2024年JCS/JHRS ガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈治療
第3章 心房細動の薬物治療と包括管理
1. 本邦独自の脳梗塞リスク評価ツール: HELT-E2S2 スコア
2. 抗凝固療法高リスクの高齢患者への対応
2.1 腎機能障害
背景:
心房細動と腎機能障害は合併することが多い
お互いに影響する
心房細動は腎機能障害の進行を助長する
腎機能が低下すると心房細動の発症率が増加する
腎機能障害は脳梗塞および大出血双方の危険因子であるため,適切な抗凝固療法を行うことが肝要である。
しかし,DOAC はいずれも腎臓で排泄されるため(腎排泄率はダビガトラン 80%, エドキサバン 50%,リバーロキサバン 35%,アピキサバン 27%),CCr 25 または 30 mL/ 分未満の腎機能障害患者は DOAC の大規模 RCT において除外対象となり,リアルワールドデータも乏しかった.
推奨:
表 20 抗凝固療法高リスクの高齢心房細動患者(腎機能障害)への対応の推奨とエビデンスレベル
- 30 mL/ 分≦ CCr <50 mL/ 分の軽度~中等度腎機能障害患者に対して抗凝固療法を行う(ワルファリンよりも DOAC を 優先する)
- 推奨レベル:Ⅰ
- エビデンスレベル:A
- 15 mL/ 分≦ CCr < 30 mL/ 分の重度腎機能障害患者に対し,DOAC(ダビガトラン以外)を用いた抗凝固療法施行を考 慮する
- 推奨レベル:IIa
- エビデンスレベル:B
- CCr < 30 mL/ 分かつ非透析導入の末期腎機能障害患者に対し,ワルファリンを用いた抗凝固療法施行を考慮してもよい
- 推奨レベル:IIb
- エビデンスレベル:C
- 維持透析患者に対してワルファリンを用いることは推奨されない *(心房細動アブレーション周術期,機械弁術後,脳梗塞既往の場合は使用可)
- 推奨レベル:III No benefit
- エビデンスレベル:B
2.2 低体重
背景:
心房細動患者における低体重は脳梗塞発症の危険因子である.HELT-E2S2 スコアにおいて,BMI < 18.5(HR 1.55)は 6 つの独立危険因子の 1 つとして同定された 352). また,低体重心房細動患者では,全死亡,心血管死の発生率が高いと報告されている 356).
低体重は,加齢,フレイル,慢性腎臓病,癌など他の危険因子や併存疾患に付随することが多い 380).そのため, 低体重患者では抗凝固療法が差し控えられる傾向にある. ワルファリン使用の際には,INR 至適域を維持することが 難しく 357, 381),DOAC 使用においても,血中濃度が上昇し て大出血をきたしやすくなる懸念がある 382).
推奨:
表 21 抗凝固療法高リスクの高齢心房細動患者(低体重,
フレイル,認知症,ポリファーマシー)への対応の
推奨とエビデンスレベル
- 低体重の有無によらず抗凝固療法施行を考慮する
- 推奨レベル:IIa
- エビデンスレベル:B
注意点:
- 腎機能評価:低体重では、標準化 eGFR ではなく、CCr を正確に把握する
- 体重による DOAC の減量基準
2.3 フレイル
背景:
フレイル患者はさまざまな慢性疾患を併存しやすく,心不全,認知症,COPD,糖尿病,慢性腎臓病などの有病率が高い.
また,転倒リスクが高く, 低栄養やポリファーマシーの患者も多い.
したがって,このような背景を持つフレイル患者への抗凝固療法は難しいというのが一般的な考え方であり,超高齢のフレイル患者への抗凝固療法は避けられる傾向にあった.
推奨:
表 21 抗凝固療法高リスクの高齢心房細動患者(低体重,
フレイル,認知症,ポリファーマシー)への対応の
推奨とエビデンスレベル
- フレイルの有無によらず抗凝固療法施行を考慮する
- 推奨レベル:IIa
- エビデンスレベル:B
フレイル患者は多くの併存疾患を有するため出血リスクが高い事実は確認できるものの, 抗凝固療法による塞栓症予防のメリットの方が大きいことを再認識すべきである.
2.4 認知症
背景:
心房細動患者に対する抗凝固療法を行ううえで,認知機能の低下は大きな障壁となる
- 認知機能低下例では転倒および外傷による頭蓋内出血,服薬間違い,低アドヒアランスなどの問題が多くみられるからである
- 経口抗凝固薬がワルファリンのみであった時代においては,用量調整の煩雑さや頭蓋内出血リスクの高 さなどから,認知機能低下患者への抗凝固療法は難しいと 考えるのが一般的であった.
- しかし,DOAC の登場により高齢者への抗凝固療法が簡便になっており,このような患者に対する抗凝固療法を再検討すべき状況にある.
推奨:
表 21 抗凝固療法高リスクの高齢心房細動患者(低体重,フレイル,認知症,ポリファーマシー)への対応の推奨とエビデンスレベル
- 認知機能低下(MMSE ≦ 23 点)の有無によらず抗凝固療法施行を考慮する
- 推奨レベル:IIa
- エビデンスレベル:B
服薬管理が簡便にできる DOAC を用いることを前提に,認知機能が低下した高齢心房細動患者に対しても抗凝固療法を検討することが望ましい.その際,家族や施設,訪問服薬指導など,服薬管理をサポー トする環境を確認する必要がある.
2.5 ポリファーマシー
背景:
心房細動は高齢者に多く,さまざまな心血管疾患や生活習慣病と密接に相関するため,服薬数は必然的に増加する.服薬数の多い心房細動患者に対して抗凝固薬投与を控える必要があるのか,あるいは,特別な減量基準を設定する必要があるのか否かは明らかではない.
高齢心房細動患者において,薬剤数を最小限とすべきという議論はあるが,高齢心房細動患者における多剤併用は負の側面のみを有するものとはいえない.心血管系危険因子である高血圧,糖尿病,慢性腎臓病などへの治療介入や, 心筋梗塞や心不全などに対する予防的介入は,多くの高齢患者に対して生命予後改善や症状緩和につながるものである.
推奨:
表 21 抗凝固療法高リスクの高齢心房細動患者(低体重,フレイル,認知症,ポリファーマシー)への対応の推奨とエビデンスレベル
- ポリファーマシー患者に対して抗凝固療法を行う際には,心血管疾患予防の必要性に十分配慮しつつ薬剤数を最小限とし, 抗血小板薬や NSAIDs など出血リスクを高める可能性のある薬剤の使用を最大限回避する
- 推奨クラス:I
- エビデンスレベル:B
注意:薬剤併用による減量基準を確認
2.6 抗血小板薬使用
背景:
動脈硬化性疾患を合併する心房細動症例に対しては,これまで抗凝固薬と抗血小板薬の併用療法が行われてきた.
推奨:
表 22 抗凝固療法高リスクの高齢心房細動患者(抗血小板薬使用)への対応の推奨とエビデンスレベル
- 抗血小板薬は,原則として使用すべきではない*
- *: PCI 施行後 1 年以内は抗凝固薬と抗血小板薬の併用療法が必要であるが,それ以外は,抗凝固薬の適応となる高齢者における抗血小板薬の使用はむしろ有害である.ただし,ごく一部の症例(ステント血栓症既往例,複雑病変に対する PCI 症例,ワルファリン管理不安定な PCI 症例,左心耳閉鎖デバイス留置症例など)では, 抗血小板薬を使用せざるを得ない場合もあると考えられ,判断に悩む場合は,専門医にコンサルトすることが望ましい.
- 推奨クラス:III Harm
- エビデンスレベル:B
2.7 超高齢高出血リスク
背景:
4 種類の DOAC は,いずれも標準用量と減量用量の 2 種類の用量があり,患者特性に応じて選択する
エリキュース:超高齢(80歳以上)減量基準あり
推奨:
表 23 抗凝固療法高リスクの高齢心房細動患者(超高齢高出血リスク)への対応の推奨とエビデンスレベル
- 承認用量での抗凝固薬投与が困難な超高齢高出血リスク* 患者に対して,エドキサバン 15 mg を開始する
- *:80 歳以上かつ,次の 1 ~ 5のいずれか. 1 15 mL ≦ CCr < 30 mL / 分, 2 体重≦ 45 kg, 3 重要部位での出血既往(脳出血を含む), 4 NSAIDs の常用, 5 抗血小板薬の使用. ただし,4, 5 においては,その必要性をまずは吟味すること.
- 推奨クラス:I
- エビデンスレベル:B
3. 第 Xa 因子(FXa)阻害薬に対する特異的中和薬
4. ジギタリス製剤と心房細動
背景:
心機能低下をともなう心房細動の心拍数調節においては,ジギタリス製剤が有する強心作用で心機能の改善が期 待できることから,臨床で使用されることが多いが、ジギタリス製剤の長期使用による有害性を懸念
「2021 年 JCS/JHFS ガイドラインフォーカスアップデート版急性・ 慢性心不全診療」では,ジギタリス製剤の長期間の使用を推奨クラス III(Harm)と記載した
ジギタリス 製剤はβ遮断薬に比して予後改善効果が劣性
「2020 年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン」3)で は,心機能低下にともなう心房細動の心拍数調節において はβ遮断薬を第 1 選択,ジギタリス製剤を第 2 選択と位置 づけた.
推奨:
本フォーカスアップデートでは,ジギタリス製剤の長期間の使用を推奨クラス III(harm)とまではいえないと考え,推奨クラス IIb(使用可能)に変更した
ジギタリス製剤を使用する時の注意点
血中濃度測定:
年 1,2 回血中濃 度の測定を行い,副作用を疑う嘔気や食思不振などの症状を確認する
推奨: 0.5 ~ 0.8 ng/ mL で管理する
ジゴキシン開始から 1 ヵ月後の血中濃 度が 1.2 ng / mL 以上では死亡率が高いことが報告されている
0.5 ~ 0.8 ng/ mL:死亡率を減少させることが示された
基礎疾患:
心アミロイドーシスや閉塞性肥大型心筋症が基礎疾患に ある場合は,使用は禁忌
ジギタリス製剤はアミロイド蛋白と結合するため 薬剤の感受性が亢進し,致死性不整脈をきたす可能性があ る
薬物相互作用:
ジギタリス製剤は P - 糖蛋白質を基質とする
5. 心房細動と生活習慣管理・包括管理
DOAC 減量基準
プラザキサ(ダビガトラン)
- 減量考慮(110mg/回を1日2回に減)
- 70歳以上
- 消化管出血既往
- 使用不可
- 人工心臓弁置換術後の抗凝固療法
エリキュース(アピキサバン)
- 減量考慮(2.5mg/回を1日2回に減):適応症①
- 80歳以上
- 体重60kg以下
- 血清 Cr 1.5 mg/dL 以上
- 上記3つのうち、2つ以上該当する場合
リクシアナ(エドキサバン)
- 減量考慮
- 体重:60kg
- 腎機能
- 併用薬:P糖タンパク阻害薬
イグザレルト(リバーロキサバン)
- 減量考慮
- 適応症:非弁膜症性心房細動の場合
- 腎機能
第 4 章 市民・患者への情報提供
服薬指導の時の参考になるのでcheck
心臓電気デバイス植込み患者の MRI 撮影について教えてください
心臓電気デバイスのリード抜去について教えてください
心臓突然死を予防するために必要な治療を教えてください
心房細動はすべてカテーテルアブレーションで治るのですか?
心房細動に対する抗凝固薬はいつまで飲み続けるのですか?
心房細動になったら,日常生活はどんな点に気をつければよいですか?