹大型楕円赤血球、好中球の過分葉
白血球・血小板重症では減少し、汎血球減少となることがある

② ビタミンB12欠乏の評価

検査項目主な所見・意義
ビタミンB12低値。境界域では代謝マーカーも参考にする
メチルマロン酸B12欠乏で上昇。ただし腎機能低下でも上昇し得る
ホモシステインB12欠乏で上昇。葉酸欠乏でも上昇する
LDH・間接ビリルビン無効造血により上昇。LDHは著明な高値となることがある
ハプトグロビン低下することがある

③ 悪性貧血の原因検査

検査項目主な意義
抗内因子抗体陽性なら悪性貧血を強く示唆。特異度は高いが、陰性でも否定できない
抗胃壁細胞抗体陽性となることが多いが、抗内因子抗体より特異性は低い
血清ガストリン胃酸低下により上昇することがある
ペプシノゲン胃粘膜萎縮の評価を補助
上部消化管内視鏡自己免疫性胃炎、胃粘膜萎縮、胃腫瘍などを評価

鑑別

  • 胃全摘・回腸切除後など、手術によるB12吸収障害
  • メトホルミン、胃酸分泌抑制薬などに関連したB12欠乏
  • 厳格な菜食・低栄養による摂取不足
  • 葉酸欠乏、アルコール・肝疾患、甲状腺機能低下症
  • 骨髄異形成症候群、薬剤性大球性貧血

治療

治療の基本はビタミンB12補充。内因子欠乏は通常持続するため、症状や血液所見が改善しても、原則として長期・生涯にわたる補充が必要となる。

① ビタミンB12補充

  • 症状の重症度、神経症状、吸収障害の程度に応じて注射または高用量経口製剤を選択する
  • 高度貧血や神経症状がある場合は、確実な補充ができる注射療法が選択されることが多い
  • 初期治療後は維持療法へ移行し、自己判断で中断しない
  • 葉酸欠乏を合併している場合は、B12補充とともに治療する
⚠️
B12欠乏を治療せず葉酸だけを投与すると、貧血が改善しても神経障害が進行する可能性がある。

② その他の対応

  • 高度貧血で循環動態不安定、心不全、強い症状がある場合は赤血球輸血を検討する
  • 自己免疫性甲状腺疾患など、併存する自己免疫疾患を評価する
  • 自己免疫性胃炎と胃腫瘍リスクについて消化器科と連携し、必要な内視鏡フォローを行う

治療効果の確認

  • 網赤血球:治療開始後、約1週間をピークに増加することがある
  • Hb・MCV:数週間かけて改善する
  • LDH・間接ビリルビン:無効造血の改善に伴い低下する
  • 治療開始直後は急速な造血に伴う低カリウム血症などに注意する
  • 神経症状の回復には時間がかかり、治療開始が遅いと残存することがある

看護のポイント(観察事項)

症状・神経所見の観察

  • 倦怠感、息切れ、動悸、めまい、活動耐容能を確認
  • 舌炎、食欲低下、体重減少、黄疸を観察
  • しびれ、振動覚・位置覚低下、歩行障害、転倒、認知・精神状態の変化を確認
  • 白血球・血小板低下時は、発熱・感染徴候、皮下出血・出血傾向を観察

検査値・治療に関する観察

  • Hb、MCV、網赤血球、白血球、血小板、LDH、ビリルビンを経時的に確認
  • 治療開始後はカリウム値と造血反応を確認
  • B12注射後は発疹、呼吸困難などの過敏反応を観察
  • 血液所見が改善しても、神経症状が残っていないか継続して確認する

服薬・生活支援

  • 生涯にわたる補充が必要となる理由を説明し、自己中断を防ぐ
  • 注射・受診スケジュールを確認し、継続できるよう支援する
  • 葉酸サプリメントの単独使用でB12欠乏を見逃さないよう、市販薬・サプリメントを確認する
  • 感覚障害・歩行障害がある場合は転倒予防と安全な移動を支援する
  • 上部消化管内視鏡など、胃病変の定期評価について受診状況を確認する