異食症
病態
異食症(pica)は、食べ物ではない物質、または栄養価のない物を持続的に摂取する状態。鉄欠乏との関連が強く、特に氷を繰り返し食べる氷食症(pagophagia)がよく知られている。
鉄欠乏性貧血では「氷を無性に食べたくなる」「製氷皿1枚分以上の氷を毎日食べる」などが受診の手がかりになる。氷食症は鉄補充によって比較的早く改善することがある。
診断上の考え方
- 食べ物ではない物質を繰り返し摂取する行動が1か月以上続く
- その行動が発達段階に不相応である
- 文化的・社会的な慣習として行われているものではない
- 妊娠、発達特性、精神疾患、認知症などに伴う場合は、独立した治療対象となる程度かを判断する
主なタイプ
| タイプ | 摂取する物 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|
| 氷食症 | 氷 | 鉄欠乏との関連が特に強い。歯の損傷や冷刺激にも注意 |
| 土食症 | 土・粘土 | 寄生虫、重金属、腸閉塞、栄養吸収阻害のリスク |
| でんぷん食 | 生でんぷん等 | 過剰摂取による栄養バランス悪化など |
| その他 | 紙、毛髪、石、石けん、チョーク、金属など | 摂取物に応じて中毒、閉塞、穿孔、感染、歯牙損傷が起こり得る |
主な関連因子
| 関連因子 | 確認するポイント |
|---|---|
| 鉄欠乏 | 月経過多、消化管出血、妊娠、摂取不足、吸収障害。貧血が明らかになる前から異食がみられることもある |
| 亜鉛などの栄養素不足 | 偏食、低栄養、吸収障害など |
| 妊娠 | 鉄需要増加、食行動の変化。母体・胎児への有害物質曝露にも注意 |
| 発達特性・知的障害 | 発達段階、感覚刺激を求める行動、環境要因 |
| 精神・神経疾患 | 強迫症、統合失調症、認知症などに伴う行動 |
| 心理社会的要因 | ストレス、ネグレクト、生活環境など |
症状・合併症
本人・家族から確認すること
- 何を、どのくらい、どの頻度で、いつから摂取しているか
- 飲み込んでいるか、噛むだけか
- 摂取後の腹痛、嘔吐、便秘、血便、発熱、呼吸症状
- 月経量、妊娠、食事内容、体重変化、消化器症状
- 薬剤、サプリメント、生活環境、発達・認知・精神状態
起こり得る合併症
| 合併症 | 具体例 |
|---|---|
| 消化管障害 | 便秘、腸閉塞、消化管損傷・穿孔、毛髪胃石など |
| 中毒 | 鉛などの重金属、洗剤・化学物質による中毒 |
| 感染症 | 土食による寄生虫・細菌感染など |
| 口腔・歯科障害 | 歯の亀裂・摩耗、口腔粘膜損傷 |
| 栄養障害 | 通常の食事摂取低下、栄養素の吸収阻害、欠乏の悪化 |
強い腹痛、繰り返す嘔吐、腹部膨満、血便、意識変化、呼吸困難、鋭利物・電池・磁石・化学物質の摂取が疑われる場合は、緊急評価が必要。
治療
治療の基本は、危険な摂取を防ぎ、原因となる身体疾患・栄養欠乏を治療すること。行動だけを責めず、背景を評価する。
① 原因治療
- 鉄欠乏があれば原因検索を行い、経口または静注鉄剤で補充する
- 亜鉛など他の栄養素不足があれば適切に補う
- 出血、吸収障害、妊娠、低栄養などの背景を治療・支援する
② 安全対策
- 電池、磁石、鋭利物、薬品、洗剤、塗料片など危険物を手の届かない場所へ移す
- 摂取物と量を記録し、症状があれば速やかに医療者へ伝える
- 子どもや認知症患者では、見守り方法と環境調整を家族・支援者と共有する
③ 行動・心理的支援
- 発達特性や精神疾患が関与する場合は、行動療法や精神科・心理職の支援を検討する
- 叱責や羞恥を与える対応を避け、代替行動と安全な環境を整える
治療効果の確認
- 異食行動の頻度と摂取量
- Hb、MCV、網赤血球、フェリチン、TSAT
- 腹部症状、便通、口腔・歯の状態
- 鉄補充後も異食が続く場合は、他の栄養欠乏や行動・精神的背景を再評価する
看護のポイント(観察事項)
- 否定・叱責せず、摂取物、量、頻度、開始時期を具体的に確認する
- 腹痛、嘔吐、便秘、血便、発熱、意識・呼吸状態を観察する
- 月経量、食事、妊娠、消化器症状など鉄欠乏の背景を確認する
- 子ども、発達障害、認知症患者では家族・介護者からも情報を得る
- Hbだけでなくフェリチン・TSATの回復を確認する
- 鉄剤の服薬状況、消化器症状、黒色便を確認する
- 氷食症の改善は治療反応の手がかりになるが、検査値と合わせて評価する
- 鉄欠乏の原因となる出血源を見逃さない
- 摂取物に応じて救急、消化器科、中毒診療、歯科、精神科、小児科などへつなぐ
- 危険物を除去し、継続的に見守れる環境を整える
- 家族・支援者と、緊急受診が必要な症状を共有する