高齢者の医薬品適正使用の指針 各論編(療養環境別)

高齢者の医薬品適正使用の指針 各論編(療養環境別)
2019 年6 月
厚生労働省
高齢化の進展に伴い、加齢による生理的な変化や複数の併存疾患を治療するための医薬品の
多剤服用等によって、安全性の問題が生じやすい状況があることから、平成29年4月に「高齢者
医薬品適正使用検討会」を設置し、安全性確保に必要な事項の調査・検討を進めている。
本指針は、「高齢者医薬品適正使用ガイドライン作成ワーキンググループ」で議論を重ねて
作成された指針案をもとに、「高齢者医薬品適正使用検討会」で検討され、取りまとめられたもの
である。
高齢者医薬品適正使用検討会(平成31年4月24日現在)
○秋下 雅弘 一般社団法人 日本老年医学会 副理事長
東京大学大学院 医学系研究科 加齢医学講座 教授
荒井 美由紀 日本製薬団体連合会 安全委員会 委員長
池端 幸彦 一般社団法人 日本慢性期医療協会 副会長
◎印南 一路 慶應義塾大学総合政策学部 教授
大井 一弥 一般社団法人 日本老年薬学会 理事
鈴鹿医療科学大学薬学部 教授
北澤 京子 京都薬科大学 客員教授
城守 国斗 公益社団法人 日本医師会 常任理事
熊谷 雅美 公益社団法人 日本看護協会 常任理事
斎藤 嘉朗 国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部長
島田 光明 公益社団法人 日本薬剤師会 常務理事
林 昌洋 一般社団法人 日本病院薬剤師会 副会長
伴 信太郎 一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会 理事
樋口 恵子 NPO法人 高齢社会をよくする女性の会 理事長
平井 みどり 兵庫県赤十字血液センター 所長
水上 勝義 公益社団法人 日本精神神経学会
溝神 文博 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 薬剤部
美原 盤 公益社団法人 全日本病院協会 副会長
三宅 智 特定非営利活動法人 日本緩和医療学会
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
山中 崇 一般社団法人 日本在宅医学会 理事
◎座長、○座長代理 (五十音順、敬称略)
高齢者医薬品適正使用ガイドライン作成ワーキンググループ (平成31年4月24日現在)
◎秋下 雅弘 一般社団法人 日本老年医学会 副理事長
東京大学大学院 医学系研究科 加齢医学講座 教授
池端 幸彦 一般社団法人 日本慢性期医療協会 副会長
大木 一正 公益社団法人 東京都薬剤師会 副会長
株式会社 クリーン薬局 代表取締役
大野 能之 東京大学医学部附属病院 薬剤部
桑田 美代子 医療法人社団慶成会 青梅慶友病院 看護部
清水 惠一郎 一般社団法人 東京内科医会 副会長
阿部医院 院長
髙瀬 義昌 一般社団法人 日本在宅医学学会
医療法人社団至髙会 在宅療養支援診療所 たかせクリニック理事長
仲井 培雄 一般社団法人 地域包括ケア病棟協会 会長
芳珠記念病院 理事長
○永井 尚美 武蔵野大学薬学部 教授
浜田 将太 一般財団法人 医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構 研究部
水上 勝義 公益社団法人 日本精神神経学会
溝神 文博 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 薬剤部
◎主査、○副主査 (五十音順、敬称略)
その他執筆協力者
大河内 二郎(社会医療法人若弘会 介護老人保健施設竜間之郷)、小島 太郎(東京大学医学部附属病院)
榊原 幹夫(公益財団法人 杉浦記念財団)、那須 いずみ(虎の門病院)
(五十音順、敬称略)
ー目 次ー
はじめに 2
第1部外来・在宅医療・特別養護老人ホーム等の常勤の医師が配置されていない施設 9
第2部急性期後の回復期・慢性期の入院医療 15
第3部その他の療養環境
(常勤の医師が配置されている介護施設 等) 21
おわりに 27
⃝参考文献 28
別添
別表1高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点 33
別表2事例集 37
別表3入院(入所)から退院(退所)までの多職種協働による
薬剤調整 54
目次:
はじめに1指針(各論編(療養環境別))の目的2患者の療養環境ごとの多剤服用の現状① 外来・在宅医療・特別養護老人ホーム等の常勤の医師が配置されていない施設図1 同一の保険薬局で調剤された薬剤種類数(/月)の推移②急性期後の回復期・慢性期の入院医療③ その他の療養環境(常勤の医師が配置されている介護施設 等)図2 医療療養病床、介護療養型医療施設及び介護老人保健施設における定期内服薬の変化3各療養環境において共通する留意点① ACPが実践されている場合における薬物療法の適正化② 非薬物的対応の重要性図3 代表的な非薬物的対応③ 多職種の役割、連携第1部外来・在宅医療・特別養護老人ホーム等の常勤の医師が配置されていない施設1処方確認・見直しの考え方●● 処方確認・見直し●● 長期的な安全性とリスク・ベネフィットバランスの視点●● 長期通院中(在宅の場合は長期療養中)の処方確認 等2外来・在宅医療への移行時における留意点 (図4)●● 専門医との協議・連携●● 多職種等からの情報収集と処方見直しプロセスの実施図4 外来・在宅医療等への移行時における留意点3処方検討時の留意点① ポリファーマシー関連の問題の評価② 処方の優先順位と減量・中止表2 モニタリングが必要と考えられる状況の例第2部 急性期後の回復期・慢性期の入院医療1入院時の処方確認・見直しの考え方●● 処方確認・見直し●● 在宅や施設療養への療養環境移行に対する考慮●● 入院前の医師、歯科医師、薬剤師との情報共有2入院中から退院までの留意点(図5)●● 専門医との協議・連携●● 院内多職種等からの情報収集と処方見直しプロセスの実施表4 入院中に評価・対応するべき事項表5 病棟横断的な専門医療退院後の生活に影響を及ぼすチームの例●● 退院に向けた地域のかかりつけ医や薬剤師との連携、情報の引継ぎ図5 回復期・慢性期病棟への入退院時における留意点3処方検討時の留意点① ポリファーマシー関連の問題の評価② 処方の優先順位と減量・中止表6 回復期・慢性期で想定される薬物有害事象とその留意点第3部 その他の療養環境(常勤の医師が配置されている介護施設 等)1入所時の処方確認・見直しの考え方●● 処方確認・見直し●● 長期的な安全性とリスク・ベネフィットバランスの視点2 入所中から退所までの留意点(図6)●● 専門医及びかかりつけの医師、歯科医師、薬剤師との協議・連携(必要に応じて) ●● 多職種等からの情報収集と処方見直しプロセスの実施●● 在宅に向けた服薬環境の調整●● 退所に向けたかかりつけ医や薬剤師との連携、情報の引継ぎ図6 その他の療養環境への入退所時における留意点表7 介護老人保健施設と在宅医療の間の連携ツール3処方検討時の留意点① ポリファーマシー関連の問題の評価② 処方の優先順位と減量・中止おわりにー 参 考 文 献 ー参考文献別 添別表1 高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点別表2 事例集別表3 入院(入所)から退院(退所)までの多職種協働による薬剤調整*

はじめに

1指針(各論編(療養環境別))の目的

「高齢者の医薬品適正使用の指針」は、ポリファーマシー※1 における診療や処方の際の参考情報を医療現場等へ提供することを意図して作成された。つまり、単なる減薬ではなく、高齢者の薬物療法の適正化(薬物有害事象の回避、服薬アドヒアランスの改善、過少医療の回避)を目指すためのものである。そして、今般の各論編(療養環境別)では、患者の病態、生活、環境の移行に伴い関係者にとって留意すべき点が変化することを念頭に、患者の療養環境ごとの留意事項を明らかにすることを目的とした。
療養環境を「外来・在宅医療・特別養護老人ホーム等の常勤の医師が配置されていない施設」、「急性期後の回復期・慢性期の入院医療」、「その他の療養環境(常勤の医師が配置されている介護施設 等)」の3部に分け、各療養環境に特徴的な点として、処方確認・見直しの考え方、療養環境移行時や移行後の留意点、処方検討時の留意点等について記載した。
なお、急性期の入院医療に関する留意事項については、「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」(以下「総論編」という。)を参照いただきたい。また、総論編に記す「薬剤見直しの基本的な考え方及びフローチャート」は、各療養環境のいずれにも関係する共通の留意事項として、参照いただきたい。
各論編(療養環境別)の主たる利用対象は総論編と同様、医師、歯科医師、薬剤師とするが、とりわけここで対象としている療養環境では、服薬支援、情報共有等で看護師や他の職種の関わりも重要である。そのため、医師、歯科医師、薬剤師以外の職種が関与する場合、その職種と役割を記載した。
また、ポリファーマシーの解消については、患者や家族へ丁寧に説明し、時間をかけて内容を十分に理解いただくとともに、治療の選択と同意を得ることが必要となる。
なお、患者、家族などの方々が本指針を目にされた場合は、医薬品の服用等に関して自己判断せずに、気になる点があれば医療関係者に御相談願いたい。
※1:多剤服用の中でも害をなすものを特にポリファーマシーと呼ぶ。ポリファーマシーは、単に服用する薬剤数が多いことではなく、それに関連した薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下等の問題につながる状態である。

2患者の療養環境ごとの多剤服用の現状

高齢者の多剤服用自体は必ずしも本指針の定義するポリファーマシーとは限らないが、多剤服用はアドヒアランスの低下や薬物間相互作用の問題等につながるリスク因子のひとつであり、処方の確認・見直しの際の目安となる。また、処方薬剤種類数が多いことと「特に慎重な投与を要する薬物」(Potentially Inappropriate Medications;PIMs)の処方の間には関連がある。我が国における療養環境別の多剤服用の現状を以下に示す。

① 外来・在宅医療・特別養護老人ホーム等の常勤の医師が配置されていない施設

全国の保険薬局における処方調査によると、65~74 歳の3割及び75歳以上の4割でそれぞれ5種類以上の薬剤が処方されており、ここ数年で大きな変化はない(図1)。保険薬局585 施設を対象とした別の調査によると、PIMs の処方は高齢者の約1/4 でみられ、ベンゾジアゼピン系催眠鎮静薬/抗不安薬や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が多く使われている1。また、一般病院の外来で慢性疾患を治療中の65 歳以上の患者において、一般用医薬品やサプリメントの定期的な使用は約1/3 にみられ、そのうち、それらの使用を医師に伝えていたのは約30%に過ぎなかったことが報告されている。 薬剤師が訪問している在宅療養患者において、内服薬剤種類数は中央値で7種類であったという報告がある。薬剤師が訪問時に薬物有害事象を見つけるケースでは、催眠鎮静薬・抗不安薬、精神神経用剤、その他の中枢神経系用薬のいずれかが被疑薬に含まれることが多く3、薬物有害事象と関連する因子の一つとして、内服薬剤種類数が多いことが示唆されている。首都圏の一市町村において、75 歳以上の在宅療養患者及び特別養護老人ホーム入所者を対象に1か月間の処方調査(頓服の内服薬を含む)を行ったところ、それぞれ約6割及び約4割で6種類以上の処方がみられた。よく使われているPIMs は両者で共通しており、催眠鎮静薬、利尿薬及びH2 受容体拮抗薬が多かった

図1 同一の保険薬局で調剤された薬剤種類数(/月)の推移

(a)65~74 歳、(b)75 歳以上
(社会保険診療行為別調査/統計)

②急性期後の回復期・慢性期の入院医療

回復期リハビリテーション病棟及び地域包括ケア病棟への入院(転棟を含む)患者を対象とした調査では、解析対象となった病院あるいは患者が限定的であることに注意を要するが、入院以降、薬剤種類数にあまり変化はみられなかった。よく使われているPIMsとしては、催眠鎮静薬・抗不安薬、利尿薬及びNSAIDsが多かった。地域包括ケア病棟において、在宅・生活復帰支援に向けたポリファーマシー対策に取り組んでいる施設は約20%であり、今後の取り組みの増加が期待される。医療療養病床では、図2に示すとおり、入院後、定期内服薬の減少傾向がみられている。よく使われているPIMsとしては、利尿薬及び催眠鎮静薬・抗不安薬が多かった

③ その他の療養環境(常勤の医師が配置されている介護施設 等)

介護療養型医療施設及び介護老人保健施設においても、入所後に定期内服薬の薬剤種類数の減少傾向がみられている(図2)。介護療養型医療施設でよく使われているPIMsとしては、利尿薬、催眠鎮静薬・抗不安薬及びH受容体拮抗薬が多かった。介護老人保健施設では、8割以上の医師が利用開始時に薬物治療の見直しを検討するという調査結果もある

図2 医療療養病床、介護療養型医療施設及び介護老人保健施設における定期内服薬の変化

 

3各療養環境において共通する留意点

ポリファーマシー対策として、現在服用している処方の確認・見直しを検討する過程において、アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning;ACP)(以下「ACP」という。)や非薬物的対応の視点、患者を共に支える多職種の連携は重要である。これらについて、各療養環境において共通する留意点として以下に示す。

① ACPが実践されている場合における薬物療法の適正化

ACPは人生の最終段階における医療やケアについて患者本人が家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合うプロセスであり(一般の方に向けた愛称は「人生会議」)、病期に応じて様々な手法がとられる。ポリファーマシー対策を含む薬物療法の適正化についても、患者・家族の意向を確認・尊重することが重要である。

② 非薬物的対応の重要性

●● 生活習慣の改善、環境調整、ケアの工夫
高齢者の種々の療養環境において、薬物療法以外の手段による疾病の予防と治療、健康増進を実行することなどは、薬物療法と同様に重要である。それらは自助・互助としての生活習慣の改善、環境調整、ケアの工夫や、専門職が実施する運動療法、食事療法、心理療法、リハビリテーションなど多岐にわたる(図3)。
高齢者は、薬物有害事象によって、ふらつき、転倒、食欲低下、便秘、抑うつ、認知機能低下といった老年症候群が生じることがあり、そのリスク回避のためにも、薬物療法に先んじて患者の状態に応じた実施可能な手段を講じることが推奨される。
認知症の高齢者に対する非薬物的対応としては、認知症ケア、認知機能訓練、認知刺激、認知リハビリテーション、運動療法、芸術療法、回想法などが一般的に行われ、環境調整、介護者に対するサポート、介護保険サービスの導入なども効果的である。特に認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)の治療にあたっては、薬剤の使用により錐体外路症状や過鎮静など日常生活動作(Activities of Daily Living;ADL)に影響を与える薬物有害事象が生じやすいため、緊急対応が求められる場合を除き、まずは非薬物的対応を行うことが望ましい。
●● 薬物療法への切り替えの検討
非薬物的対応では効果が不十分又はそれらの実施が困難と考えられた場合、薬物療法への切り替えを検討する。なお、緊急対応が必要なBPSD、疼痛、急性疾患等に対しては、非薬物的対応に加えて薬物療法も必要な場合が多い。例えば非薬物的対応を実施したにもかかわらず生活に支障を来す痛みがある場合には、消炎鎮痛薬を頓服で使用することも考慮する。
●● 薬物療法からの切り替えの検討
認知症治療薬、催眠鎮静薬・抗不安薬、消炎鎮痛薬等を長期間服用しても状態の改善が認められない場合は、非薬物的対応への切り替えを検討するとともに、減薬又は薬物療法の中止を考慮する。
 

図3 代表的な非薬物的対応

③ 多職種の役割、連携

●● 地域包括ケアを担う医療・介護関係者等との協力、施設内又は地域内の 多職種での情報共有とチームの形成
処方の確認・見直しは、医師、歯科医師、薬剤師が中心となるが、生活の質(Quality of Life;QOL)の維持向上を共通の目的として、高齢者の日常生活の様子等に関する有用な情報を持ち、服用状況の管理や服薬支援も担う他職種との連携が必要である。表1に各職種の役割を示す。
地域の多職種が日常的に連携する方法として、異なる職種が同時に患者宅を訪問するほか、電話やFAXによる相談、情報共有ツールの活用などが行われている。また、サービス担当者会議や施設内で開催されるケア会議に医師、歯科医師、薬剤師が参加し、患者の療養状態を共有した上で処方を確認し、必要に応じて見直すことも有効な方法である。その場合、医師、歯科医師は医療・介護サービスを提供するスタッフに対し、薬物療法を行う上での留意点、観察すべき症状、服薬支援の方法を具体的に伝えるように努める。
表1 各職種の役割
職 種役 割
看護師服用管理能力の把握、服薬状況の確認、服薬支援 ADL の変化の確認、薬物療法の効果や薬物有害事象の確認、多職種へ薬物療法の効果や薬物有害事象に関する情報提供とケアの調整
歯科衛生士口腔内環境や嚥下機能を確認し、薬剤を内服できるかどうか(剤形、服用方法)、また薬物有害事象としての嚥下機能低下等の確認
理学療法士 ・作業療法士薬物有害事象、服薬に関わる身体機能、ADL の変化の確認
言語聴覚士嚥下機能を評価し、内服可能な剤形や服用方法の提案薬物有害事象としての嚥下機能低下等の評価
管理栄養士食欲、嗜好、摂食量、食形態、栄養状態等の変化の評価
社会福祉士等入院(所)前の服薬や生活状況の確認と院内(所内)多職種への情報提供、退院(所)に向けた退院先の医療機関・介護事業所等へ薬剤に関する情報提供
介護福祉士服薬状況や生活状況の変化の確認
介護支援専門員各職種からの服薬状況や生活状況の情報集約と主治の医師、歯科医師、薬剤師への伝達、薬剤処方の変更内容を地域内多職種と共有
●● 地域包括ケアを担う医療・介護関係者等との留意点の共有 等
疾病を抱えても、自宅等の住み慣れた生活の場で療養し、自分らしい生活を続けられるためには、地域における医療・介護の関係職種が連携して、包括的かつ継続的な医療・介護を提供することが必要となる。かかりつけ医を中心とした訪問診療など、一元化された形での診療により、効果的かつ日々の変化に対応しやすい医療が提供可能となる。そのため、患者が退院・退所する場合には、入院・入所中に各職種が共有していた情報を、地域の多職種と共有することが望ましい。医師、歯科医師からの診療情報提供書に加えて、薬剤師から薬局薬剤師に向けた薬剤情報提供書など、地域の医師会、歯科医師会、薬剤師会等と情報を提供するための手段等をあらかじめ策定しておき、療養環境移行時に起こりうる処方変更に関する情報を共有する工夫が必要である。このように地域での効果的かつ安全な薬物療法が実践できるよう、医師、歯科医師、薬剤師は、かかりつけ機能を発揮し、療養環境の移行時にも医療情報が途切れないように配慮したい。
また、患者が入院・入所した場合でも、退院・退所により再び地域に戻って来るため、退院・退所の際にはこれまでの医療・介護のスタッフによるサービスが再開されることが望まれる。
●● お薬手帳等を活用した連携・協働
療養の場を問わず、お薬手帳を活用した医師、歯科医師、薬剤師、その他の医療スタッフの連携・協働が望まれる。薬剤を適正に処方するためには、医師、歯科医師、薬剤師は、患者の状態を把握し、その時点で服用している全ての薬剤を把握することが不可欠であり、患者が医療機関や薬局で薬剤を受け取る際にお薬手帳を活用するよう促す必要がある。また、処方された薬剤の他、一般用医薬品等の使用状況を把握することも重要である。さらに、病名、血圧等の所見、肝・腎機能等の検査値、処方変更の理由などもお薬手帳等へ適宜記入することが望ましい。
一方で、お薬手帳で全ての薬剤が管理されているとは限らないため、記載されている情報が不十分である可能性を念頭に置きつつ、関係する医療スタッフと連携し、情報を補完する姿勢も必要である。
●● 服薬アドヒアランスの改善
医師、歯科医師、薬剤師は、患者及び家族、医療・介護スタッフからの情報を基に服薬状況を評価するとともに、処方内容のみならず、服薬アドヒアランス上の問題点の有無を確認する視点も必要である。認知機能低下、難聴、視力低下、嚥下機能障害などによりアドヒアランス※2の維持が困難な場合には、その原因を考察し、服薬の維持・改善に努めるべく服薬を支援する方法を具体的に提案した上で処方の見直しを検討する。なお、具体的な服薬アドヒアランス低下の要因については総論編の表2を、処方の工夫や服薬支援については総論編の表3を参照いただきたい。
服薬アドヒアランスを維持するためには、早めに家族などの互助も取り入れ、習慣化することが望ましい。残薬が多い場合には、処方日数の調整だけでなく、残薬が発生する要因を聞き出し、服薬環境に合わせた服用回数の調整を行う必要もある。認知症の高齢者では、服用状況を管理できない可能性が高いため、服薬補助者を決めて、残薬と空包の確認を習慣化するなどにより、在宅等でも管理可能な期間を延長することができる。また、服薬補助者による管理が難しい場合は、薬剤を服薬カレンダーへセットするなどの方法によって、アドヒアランスを確認することが望ましい。本人又は服薬補助者が、お薬手帳を用いて医師、歯科医師、薬剤師に服薬状況を伝えることで、残薬を確認できるだけでなく、医師、歯科医師は症状と薬効との関係を把握し、必要に応じて処方を見直し、服薬を継続させることが可能となる。
※2:アドヒアランスとコンプライアンス:服薬行為における遵守に対する用語として、アドヒアランスは「患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って服薬すること」に対し、コンプライアンスは「患者が医療関係者の指示通り治療を受けること」である。患者との相互理解という点でアドヒアランスを用いるのが最近では一般的であるが、理解や意思決定の困難な患者ではコンプライアンスに該当する場合もある。
 

第1部外来・在宅医療・特別養護老人ホーム等の常勤の医師が配置されていない施設

第1部では、外来、自宅やサービス付き高齢者向け住宅等における在宅医療、特別養護老人ホーム等の常勤の医師が配置されていない施設における考え方及び留意事項について記す。

1処方確認・見直しの考え方

●● 処方確認・見直し

医師、歯科医師が初診患者を診療する際に、問診やお薬手帳から処方経過も含めた処方薬剤の情報を収集するが、正確に医師、歯科医師に報告されない場合や、お薬手帳に全ての薬剤情報が記載されていない場合がある。定期的・継続的に外来通院する患者であっても、他院での治療・処方経過をその都度報告するとも限らないため、定期的に確認を行う必要がある。
在宅医療を始めるにあたっては、診療情報提供書やお薬手帳などを活用し、全ての処方薬剤を把握する必要がある。在宅医療継続中は、かかりつけ医が総合的に医学的管理を行っているため、外来通院時よりも処方薬剤の把握が容易であるものの、一般用医薬品等の使用状況は本人等が申告しないと確認することが困難であるため、患者や家族、介護スタッフ等からよく聴取して把握する必要がある。一方、特別養護老人ホームなどの施設では、施設スタッフが服薬支援を行うため、一般用医薬品等の使用状況を確認する作業は比較的確実に行われている。
外来・在宅医療の診療を担当する地域の診療所においては、かかりつけ医として、身体機能や認知機能、家庭環境などの患者背景を把握していることが多い。そのため、高齢者総合機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment;CGA)などの手法を用いて身体機能や認知機能、気分・意欲、家庭環境、社会背景の評価を行うとともに、家族、介護支援専門員、訪問看護師、介護スタッフなどからも情報を得て、服薬アドヒアランスの低下や服薬困難な状況の有無についても確認し、治療方針や処方の見直しの検討を定期的に行うことが期待される。
処方を見直す際には、必要に応じてACP等を通じて、患者本人の価値観に基づく意思決定支援を行うほか、認知症や意識障害等により患者が意思表明できない場合には、意思決定支援者としての家族等や医療・ケアチームとともに支援していくことが求められる。
薬物有害事象の出現時などにおいて、ポリファーマシーが確認された場合、処方の減量・中止を検討する。特に高齢者における薬物有害事象は薬剤起因性老年症候群のように発現がわかりにくいこともあるため、発現したあらゆる症状と薬物有害事象との関連性を考慮する。

●● 長期的な安全性とリスク・ベネフィットバランスの視点

医師、歯科医師は、疾患による症状の有無や重症度を適宜観察し、薬剤の追加、減薬、維持について判断する。特にADLや機能障害の有無、心理状態など、高齢患者の予後に影響を与えうる因子については、必要に応じてCGAを行うなどして変化を観察することが望まれる。歩行障害や認知機能障害がある場合、予防目的に使用している薬剤によるリスクが増大し、ベネフィットが減弱することがあるため、薬剤によるリスク・ベネフィットバランスを考えながら治療方針を見直すことが重要である。
薬剤師は、処方内容の確認・疑義照会にとどまらず、患者の服用管理の実態や、必要に応じて、肝・腎機能等の検査結果の把握に努める。また、医師、歯科医師が確認しにくい情報(残薬や他院通院、家庭環境の変化、一般用医薬品等の使用状況など)の収集を積極的に行い、医師、歯科医師に報告することが求められる。
患者が自宅等の居宅で療養する場合、服薬補助者がいる時間帯に確実に服薬させる体制を整えるなど、患者本人の日常生活の実態も考慮した服薬アドヒアランスの維持を目指すことが望まれる。一方、特別養護老人ホームなどの施設では、施設スタッフが服薬支援を行っているため、外来通院や居宅での療養時よりも、服薬アドヒアランスが確認しやすい状況にある。
居宅は生活の場としてQOLを高く維持できる快適な環境であり、居宅に可能な限り長く過ごせるようにすることも重要である。疾患の効果的な治療を目標にするだけでなく、療養環境の整備、メンタルケア、栄養管理や口腔ケアを含めたヘルスケア、緩和ケア等を行うことが重要である。また、薬物有害事象によるふらつき・転倒などのQOLを低下させる症状の治療にも配慮し、薬剤服用期間中の状態を継続的に把握して、定期的に処方内容を確認する必要がある。

●● 長期通院中(在宅の場合は長期療養中)の処方確認 等

患者の状態が安定している期間は同じ薬剤を継続する場合も多いが、長期療養中に他院から処方されている薬剤が変更される場合や疾患や身体機能の変化により、薬剤の種類や量の変更が必要になることや、処方の変更に伴って服薬状況が変化することもある。そのため、療養環境の変化を問わず常に全ての使用薬剤を把握し、必要に応じて処方内容を見直すように努める必要がある。

2外来・在宅医療への移行時における留意点 (図4)

●● 専門医との協議・連携

地域のかかりつけ医は、退院前カンファランス等を活用して病院の専門医から処方内容を含めた治療の状況及び処方理由を的確に引き継ぎ、疾患の状態と療養の状況を総合的に評価し、退院後の生活にあわせた処方を検討する。また、退院後、身体機能に変化が認められた場合には、処方薬剤の追加・変更又は中止について検討するとともに、患者の状態が安定している場合であってもそれまでの処方を継続する必要性を評価する。その際、医師、歯科医師の専門領域が異なるために処方見直しの判断が難しい場合には、病院の専門医との連携を検討することが望ましい。

●● 多職種等からの情報収集と処方見直しプロセスの実施

退院後、高齢者の生活機能や支援体制によっては、入院中と同じ薬剤を管理し服用することが困難となる場合があり、このような場合には服薬アドヒアランスの低下とともに病状が悪化する可能性を考慮する必要がある。また、退院後に活動量や食事量が増加するなど、生活状況が変化することに伴って、処方の見直しが必要になることもある。そのため、患者の治療やケアにかかわる多職種とサービス担当者会議等を通じて情報を共有し、療養環境に合わせた処方の見直しや服薬支援の方法を検討する必要がある。
 

図4 外来・在宅医療等への移行時における留意点

3処方検討時の留意点

① ポリファーマシー関連の問題の評価

外来や在宅医療の場合、診療科・医療機関が複数あるために全体像を把握できていないことが多く、お薬手帳などで重複処方や薬歴を把握しながら、処方理由も含めて確認することが重要である。
なお、療養環境の移行を繰り返す過程で、前医への確認を経ても処方理由が判然としない薬剤を継続服用している場合には、薬剤の中止を検討することが望ましい。

② 処方の優先順位と減量・中止

●● 外来・在宅で想定される状況とモニタリング
外来・在宅医療においては、医師をはじめとする多職種にとって処方変更後の効果や薬物有害事象を詳細にモニタリングすることが難しいため、特に減量・中止は、病状悪化に備えて緩徐に実施することが求められる。また、患者本人が薬を管理しなければならないことが多いため、服薬アドヒアランスを確認しつつ、効果と薬物有害事象の評価を行うことが重要となる。その際は、例えば薬剤師が居宅等を訪問してモニタリングを行うなど、かかりつけ医と連携することが求められる。
外来・在宅医療では、要支援・要介護の状況や車の運転等の日常生活に関する状況も考慮する必要がある。
また、一般用医薬品等の使用は、医薬品との併用で注意が必要な場合もあることから、含有成分を確認した上で使用中止も検討する必要がある。
外来・在宅療養において想定される状況の例を表2に記す。

表2 モニタリングが必要と考えられる状況の例

⃝NSAIDsを長期に服用している場合
⃝抗コリン作用を有する薬剤等を長期に服用している場合
⃝便秘を患っており、下剤を服用している場合
⃝骨粗鬆症治療薬を服用している場合(顎骨壊死の予防)
⃝催眠鎮静薬・抗不安薬を長期に服用している場合
⃝認知症治療薬を使用している場合、BPSDで抗精神病薬等を服用している場合⃝高用量の利尿薬を服用している場合
⃝残薬が多い(服薬アドヒアランスが悪い)場合
⃝処方理由の不明な薬剤を服用している場合
⃝複数の医療機関からの投与期間が重複している場合
 
●● 施設で想定される状況とモニタリング
施設において減薬するためには、看護・介護職のモニタリング支援が必要になるため、看護・介護職向けの定期的な勉強会や日々の業務において、薬物療法に関する積極的な情報提供を行うとともに、減薬する際は、できる限り減薬のタイミングや減薬後のモニタリングの内容や方法について明確に伝えることが重要である。
また、施設長(経営者)は、施設の運営を統括し、その方針について入居者と家族へ説明し理解を求める立場にある。そのため、施設長にもポリファーマシーの趣旨を理解していただき、ともにポリファーマシーに対する施設の基本方針を策定、共有することが望ましい。
 

第2部 急性期後の回復期・慢性期の入院医療

第2部では、急性期後の医療のうち、主に回復期の医療を担う地域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟等と、主に慢性期の医療を担う医療療養病棟や障害者病棟等での入院医療における考え方及び留意事項について記す。

1入院時の処方確認・見直しの考え方

●● 処方確認・見直し

回復期・慢性期では、前医からの情報提供に加えて病棟配置の各専門職から得た情報を基に、入院担当医が病状、認知機能、栄養状態、入院前の生活環境等の多面的要素について、CGA等を利用して総合的に評価した上で処方することが求められる。一方で、急性期病院の入院前における慢性疾患のための処方が、急性期の病状や治療に伴い変更又は中止されることもある。このため、急性期に追加した薬剤のうち、病状の安定に伴い減量・中止できる薬剤の有無や、急性期に中止した薬剤の再開などについての検討が求められる。処方を見直す際は、必要に応じてACP等を通じて患者本人の価値観に基づく意思決定支援を行い、認知症や意識障害等により、患者が意思表明できない場合には、意思決定支援者としての家族等や医療・ケアチームとともに支援をしていくことになる。

●● 在宅や施設療養への療養環境移行に対する考慮

急性期では医師、歯科医師、薬剤師などの医療スタッフによって服薬コンプライアンスが確保されるが、回復期・慢性期では、その後の療養環境移行を考慮した処方見直しの検討が求められるため、特に長期処方となることが想定される在宅医療へ移行する場合には、認知機能の低下等によるアドヒアランスの低下に留意する必要がある。処方見直しに際しては、患者本人・家族等を交えた入退院支援カンファランス等を通じて、服用管理能力の把握と移行先での生活やサポートする同居者の有無を見据えた工夫や服薬支援を考える必要があり、急性期病院の入院前から関わっていた介護支援専門員等からの情報が有用となる。

●● 入院前の医師、歯科医師、薬剤師との情報共有

回復期・慢性期病棟への入院に際しては、表3に示すとおり急性期病院に入院した時のCGAや、専門医からの病状や治療方針などの情報に加えて、急性期病院入院前における状況等についても共有しておくことが望ましい。
 
表3 情報共有が望まれる事項
⃝急性期病院入院時のCGA
⃝急性期における処方内容
⃝治療の中心となる薬剤及び観察項目とその対応
⃝急性期における病状や専門医の治療方針
⃝急性期における生活支援の内容とアセスメント
⃝今後の療養環境を想定した増悪時の対応
⃝急性期病院入院前の状況(CGA、生活支援、処方状況)

2入院中から退院までの留意点(図5)

●● 専門医との協議・連携

回復期・慢性期は急性期に比べて入院期間が長くなることを考慮の上、イニシアティブを持つ入院担当の医師が疾病ごとの専門医と協議し、継続が必要な薬剤と減薬可能な薬剤の有無について検討し、処方見直し後の患者の観察項目を共有する。加えて、その疾患の増悪時の対応などに対し、十分に連携する必要がある。

●● 院内多職種等からの情報収集と処方見直しプロセスの実施

処方が確定した後も、日々の病棟業務において、薬剤師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士、介護職種などの医療・介護スタッフは患者の状態を把握し、変化が認められた場合は入院担当の医師に連絡する必要がある。
ポリファーマシーによる影響が疑われた場合には、入院担当の医師・歯科医師は薬剤師やその他の職種と共に退院後の生活に大きな影響を及ぼすと考えられる事項(表4)等について、評価と非薬物的対応(図3)を検討する。また、専門医療チーム(表5)や、病棟配置の薬剤師や他職種と連携して、リハビリテーションや栄養管理、認知症ケア等を包括的に患者へ提供することも重要である。

表4 入院中に評価・対応するべき事項

⃝血圧低下や覚醒レベルの低下の有無
⃝摂食・服薬に必要な嚥下機能の有無
○サルコペニアや栄養過多等の有無
○認知機能の低下レベルやBPSDの有無
○服薬アドヒアランスの低下の有無
○睡眠障害の有無

表5 病棟横断的な専門医療退院後の生活に影響を及ぼすチームの例

⃝栄養サポートチーム
⃝皮膚・排泄ケアチーム
⃝褥瘡対策チーム
⃝緩和ケアチーム
⃝認知症ケアチーム

●● 退院に向けた地域のかかりつけ医や薬剤師との連携、情報の引継ぎ

退院時には、入院中に薬剤の変更、中止が行われた理由や処方変更後の状態について、地域のかかりつけ医や薬剤師に十分に情報提供する必要がある。入院中に変更した薬剤がコミュニケーション不足により変更前の処方に戻されることは避けたい。また、急性期病院に入院する以前に複数の医師、歯科医師が処方していた場合、入院前の療養環境に戻っても適正な服薬が維持されるように、退院に向けて、今後の処方を取りまとめる医師、歯科医師を決めておくことが推奨される。さらに、退院後の療養において留意すべき観察事項や増悪時の対応などについて関係者間であらかじめ協議を行っておくことが望ましい。
 

図5 回復期・慢性期病棟への入退院時における留意点

3処方検討時の留意点

① ポリファーマシー関連の問題の評価

回復期・慢性期病棟への入院時は、診療科・医療機関が複数関わることにより生じた重複処方や、前医への確認を経ても処方理由の把握が判然としない処方の整理を行う良い機会である。身体機能や活動性の低下に伴い薬物有害事象(過降圧、低血糖、転倒、せん妄など)が起こりやすくなるため、「現在の患者の状態」に対応した処方であるかを評価することが重要である。

② 処方の優先順位と減量・中止

●● 回復期・慢性期で想定される状況とモニタリング
回復期・慢性期移行時には、病態の変化に伴い、これまで見られなかった薬物有害事象が発現することがあるため、特に一度見直した処方であっても評価をあらためて行うべきである。それまで必要であった薬物療法でも、表6に示すような身体機能や活動の低下により薬物有害事象のリスクが増大してベネフィットを上回ると考えられた場合は、処方内容の変更を検討する。さらに、複数の同種同効薬を使用する場合、薬効の重複に伴い薬物有害事象のリスクが高くなることも考慮し、必要に応じて一部の薬剤の減量・中止を検討する。また、薬物有害事象の発現を伴わないPIMsや処方理由が不明確な処方は処方見直しの対象からは見落とされがちではあるが、薬物有害事象の未然回避、重篤化防止の観点から対応を行うことが推奨される。
処方の検討は、常に患者の状態に合わせて評価を繰り返し行うべきである。また、その後の療養環境も見据えて、適切な薬物療法を継続させるための服薬支援も同時に行うことが望ましい。
 

表6 回復期・慢性期で想定される薬物有害事象とその留意点

使用する医薬品想定される薬物有害事象※3及び留意すべき点
高血圧治療薬ストレス軽減や活動性の低下により血圧が過度に降下する場合がある。転倒リスクや意欲低下、認知機能低下につながる恐れがあり、環境に合わせた薬剤の選択が必要である。
糖尿病治療薬食生活の変化や体重減少によるインスリン感受性亢進により、血糖が過度に降下する場合がある。低血糖や低血糖に関連した認知機能低下、転倒・骨折を避けるために、薬剤の種類と量、必要性について再検討を行う。
抗凝固薬腎機能低下による薬効過多、身体機能低下による転倒などにより出血リスクが高まることがある。出血と梗塞のリスク・ベネフィットバランスを評価し、必要性について再検討を行う。
NSAIDsなどの消炎鎮痛薬骨折後などの患者では、やむを得ず使用する事が多いが、NSAIDsは腎機能を低下させるリスクが高いため、短期間かつ低用量で使用することが望ましく、頓服を含めた使用方法に関する検討を繰り返し行う。
緩下薬入院安静に伴い便秘となり、緩下薬を長期使用する場合が多く、マグネシウム製剤では高マグネシウム血症、刺激性下剤では耐性による難治性便秘に留意する。マグネシウム製剤や刺激性下剤以外の緩下薬の使用を含めて、適宜再検討を行う。
催眠鎮静薬・抗不安薬環境移行に伴い不眠になることがある一方で、リハビリテーションなどの日中活動や環境改善の影響で催眠鎮静薬・抗不安薬が無くても眠れるようになることがある。なるべく短期、少量の使用にとどめるなど、慎重に使用する。特にベンゾジアゼピン系薬剤では急な中止により離脱症状が発現するリスクがあることにも留意する。
※3:同種・同効薬を複数使用する場合、薬物有害事象のリスクがさらに高まる。
 

第3部 その他の療養環境(常勤の医師が配置されている介護施設 等)

第3部では、常勤の医師が配置されている介護施設(介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院※4)における考え方及び留意事項について、これらの施設が有する在宅復帰・在宅療養支援の機能、長期療養や看取りの機能に配慮しつつ、記す。
※4:介護医療院:2018 年4月に創設された「日常的な医学管理」「看取り・ターミナル」「生活施設」の機能を備えた介護保険施設。介護療養病床(療養機能強化型)相当のⅠ型、介護老人保健施設相当以上のⅡ型の類型が設けられている。

1入所時の処方確認・見直しの考え方

●● 処方確認・見直し

入所前には、支援相談員や介護支援専門員等が、入所予定者の情報を把握し、利用目的等を確認することになる。その際、支援相談員、薬剤師等は診療情報提供書やお薬手帳などから服薬状況を確認し、得られた情報を医師、歯科医師等と共有する。また、残薬を把握するために、移行元の医療機関の医師、歯科医師や薬剤師に服薬内容及び最近の薬の変更の有無などの情報提供を求めるとともに、患者の自宅を訪問して直接服薬状況を確認することが推奨される。様々な理由で薬剤情報が入手できない場合は、患者が持参した薬剤の鑑別を薬剤師が行う等により、処方されている薬剤の情報を的確に入手することが求められる。
また、入所前の本人や家族に対して、ポリファーマシー対策の重要性や様々な非薬物的対応(図3)の提供について十分に説明し、理解を得ておくことが望ましい。
入所時にあっては、入所前の薬物療法を正確に把握するとともに、必要に応じて入所後の療養に適した薬物療法を検討する観点から、処方の確認・見直しの検討を必ず行うべきである。
在宅復帰・在宅療養を支援する場合は比較的入所期間が短いことが想定されるため、服薬内容に関連した薬物有害事象の有無を積極的に確認すべきである。例えば、ポリファーマシーに、認知症とサルコペニアが伴う場合には、適切な栄養管理とともに、転倒等のリスクを回避しつつ、無理のない機能回復・生活回復リハビリテーションや認知症リハビリテーションを提供するために、薬物有害事象の被疑薬となっている薬剤の変更又は中止について丁寧に説明して同意を得ることが望ましい。同時に、必要な薬剤の追加や比較的使用しやすい剤形への変更などについても検討する必要がある。
一方、長期療養や看取りを主とする場合は、認知症や意識障害等で本人の意思表明ができない場合であっても、ACPを通じて本人の価値観に寄り添い、意思決定支援者としての家族等や医療・ケアチームが繰り返し話し合いながら、人生の最終段階における医療・ケアの意思決定に関するプロセスの実践が推奨される。

●● 長期的な安全性とリスク・ベネフィットバランスの視点

在宅復帰を目指す場合か、長期療養や看取りを目的とする場合かにかかわらず、患者本人の価値観を最大限尊重して、処方見直しの際の意思決定を支援する必要がある。その際は、必要に応じてACPを通じて、総論編のフローチャートに従って処方の見直しを実施することになる。
また、長期療養や看取りを目的とする場合には、身体機能の低下に伴い薬物有害事象のリスクが増大したり、内服薬の服用が困難になることも想定されるため、リスク・ベネフィットバランスの
22
観点から、本人あるいは家族と価値観を共有した上で薬剤の中止を検討することが必要となる。

2 入所中から退所までの留意点(図6)

●● 専門医及びかかりつけの医師、歯科医師、薬剤師との協議・連携(必要に応じて)

処方見直しの必要があると判断した場合は、可能な限り入所前に処方を行っていた医療機関の専門医又はかかりつけ医に連絡し、患者の病態や日常生活に関する情報も含めて情報交換を実施する。

●● 多職種等からの情報収集と処方見直しプロセスの実施

処方見直し後の経過観察は多職種が関わって実践することが望ましい。多職種がそれぞれの役割を踏まえて、患者の状態の変化を捉える必要があり、そのためには、医師、歯科医師による処方見直しの内容を、他職種と確実に情報共有するとともに、薬物有害事象のモニタリング方法を共有する必要がある。例えば、高血圧治療薬であれば血圧、糖尿病治療薬であれば血糖等の測定頻度に関する指示、ベンゾジアゼピン系薬剤や認知症治療薬であれば、活動性や摂食機能の改善の有無、異常行動の出現の有無等のモニタリングすべき項目とその評価指標について、それぞれ共有しておくことが求められる。その際、病状が変化した場合の報告体制の構築と緊急時の対処法の共有も重要である。

●● 在宅に向けた服薬環境の調整

退所前においては出来る限り自宅訪問を行い、薬の保管場所、服薬方法、服用時間等を確認し、服薬が確実になる方法を検討する。例えば、施設の支援相談員や介護支援専門員は、家族が服薬確認できる時間帯を確認し、医師、歯科医師の指示の下、それに合わせて毎食後1日3回の処方を夕食後1回に変更し、それを地域の介護支援専門員と共有する、といった方法が挙げられる。家族や訪問・通所サービスの専門職等の介護者が服薬支援を行う場合には、在宅復帰時に担当の介護支援専門員に対して処方内容と家族が対応できる時間帯についての情報に加えて、薬剤の種類、服薬タイミングの他、突然中止すると病状の急激な悪化を招く可能性のある薬剤の情報等を提供することが望ましい。

●● 退所に向けたかかりつけ医や薬剤師との連携、情報の引継ぎ

入所中に薬剤の変更又は中止が行われた場合には、その理由や変更後の病態について、表7に示す診療情報提供書をはじめとした連携ツールを用いる等により地域のかかりつけ医や薬剤師に十分な情報提供を行う必要がある。入所前のかかりつけ医等がいない場合は、退所に向けて、今後の処方の取りまとめを行う医師、歯科医師などの連携先を決めておくとともに、退所後の療養において留意すべき観察事項や増悪時の対応などについて関係者間であらかじめ協議を行っておくことが望ましい。
 

図6 その他の療養環境への入退所時における留意点

表7 介護老人保健施設と在宅医療の間の連携ツール

連携ツール情報発信元: 介護老人保健施設情報の受取り:在宅医療関係者薬剤に関する記述内容
診療情報提供書管理医師かかりつけ医薬の変更点・服薬に関する注意点
訪問看護指示書管理医師訪問看護師服薬に関する注意点や薬物有害事象の観察のポイント
看護サマリー看護師地域の介護支援専門員服薬に関する注意点や薬物有害事象の観察のポイント
退所前連携支援相談員あるいは介護支援専門員地域の介護支援専門員服薬に関する注意点
お薬手帳薬剤師薬剤師/本人服薬方法・薬の変更点
在宅アドバイス書多職種本人服薬に関する注意点

3処方検討時の留意点

① ポリファーマシー関連の問題の評価

第3部の療養環境は在宅に比べて高齢者介護に精通した多職種がより手厚く関わることができるため、処方見直し後のモニタリングや長期療養の視点で処方の見直し等を行いやすい環境にある。そのため、在宅復帰を目指す場合や、長期療養や看取りを目的とした場合などにおいて、薬剤の種類や服用回数など、患者本人や施設の服薬補助者が服用管理しやすい処方への見直しを検討することが求められる。

② 処方の優先順位と減量・中止

●● 介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院で想定される状況と モニタリング
在宅復帰を目指す場合においては、非薬物的対応による減薬の可能性を検討することが重要である。例えばリハビリテーションの介入により疼痛緩和がなされた場合には、消炎鎮痛薬を減らすことが可能な場合がある。また、認知症短期集中リハビリテーションの開始により催眠鎮静薬・抗不安薬の減量や中止が可能な場合がある。
さらに、退所後の療養環境の変化も踏まえ、アドヒアランスの観点から処方薬剤の優先順位を評価し、減量・中止を検討することも必要となる。特に、長期療養や看取りを行う場合は、ACPを通じて本人の価値観に基づく意思決定支援を行い、処方の確認・見直しの検討を行うことが重要となる。
●● 各施設の処方環境の下での薬物有害事象のリスクの確認
介護老人保健施設等で想定される薬物有害事象のリスクについては、回復期・慢性期と同様に療養環境の移行に伴う病態の変化が想定されるとともに、医療・介護スタッフによるモニタリングが可能な環境にあることから、第2部の表6(P.20)を参照いただきたい。
 

おわりに

おわりに
●● 患者・国民への啓発の重要性
医療関係者がポリファーマシーに取り組んでも、患者と家族を含む一般の方の理解と協力がなければポリファーマシーの解消にはつながらない。したがって、一般の方は本指針の利用対象ではないものの、本指針の基本的内容を患者・国民に啓発していくことが何より重要である。
●● 平易で丁寧な説明と注意喚起
啓発に際しては、ポリファーマシーの問題についての理解が患者・家族には難しい場合もあることを踏まえて、医療関係者からの丁寧な説明や情報提供が必要である。病状や療養環境にもよるが、薬物有害事象のリスクだけでなく、薬剤の減量や中止により病状が改善する場合があるため、すべての病状に対して薬物療法を必要とする場合ばかりではないといった点について、具体的でわかりやすい言葉を用いて説明するように心がけることが重要となる。一方で、自己判断による減薬や中止の危険性に関して注意喚起を行うとともに、服薬状況を医師、歯科医師、薬剤師に正しく伝えることの重要性についても患者・家族に繰り返し理解を求める必要がある。
●● 患者・家族の意向を尊重
最後に、薬物療法及びその適正化は患者・家族の意向を尊重して行わなければならないことを強調しておきたい。意向を直接確認することはもとより、CGA等で得られる生活機能や生活状況、日常の訴えや意見などの情報から患者・家族の意向を推測することが求められる。また、患者・家族の意思決定支援のためにもACPの考え方と手法を積極的に取り入れることも推奨される。
 

ー 参 考 文 献 ー

1) Suzuki Y, et al:Prescription of potentially inappropriate medications to older adults. A nationwide survey at dispensing pharmacies in Japan. Arch Gerontol Geriatr. 2018;77:8-12.
2) Masumoto S, et al:Factors associated with the use of dietary supplements and over-the-counter medications in Japanese elderly patients. BMC Fam Pract. 2018;19(1):20.
3) 恩田光子 ほか:在宅患者における薬物治療に伴う副作用―全国調査からの考察―.薬剤疫学 2016;21(1):1-11.
4) 医療経済研究・社会保険福祉協会:高齢者医薬品安全使用推進事業に係る調査研究 報告書.平成 31年3月.
5) 地域包括ケア病棟協会:平成30年度地域包括ケア病棟の機能等に関する調査.2018年10月4日.
6) 日本慢性期医療協会:療養病床における薬剤使用に関するアンケート集計結果まとめ.第3回高齢 者医薬品適正使用検討会.平成29年7月14日.
7) 全国老人保健施設協会:介護老人保健施設における薬物治療の在り方に関する調査研究事業 報告 書.平成28年3月.
8) 日本老年医学会: 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015.メジカルビュー社,2015
9) 認知症疾患診療ガイドライン作成委員会編,日本神経学会監修:認知症疾患診療ガイドライン 2017.医学書院,2017.
10) 一般社団法人日本老年薬学会「高齢者の多剤処方見直しのための医師・薬剤師連携ガイド作成に関 する研究」研究班編:ポリファーマシー見直しのための医師・薬剤師連携ガイド.南山堂,2018
11) 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会編, 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版. ライフサイエンス出版,2015
12) 日本呼吸器学会COPDガイドライン第5版作成委員会編:COPD診断と治療のためのガイドライン 2018.メディカルレビュー社,2018
13) 特定非営利活動法人 日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン作成委員会編:がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2014年版).金原出版,2014.
 

参考文献

【参考文献の要約】
番号対象と方法主な結果
1)Suzuki Y, et al:Prescription of potentially inappropriate medications to older adults. A nationwide survey at dispensing pharmacies in Japan. Arch Gerontol Geriatr. 2018;77:8-12.
・大手チェーン薬局585薬局で調剤を受けた 65歳以上の患者(180,673人) ・2014年10月に調剤された薬 ※PIMs(potentially inappropriate medications): 高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物・患者の平均年齢76.1歳 ・平均薬剤種類数及びPIMs※の割合は年齢と ともに増加 ・5種類以上の割合は65歳~74歳で27.2%、 75 ~84歳で36.0%、85歳以上で47.3%・PIMsの割合は65 ~74歳で21.7%、75 ~ 84歳で23.5%、85歳以上で25.6%であり、 ベンゾジアゼピン系催眠鎮静薬/抗不安薬 やNSAIDsが多かった。
2)Masumoto S, et al:Factors associated with the use of dietary supplements and over-the-counter medications in Japanese elderly patients. BMC Fam Pract. 2018;19(1):20.
・一般病院の外来で慢性疾患治療中の65歳以 上の患者(729人) ・2016年1~3月 ・一般用医薬品等(健康食品であるビタミン 類、一般用医薬品、漢方薬)の使用・患者の平均年齢75.6歳 ・内服処方薬剤種類数は4種類(中央値) ・一般用医薬品等の使用は237人(32.5%) にみられ、いわゆる健康食品であるビタ ミン類の使用は204人(28.0%)と最も 頻度が高く、一般用医薬品の使用は66人(9.1%)であった。 ・一般用医薬品等の使用を医師に伝えている 患者は30.3%であった。 ・全体の12.2%が5種類以上の処方薬ととも に、一般用医薬品等を使用していた。
3)恩田光子 ほか:在宅患者における薬物治療に伴う副作用―全国調査からの考察―.薬剤疫学 2016;21(1):1-11.
・薬剤師が訪問業務を行っていると回答した 保険薬局3,321薬局に調査票を送付し、 1,890薬局(56.9%)から回答 ・5,447人分の在宅療養患者データ (一つの薬局につき直近5名を上限) ・2013年1~2月 ・内服薬の品目数、副作用(副作用の疑い)の 有無とその具体的内容等・患者の平均年齢79.7歳 ・内服薬剤種類数は7種類(中央値)であり、 主疾患により大差はない。 ・主疾患は循環器疾患、脳梗塞、癌 ・14.4%の患者において薬剤師が訪問時に副 作用(副作用の疑い)を発見 ・副作用(副作用の疑い)の症状の上位は、 めまい・ふらつき・たちくらみ等、消化器障害・被疑薬として、催眠鎮静薬・抗不安薬、精 神神経用剤、その他の中枢神経系用薬のい ずれかが上位3項目に含まれていた。 ・副作用(副作用の疑い)の発生と服用薬剤数 が多いこととの間に関連がみられた。
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番号対象と方法主な結果
4) ① ②医療経済研究・社会保険福祉協会:高齢者医薬品安全使用推進事業に係る調査研究 報告書.平成31年3月.
・75歳以上の在宅療養患者(1,211人)ある いは特別養護老人ホーム入所者(925人)・首都圏の一市町村のレセプトデータ(人口 約40万人、75歳以上人口約4万人) ・処方薬剤種類数(頓服薬を含む) ・2014年10月に調剤された薬 ・併存疾患や組み合わせ等にかかわらずPIMs となる薬剤について、PIMsとして評価・在宅療養患者では、平均処方薬剤種類数は6.5種類であり、60%が6種類以上であった。・特別養護老人ホーム入所者では、平均処方薬剤種類数は4.9種類であり、41%が6種類以上であった。 ・よく使われているPIMsは在宅療養患者/特 別養護老人ホーム入所者で共通しており、 催眠鎮静薬・抗不安薬(26%/19%)、利尿薬(23%/20%)、H2受容体拮抗薬(10%/7%)、 糖尿病治療薬(7%/5 %)及びNSAIDs(7%/4%)に分類される薬剤が多かった。
・日本慢性期医療協会の会員病院 ・回復期リハビリテーション病棟(250人)、 地域包括ケア病床(177人)、医療療養病床(299人)あるいは介護療養型医療施設(44 人)に1か月以上入院/入所し、2018年10 月に退院/退所した65歳以上の患者 ・処方薬剤種類数(頓服指示の記録のある薬 は除外) ・2017年11月に1,045病院に調査票を送付・有効回答が得られた病院は全体で226病院(22%) ・併存疾患や組み合わせ等にかかわらずPIMs となる薬剤について、PIMsとして評価・回復期リハビリテーション病棟への入院患者では、平均処方薬剤種類数は入院時6.9種類であり、入院1か月時及び退院時(死亡退院を除く)6.6種類であった。入院時の62%は6種類以上であり、よく使われているPIMsはNSAIDs(22%)、催眠鎮静薬・抗不安薬(20%)、利尿薬(12%)、糖尿病治療薬(9%)であった。入院以降もPIMsの傾向は同様であったが、NSAIDsの頻度は、入院1か月時15%、退院時(死亡退院を除く)13%と減少傾向がみられた。 ・地域包括ケア病床への入院患者では、平均処方薬剤種類数は入院時6.8種類、入院1か月時6.8種類、退院時7.0種類であった。 入院時の61%は6種類以上であり、よく使われているPIMsは利尿薬(25%)、催眠鎮静薬・抗不安薬(24%)、NSAIDs(14%)、糖尿病治療薬(10 %)であった。なお、PIMsの傾向は、入院1か月及び退院時(死亡退院を除く)も同様であった。 ・医療療養病床への入院患者(入院期間が6か月未満)では、平均処方薬剤種類数は、入院時5.8種類、入院1か月時5.2種類、入院3か月時4.9種類と減少傾向であった。入院時の52%は6種類以上であり、よく使われるPIMsは、利尿薬(25%)、催眠鎮静薬・抗不安薬(25%)であった。入院以降もPIMsの傾向は同様であったが、催眠鎮静薬・抗不安薬の頻度は、入院1か月時22%、入院3か月時18%と減少傾向がみられた。
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参考文献
番号対象と方法主な結果
・介護療養型医療施設への入所者(入所期間が6か月未満)では、平均処方薬剤種類数は、入所時4.1種類、入所1か月時4.0種類、入所3か月時3.4種類と減少傾向であった。入所時の34%は6種類以上であり、よく使われるPIMsは、利尿薬(20%)、催眠鎮静薬・抗不安薬(18%)、H2受容体拮抗薬(16%)であった。
5)地域包括ケア病棟協会:平成30年度地域包括ケア病棟の機能等に関する調査.2018年10月4日.
・地域包括ケア病棟(病床)を有する病院・2018年6月に2,232病院に調査票を送付・500病院(22.4%)から回答・在宅・生活復帰支援のための院内多職種協働の取り組みについて、ポリファーマシー対策に「取り組んでいる又は2018年度内に取り組む予定」とされた病院は96病院(19.2%)であった。
6)日本慢性期医療協会:療養病床における薬剤使用に関するアンケート集計結果まとめ.第3回高齢者医薬品適正使用検討会.平成29年7月14日. ※各論編(療養環境別)の作成にあたり、医療療養病床/介護療養型医療施設別の追加分析を実施
・日本慢性期医療協会の会員病院 ・2017年5月に1,024病院に調査票を送付・病院基本シートは320病院(31.4%)、病床 種別シートは416病院(40.6%)から回答(医療療養病床280施設、介護療養型医療施 設89施設、不明47施設) ・定期内服薬の種類数(2017年5月1日時点 の医療療養病床入院患者20,138人及び介 護療養型医療施設入所者7,235人;2017年 2~4月に1か月以上医療療養病床に入院後 に退院した患者2,962人及び介護療養型医 療施設に入所後に退所した患者457人の入 院/入所時及び退院/退所時;2016年11 月に医療療養病床に入院し5か月以上継続 入院している患者879人及び介護療養型医 療施設に入所し5か月以上継続入所してい る患者256人の入院時及び退院時)・医療療養病床に1か月以上入院後に退院した 患者において、入院時5.5種類から退院時 4.6種類に減少 ・医療療養病床に継続して5か月以上入院 している患者では、入院時5.5種類から約 6か月後5.1種類にやや減少 ・介護療養型医療施設に1か月以上入所後に 退所した患者においては、入所時5.1種類か ら退所時4.3種類に減少 ・介護療養型医療施設に継続して5か月以上 入所している患者では、入所時4.5種類から 約6か月後3.8種類に減少
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番号対象と方法主な結果
7)全国老人保健施設協会:介護老人保健施設における薬物治療の在り方に関する調査研究事業 報告書.平成28年3月.
・全国老人保健施設協会の加盟施設 ・3,598施設に管理医師調査、初回調査及び 入所2か月後の調査の調査票を送付 ・管理医師票として770票(21.4%)の回答・2015年8月から10月上旬に入所した入所 者最大5名を対象に実施した入所者個人に 対する薬物療法の個別調査として初回 2,004票及び入所2か月後1,635票の回答・3種類の調査票すべてに回答された1,375 票を集計対象・管理医師の調査では、投薬がある場合、利用開始時に薬の見直しをほぼ必ず見直すと回答したのは42.1%、場合によっては見直すと回答したのは40.0%(無回答16.2%)・入所時の平均薬剤種類数は、5.89種類であったが、入所1か月後には5.05種類に減少、2か月後は5.35種類と1か月後からやや増加

別 添

 

別表1 高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点

(注)A ~L までは総論編・別添別表1参照
(薬効群と代表的薬剤の一般名[販売名の例])
M. 認知症治療薬
M. 認知症 治療薬認知症治療薬はアルツハイマー型認知症(ドネペジルはレビー小体型認知症の適応もある)の症状の進行を遅らせる薬剤である。現在コリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)3種類 (ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)とNMDA受容体拮抗薬メマンチンがある。副作用が疑われる場合、使用しても効果がない場合は中止や他剤への変更を検討する。また、患者の機能保持や生活の質の向上に非薬物的対応(各論編(療養環境別)参照)の併用が推奨される。
高齢者の特性を考慮した薬剤選択ChEIの副作用として、嘔気、嘔吐、食思不振、下痢などの消化器症状がみられることがある。消化性潰瘍の既往歴がある場合や非ステロイド性消炎鎮痛剤投与中の場合、消化性潰瘍のリスクがあるため慎重に投与する。リバスチグミン[リバスタッチ、イクセロン]は経皮吸収のため消化器症状の発現頻度は低い代わりに皮膚症状に留意する。このほか徐脈、失神、洞不全症候群などの心疾患、気管支喘息又は閉塞性肺疾患の既往歴のある場合、錐体外路障害のある場合は、身体症状が増悪する可能性があるため注意する。ChEIの投与中にBPSDの陽性症状と類似した症状がみられることがある。原疾患の症状、心理環境要因による可能性などを含めて検討し薬剤の影響が考えられる場合、減量・中止も考慮する。 メマンチン[メマリー]は中等症以降のアルツハイマー型認知症の治療薬であり、ChEIの併用も可能である。副作用としてめまい、傾眠があり、腎機能低下患者は特に注意する。眠気がみられる場合、夕食後など夜間に投薬するのも一法である。
投与量、使用方法に関する注意どの薬剤も副作用軽減目的で少量から漸増する。 リバスチグミンは毎回同じ場所に貼付すると、皮膚角質層の剥離により血中濃度が上昇する可能性があるため、貼付箇所を毎回変更する。 メマンチンは高度の腎機能障害(クレアチニンクリアランス値:30mL/min未満)の患者には、維持量は1日1回10mgまでとする。
他の薬効群の薬剤との相互作用に関する注意ドネペジル[アリセプト]とガランタミン[レミニール]はCYP3A4及びCYP2D6により代謝されるため、CYP3A4阻害剤あるいはCYP2D6阻害剤の併用には注意する。CYPの関与する主な相互作用は、総論編別表4を参照。 ChEIと、コリン作動薬(ベタネコール[ベサコリン]など)や重症筋無力症や緑内障に用いるChEI (ジスチグミン[ウブレチド]、 ピリドスチグミン[メスチノン]など)の併用は悪心・嘔吐、徐脈などの副作用に注意する。抗コリン作用を有する抗精神病薬、三環系抗うつ薬、ヒスタミン受容体拮抗薬、抗コリン性パーキンソン 病治療薬などの併用はChEIの作用減弱のみならず、抗コリン作用が認知機能悪化に関与する場合があるため、使用は避けるべきである。
N. 骨粗鬆症治療薬
N. 骨粗鬆症治療薬骨粗鬆症による骨折を防ぐことが薬物治療の目的となる。患者や介護者の負担が少ない製剤を考慮する。転倒による骨折を予防するため、転倒予防対策を実施することも重要である。
高齢者の特性を考慮した薬剤選択経口ビスホスホネート製剤(ミノドロン酸[ボノテオ、リカルボン]、 アレンドロン酸[ボナロン、フォサマック]など)は上部消化管刺激症状の副作用予防のため、内服後30分以上座位を保てない患者や食道通過障害のある患者には禁忌である。服用頻度は連日から4週に1回まで幅広く、いずれも起床時内服が基本用法のため、患者のライフスタイルや介護者の介入タイミングに合った製剤を選択する。 ゾレドロン酸[リクラスト点滴静注]は1年に1回点滴のため、他の骨粗鬆症治療薬との重複に注意する。 デノスマブ[プラリア皮下注]は6か月に1回投与の注射製剤であるが、治療開始後数日から、重篤な低カルシウム血症があらわれることがあるため、頻回に血液検査を行うとともに観察を十分に行う。低Ca血症予防のためにCa製剤及びビタミンD[デノタスチュアブル配合錠など]を併用する場合には、薬剤数が増えることにも配慮する。 選択的エストロゲン受容体モジュレーター(ラロキシフェン [エビスタ]、バゼドキシフェン[ビビアント])は閉経後骨粗鬆症に適応があるが、長期不動状態の患者には血栓塞栓症発症のリスクが高まるため使用を避ける。 副甲状腺ホルモン剤(テリパラチド[フォルテオ、テリボン皮下注]) は投与が24か月までとされており、投与終了後に骨量が低下するため、他の薬剤への切り替えを考慮すること。経口ビスホスホネート製剤との併用は作用が相殺され、Ca製剤・ビタミンD3製剤との併用は高Ca血症のリスクがあるため避けることが望ましい。
投与量、使用方法に関する注意ビスホスホネート製剤やデノスマブは顎骨壊死の副作用が報告されているため、開始前と定期的な歯科受診をすすめる。アルファカルシドール1μg/日以上の投与は原則避ける。Ca製剤はビタミンD 3製剤と併用されることも多いが、腎機能低下患者や悪性腫瘍のある患者は高Ca血症の発現に注意する。
他の薬効群の薬剤との相互作用に関する注意活性型ビタミンD3製剤(エルデカルシトール[エディロール]、アルファカルシドール[ワンアルファ、アルファロール])はCa製剤との併用で高Ca血症のリスクがあり、高Ca血症による認知機能低下やせん妄などに注意が必要である。 また、血清Ca値上昇に伴い、ジギタリス製剤の作用が増強する可能性があるため、なるべく併用を避ける。
O. COPD治療薬
O. COPD治療薬COPDの治療においては薬物療法が治療の中心となり、かつ長期にわたるため、高齢者の特性を踏まえた治療戦略が重要となる。
高齢者の特性を考慮した薬剤選択薬物療法の基本は吸入長時間作用性抗コリン薬(LAMA)(チオトロピウム[スピリーバ]、グリコトロピウム[シーブリ] など)、長時間作用性β2刺激薬(LABA)(インダカテロール[オンブレス]、サルメテロール[セレベント]など)などの気管支拡張薬である。 気流閉塞が重症で増悪を繰り返す患者には、吸入ステロイド(ICS)(ブデソニド[パルミコート]など)を気管支拡張薬に併用する。(現在、本邦でCOPDに適応のある単剤のICSはなく、適応のあるICS/LABA配合薬(ブデソニド/ホルモテロール[シムビコート]、 フルチカゾン/サルメテロール[アドエア]など)が用いられている。)吸入薬は患者の理解力、視力、聴力、ADL、吸気力などを考慮したデバイスの選択や吸入補助具の検討を行うことが肝要である。インフルエンザワクチンは、COPDの増悪頻度を抑制し、インフルエンザや肺炎による入院及び死亡を減らすことが確認されているため、すべてのCOPD患者への接種が勧められる。
投与量、使用方法に関する注意LAMAは閉塞隅角緑内障の患者では禁忌である。前立腺肥大症の患者では排尿困難を助長する可能性があるので注意する。 LABAは頻脈、手指の振戦、低K血症、睡眠障害などが知られており注意する。高血圧、狭心症、甲状腺機能亢進症、糖尿病合併COPD患者では、併存疾患の増悪に注意する。 いくつかの研究でICSによる肺炎リスクの上昇が報告されており、使用後の肺炎に注意が必要である。ICSの副作用として嗄声、口腔カンジダ症、咳嗽が認められることがあるため、うがいの励行が重要である。 テオフィリン製剤(テオフィリン[テオドール])は高齢者では薬物代謝能が低下しており中毒を生じやすいので、血中濃度をモニタリングしながら使用する。
他の薬効群の薬剤との相互作用に関する注意ICS及びインダカテロールなど一部のLABAはCYP3Aにより代謝されるので、CYP3A阻害剤との併用に注意が必要である。CYPの関与する主な相互作用は、総論編別表4を参照。 テオフィリン製剤はCYP1A2により代謝されるので、CYP1A2阻害剤との併用に注意が必要である。CYPの関与する主な相互作用は、総論編別表4を参照。
P. 緩和医療で使用される薬剤
P. 緩和医療で使用される薬剤がん患者の多くは中程度~高度の痛みを抱えており、がん治療において疼痛緩和が非常に重要となるが、高齢者は除痛率が低く、適切に苦痛を評価する必要がある。また、がん患者は様々な理由からせん妄に陥りやすいが、抗精神病薬の副作用としてのアカシジアとの鑑別は困難であるため、注意が必要。
高齢者の特性を考慮した薬剤選択高齢者は除痛率が低く、適切に苦痛を評価する必要がある。がん疼痛治療は、世界保健機関(WHO)の三段階除痛ラダーに沿って行われる。第一段階はNSAIDs、アセトアミノフェン、第二段階は弱オピオイド(コデイン、トラマドールなど)、第三段階は強オピオイド(モルヒネなど)となるが、NSAIDsは消化管出血や腎障害等の副作用に注意が必要となるなど、高齢者では薬剤の定期的な見直しや、肝・腎機能を考慮した薬剤選択が重要である。 オピオイド鎮痛薬(モルヒネ、ヒドロモルフォン、オキシコドン、 フェンタニル、タペンタドール、メサドン)は、特に高齢者においては脳機能や生理機能の低下により、過鎮静やせん妄などの副作用が増強する場合があるため、注意が必要である。モルヒネとコデインは活性代謝物が腎排泄のため、腎機能が低下している患者では使用しないことが望ましい。
投与量、使用方法に関する注意オピオイドの副作用である悪心・嘔吐に対しドパミンD2遮断薬(プロクロルペラジン[ノバミン])を投与すると、副作用としてアカシジア、パーキンソニズムなどの薬剤性錐体外路症状が生じることがあるため注意が必要である。 一部の抗精神病薬はせん妄に対して対症療法的に使用されるが、副作用としてアカシジアが生じることがある。アカシジアはせん妄との鑑別が困難であり、抗精神病薬を使用する際は注意が必要である。 鎮痛補助薬として使用されるプレガバリン[リリカ]は腎排泄型薬剤のため、腎機能低下患者では排泄遅延によるめまい、傾眠等の副作用に注意が必要である。
他の薬効群の薬剤との相互作用に関する注意オキシコドンとフェンタニルは主にCYP3Aで代謝されるため、CYP3A阻害剤との併用に注意が必要である。CYPの関与する主な相互作用は、総論編別表4を参照。 オピオイドは、中枢神経抑制薬(フェノチアジン誘導体 (クロルプロマジン[ウインタミン、コントミン]、レボメプロマジン [ヒルナミン、レボトミン])、バルビツール酸誘導体 (フェノバルビタール[フェノバール])、ベンゾジアゼピン系薬剤 など)、三環系抗うつ薬、抗ヒスタミン薬(第一世代H1受容体拮抗薬)などとの併用において相加的に中枢神経抑制作用を増強させるため、併用時は呼吸抑制、めまい、低血圧及び鎮静などに注意する。
 

別表2 事例集

本事例集は、各療養環境における処方見直しについて、実例を基に、特定の個人を識別することができないように加工したものである。
減薬した事例を掲載しているが、見直しにより薬剤数が増える場合もあること、減薬により病状が悪化して元に戻すなど、減薬を試みても上手くいかない場合があることに留意いただきたい。
患者の生活状況やそれを踏まえた多職種の関わりについても記載しているため、多職種の勉強会等の資材としても活用いただきたい。
事例1:脳出血に伴い活動量が低下し薬物有害事象が発現した事例
療養環境回復期・慢性期環境移行時
問題点ADLの低下に応じた薬剤の見直しが行われていない
患者背景85歳 女性 高血圧症、糖尿病、心筋梗塞既往歴、心房細動、脂質異常症、鉄欠乏性貧血
処方介入前:合計7剤 服用回数4回 アムロジピン錠5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 アジルサルタン錠20mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 ビソプロロール錠5mg 1回0. 5錠(1日0. 5錠) 1日1回 朝食後 ナテグリニド錠90mg 1回1錠(1日3錠) 1日3回 毎食直前 テネリグリプチン錠20mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 クエン酸第一鉄錠50mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 プラバスタチン錠5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 介入後:合計5剤 服用回数1回 アジルサルタン錠20mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 ビソプロロール錠5mg 1回0. 5錠(1日0. 5錠) 1日1回 朝食後 テネリグリプチン錠20mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 クエン酸第一鉄錠50mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 プラバスタチン錠5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後
服薬管理管理者 入院前 本人管理 退院後 家族管理管理方法 入院前 PTPシート 退院後 一包化
経過介入のきっかけ 心房細動があり抗凝固薬を投与されていたが、左脳出血にてA病院に入院となった。半身の重度感覚障害と麻痺が残存し、立位保持、座位保持などはかなりの介助を必要とする状態であり、リハビリ目的で回復期病棟に転院となった。 脳出血に伴う活動量の低下があり、血圧が日中90-110/60-70mmHg HR 65-75と低下しふらつきがみられていた。また、入院前HbA1c7.7%であったが、回復期病棟入院後、食事量の減少もあり、血糖値も朝70-116mg/dL 昼120-138mg/dL、夕110-130mg/dL、HbA1c6.8%となり、自覚症状はみられないが、低血糖は頻回に認めていた。
事例2:残薬及び生活リズムの変化を踏まえて処方薬を変更した事例
療養環境急性期病院→在宅医療への移行時
問題点服薬タイミングが生活リズムにあっていない
患者背景84歳 女性 要介護4 アルツハイマー型認知症、2型糖尿病、高血圧症、パーキンソン病、不眠症、脂質異常症、脳梗塞既往歴
処方介入前:退院時:合計7剤 服用回数4回 レボドパ・カルビドパ配合錠100mg 1回1錠(1日3錠) 1日3回 毎食後 ゾニサミド錠25mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 セレギリンOD錠2. 5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 シタグリプチン錠50mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 ロスバスタチン錠2. 5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 寝る前 アスピリン・ランソプラゾール配合錠 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 アジルサルタン20mg・アムロジピン2. 5mg配合錠 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 介入後:在宅医療開始6か月後:合計4剤 服用回数1回 アジルサルタン20mg・アムロジピン5mg配合錠 1回1錠(1日1錠) 1日1回 昼食後 ドネペジルOD錠5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 昼食後 ロスバスタチン錠2. 5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 昼食後 アスピリン・ランソプラゾール配合錠 1回1錠(1日1錠) 1日1回 昼食後
服薬管理管理者 入院前 本人管理 退院後 本人及び在宅スタッフ管理管理方法 入院前 一包化 退院後 一包化
経過介入のきっかけ アルツハイマー型認知症の診断に加えて、レビー小体型認知症も疑われている患者であり、家族が以前の生活(1人暮らし)に戻ることを希望していたため、在宅診療医、訪問看護を導入し、近所に住む娘のケアの指導も行い退院した。しかし訪問看護師からの情報提供により、介護サービスを受ける10時頃に朝食兼昼食を摂る関係から、朝食後の薬を服用できていないことが分かった。そのため、患者の生活リズムに合わせた処方の確認・見直しを行うこととなった。
介入のポイント 介入時は、13剤服用していた入院時よりすでに7剤(合剤含む)まで削減した状態であり、慎重に減薬に取り組む必要が考えられた。服薬タイミングは介護サービスや生活リズムを考慮して、1日1回昼食後の服用に集約する方向へ6か月かけて変更した。 最も残薬が多かったロスバスタチンから中止を検討したが、循環器専門医からの処方であり、脳梗塞後ということも考慮して用法を変更し継続とした。レビー小体型認知症も疑われたため、レボドパ・カルビドパ配合錠、ゾニサミド、セレギリンをADLの変化を考慮しつつ徐々に中止し、認知機能を考慮しドネペジルの追加を行った。さらに、食生活の改善もあり、血糖値も安定したことから、シタグリプチンを中止、血圧上昇を認めたためアムロジピンの増量を行った。服薬状況の確認は介護サービスに入ったスタッフが体調変化の確認とともに実施した。
経過介入後の経過 服薬アドヒアランスも向上しADL、QOLが上昇した。退院時は生活全般に介助が必要な状態であったが、6か月後には要支援2となった。
事例3:複数の医療機関からの処方を一元化した事例
療養環境在宅医療
問題点複数医療機関・薬局の受診により処方カスケードを生じた
患者背景85歳 男性 要介護3(訪問看護 訪問調剤実施) 認知症、うつ状態、高血圧症、便秘症、十二指腸潰瘍、不眠症、骨粗鬆症、食欲不振
処方介入前:3医療機関 合計13剤 服用回数4回+起床時(週1)+頓服 医療機関A) ニフェジピン徐放錠20mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 レバミピド錠100mg 1回1錠(1日2錠) 1日2回 朝夕食後 ゾルピデム錠5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 寝る前 リセドロン酸錠17. 5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 起床時(週1回) 医療機関B) 六君子湯 1回2. 5g(1日7. 5g) 1日3回 毎食後 ドネペジルOD錠5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 ランソプラゾール錠15mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 クエチアピン錠100mg 1回2錠(1日4錠) 1日2回 夕食後、寝る前 ブロチゾラムOD錠0. 25mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 寝る前 ラメルテオン錠8mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 寝る前 (頓服)クエチアピン錠25mg 1回2錠 不眠時 医療機関C) 酸化マグネシウム錠250mg 1回1錠(1日3錠) 1日3回 毎食後 (頓服)トリアゾラム錠0. 125mg 1回1錠 不眠時 介入後:かかりつけ医に処方確認・見直しを依頼 合計7剤 服用回数2回+頓服 ニフェジピン徐放錠20mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 ランソプラゾールOD錠15mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 テルミサルタン錠20mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 酸化マグネシウム錠500mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 夕食後 ミアンセリン錠10mg 1回2錠(1日2錠) 1日1回 夕食後 エスシタロプラム錠10mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 夕食後 ミアンセリン錠10mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 寝る前(調節可)
服薬管理管理者 介入前 本人管理 介入後 家族管理管理方法 介入前 PTPシート 介入後 一包化
経過介入のきっかけ 認知症の進行に伴い、訪問看護・在宅診療が導入されることとなったが、3つの医療機関からの処方薬をそれぞれ別の薬局で調剤され、お薬手帳も薬局ごとに管理されていることがわかった。そのため、訪問看護師からかかりつけ医となる在宅診療医へ、お薬手帳に記載されていた各医療機関の受診経緯について情報提供された。元より高血圧があり医療機関Aを受診していたが、食欲不振から医療機関Bへの入退院を繰り返し、さらに便秘傾向が強くなったため医療機関Cを受診していたことがわかった。それぞれの医療機関で他の医療機関への受診情報が共有されておらず、A→(リセドロン酸による食欲不振で受診)B→(BPSD治療薬・催眠鎮静薬による便秘で受診)Cといった処方カスケードによる重複処方・薬物有害事象が疑われたため、処方薬の確認・見直しを行うこととした。
介入のポイント かかりつけ医が、他医療機関に情報を確認し処方薬の確認・見直しを開始した。最初に食欲不振の原因が薬物有害事象であると考え、リセドロン酸とドネペジルを中止した。また、高齢者に特に慎重な投与を要する薬物(PIMs)である催眠鎮静薬のブロチゾラム、ゾルピデム、トリアゾラムとクエチアピンの減薬を徐々に行った。また、ラメルテオンについては長期間服用していたが改善効果を認めなかったため中止した。さらに食欲不振の背景にうつ症状もあると考え、抗うつ薬のミアンセリンとエスシタロプラムを追加した。徐々に食欲不振や不眠も改善し、食事量・活動量も増加したため、六君子湯、レバミピドの減薬を行い、血圧が日中155-165/90-100mmHgと上昇したためテルミサルタンを追加した。アドヒアランスも考慮して服薬タイミングを1日2回朝夕食後とし、酸化マグネシウムの用法用量も変更した。 かかりつけ医を中心に訪問看護師による状態の把握、薬剤師による薬物有害事象と服薬アドヒアランスの評価を行い、定期的に患者本人と相談し、患者の信頼を得て処方介入への抵抗もなくなった。
介入後の経過 処方薬調整後は、入院することなく、要介護4から要介護3になった。お薬手帳は1つにまとめ、かかりつけ医に相談するようになった。
事例4:在宅医療で身体状況の変化を踏まえ薬剤処方を見直した事例
療養環境在宅医療
問題点腰痛のため通院できなくなったあとも、外来時の処方薬を長期継続していた
患者背景85歳 女性 要介護3(訪問診療、訪問薬剤指導管理、訪問看護、訪問介護を利用) 90歳の夫と2人暮らし アルツハイマー型認知症、2型糖尿病、慢性腎臓病、高血圧症、腰椎圧迫骨折、便秘症、不眠症
処方介入前:合計7剤 服用回数3回 ドネペジル錠5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 グリメピリド錠1mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 カンデサルタン錠4mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 アムロジピン錠5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 セレコキシブ錠100mg 1回1錠(1日2錠) 1日2回 朝夕食後 酸化マグネシウム 1回1g(1日2g) 1日2回 朝夕食後 ブロチゾラム錠0. 25mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 就寝前 介入後:合計3剤 服用回数2回+頓服 カンデサルタン錠4mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 セレコキシブ錠100mg 1回1錠(1日2錠) 1日2回 朝夕食後 センノシド錠12mg 1錠 便秘時頓服
服薬管理薬剤師が訪問時に処方薬を一包化して服薬カレンダーへセットし、90歳の夫が服薬管理
経過介入のきっかけ アルツハイマー型認知症、2型糖尿病、慢性腎臓病、高血圧症のため診療所に通院していた。1年前に腰椎圧迫骨折による著しい腰痛を生じてから外出できなくなり、便秘症、不眠症を生じるようになった。定期的に通院することが困難になったため、かかりつけ医が訪問診療を開始した。
介入のポイント 訪問診療にあわせ薬剤師も自宅を訪問し、医師と薬剤師が相談して薬剤処方の見直しを行った。外来通院中は血糖値、血圧ともに高く、糖尿病治療薬と2種類の降圧薬を内服していた。しかし、腰痛のため外出できなくなってから食欲が低下し、低血糖状態を生じるようになったため、グリメピリド及び食欲を低下させる恐れのあるドネペジルを中止した。血圧が100~110/50~60mmHg程度に低下したためアムロジピンを中止した。慢性腎臓病を有し、高マグネシウム血症を起こしやすいため酸化マグネシウムを中止し、便秘が続くときにセンノシドを頓用で服用するようにした。夕食後からうとうとして就寝前にブロチゾラムをのみ忘れることが多いことが判明したため、ブロチゾラムを中止した。
介入後の経過 薬剤処方を見直した結果、日中の活動性の上昇及び食欲が改善した。服薬状況の確認は服薬カレンダーで行っていたが、90歳の夫が服薬管理をすることには限界があるため、通所介護サービスを利用し、介護支援専門員が通所介護を行う際に服薬支援するようにした。
事例5:徐放錠を粉砕したことによる薬物有害事象が疑われた例
療養環境在宅医療→急性期病院→在宅医療
問題点・不適切な投与方法(徐放剤の粉砕) ・同効薬の重複投与
患者背景79歳 男性 パーキンソン病、便秘症、不眠症、高血圧症、前立腺肥大
処方介入前:合計11剤 服用回数8回 レボドパ・カルビドパ100mg配合錠 1回1錠 7時 1回2錠 10時 1回2錠 14時 1回2錠 18時 1回1錠 22時(1日8錠)1日5回 エンタカポン錠1mg 1回1錠(1日4錠) 1日4回7時,10時,14時,18時ロキサチジン75mg 1回1Cap(1日1Cap) 1日1回 22時タムスロシンOD錠0. 1mg 1回2錠(1日2錠) 1日1回 朝食後ゾニサミド錠25mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後プラミペキソール徐放錠0. 375mg 1回4錠(1日4錠) 1日1回 朝食後バルサルタン錠80mg 1回2錠(1日2錠) 1日1回 朝食後エソメプラゾールカプセル20mg 1回1Cap(1日1Cap) 1日1回 朝食後ブロムヘキシンシロップ0. 08% 1回5mL(1日15mL) 1日3回 毎食後酸化マグネシウム錠330mg 1回2錠(1日4錠) 1日2回 朝食後と18時ブロチゾラム錠0. 25mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 寝る前(1錠追加可) 介入後:合計7剤 服用回数5回 レボドパ・カルビドパ100mg配合錠 1回1錠 7時 1回2錠 10時 1回2錠 14時 1回2錠 18時(1日7錠)1日4回エンタカポン錠1mg 1回1錠(1日4錠) 1日4回7時,10時,14時,18時タムスロシンOD錠0. 1mg 1回2錠(1日2錠) 1日1回 7時プラミペキソール錠0. 5mg 1回1錠(1日3錠) 1日3回 7時,14時,18時ブロムヘキシンシロップ0. 08% 1回5mL(1日15mL) 1日3回 7時,14時,18時酸化マグネシウム錠330mg 1回2錠(1日4錠) 1日2回 7時,18時ゾルピデム錠5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 22時
服薬管理介護保険サービスの利用状況:要介護度4 隔週で訪問診療 週4回訪問看護、連日ヘルパー訪問 服薬管理は75歳の妻が実施
経過介入のきっかけ 10年以上前にパーキンソン病と診断され、訪問医と連携して加療していた。食事は家族と同じ形態のものを、妻の全介助で経口摂取しており、トロミ剤などは使用していなかった。錠剤は水で内服できていた。自宅で呼びかけても目が合わないことが多くなってきたが、訪問医の診察で様子を見ていた。その1週間後、食事摂取困難となり、緊急入院となった。
介入のポイント 自宅で意識の変容があった頃から、妻が各薬剤を粉砕し、水に混ぜて内服させていたことを、入院時に薬剤師が聴取した。意識状態の悪化はプラミペキソール徐放錠を粉砕して内服していたことでプラミペキソールの血中濃度が急激に上昇したことが一因となっていると予想された。入院後に経鼻胃管を挿入したため、薬剤は全て散剤とし、プラミペキソール徐放錠は粉砕可能である同成分のプラミペキソール錠に変更し、投与回数を増やすことで対応した。血圧は90-100/60-70mmHgであったため、バルサルタンは中止した。また、H2ブロッカーとPPIが併用されていたが、レボドパ・カルビドパ配合錠は酸性条件下で吸収が高まることと、病歴からも既往歴はなく現状では胃薬は必要ないと診断されたことから両剤とも中止した。睡眠薬についてはご本人や家族の強い希望があり、レム睡眠異常行動などがないことから継続したが、非ベンゾジアゼピン系のゾルピデムに変更した。タムスロシン、ブロムヘキシンについて減薬を試みたが、水に混ぜて内服できる剤形であり、疾患治療の必要性と家族の希望から継続されることとなった。
介入後の経過 血圧100-110/60-70mmHgで経過した。全身状態は改善し、自宅退院となった。退院後は新たに薬局薬剤師が介入し、定期的に訪問薬剤指導管理を実施することになった。訪問薬剤師へは入院時の経過を情報提供した。
事例6:介護老人保健施設入所後にポリファーマシーを改善したケース
療養環境介護老人保健施設移行時
問題点変形性頚椎症のため、疼痛の訴えにより複数医療機関を受診し多剤服用状態になっていた
患者背景84歳 女性 脳梗塞後遺症(左不全麻痺)、変形性頚椎症、軽度の認知機能低下あり(長谷川式スケール25点)、転倒歴(骨折歴なし)あり、高血圧症、脂質異常症、不眠症、骨粗鬆症、便秘症
処方介入前:合計15剤 服用回数4回 医療機関A) エルデカルシトールカプセル0. 75μg 1回1Cap(1日1Cap) 1日1回 朝食後 イルベサルタン錠100mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 ロスバスタチン錠2. 5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 抑肝散 1回2. 5g(1日2. 5g) 1日1回 夕食後 ゾルピデム錠5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 寝る前 プロメタジン錠25mg 1回0. 5 錠(1日0. 5錠) 1日1回 寝る前 エチゾラム錠0. 25mg 1回1錠(1日2錠) 1日2回 朝夕食後 アムロジピン錠5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 医療機関B) 酸化マグネシウム錠250mg 1回1錠(1日3錠) 1日3回 朝昼夕食後 チザニジン錠1mg 1回2錠(1日6錠) 1日3回 朝昼夕食後 メコバラミン錠500μg 1回1錠(1日3錠) 1日3回 朝昼夕食後 セレコキシブ錠100mg 1回1錠(1日2錠) 1日2回 朝夕食後 アスピリン錠100mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 ランソプラゾールOD錠15mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 プレガバリンOD錠75mg 1回1錠(1日2錠) 1日2回 朝夕食後 介入後:合計6剤 服用回数2回 イルベサルタン錠100mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 ロスバスタチン錠2. 5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 セレコキシブ錠100mg 1回1錠(1日2錠) 1日2回 朝夕食後 アスピリン錠100mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 ランソプラゾールOD錠15mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 プレガバリンOD錠75mg 1回1錠(1日2錠) 1日2回 朝夕食後
服薬管理自宅では薬は本人が管理していたが、1日1回程度しか飲んでおらず残薬が多数の状態であった。
経過介入のきっかけ 介護老人保健施設への入所に伴い、薬の整理を行った。
介入のポイント 複数の医療機関から多剤の処方があり、かつ薬剤の自己管理能力が低く、服薬していなかったと考えられたため、入所をきっかけとして、内服薬を整理した。 まず降圧薬はイルベサルタン単剤として降圧薬の効果を判定し、1剤でも十分な効果があると判断した。また、訴えの中心が疼痛であったため、鎮痛剤は継続することとした。脳梗塞予防効果に期待してアスピリンは継続した。入所により食事バランスも改善しており、高カルシウム血症のリスクを考え、エルデカルシトール及びメコバラミンは中止した。認知症については易怒性がないため抑肝散は中止した。 その他、転倒リスクを高めると考えられるゾルピデム、エチゾラムは中止した。 プロメタジンについては、処方意図がはっきりしないため中止した。またチザニジンは在宅でほとんど服用されておらず中止した。入所に伴い活動性が上がり、生活リズムの改善により便秘状態も良くなり酸化マグネシウムは中止した。 さらに服薬方法を簡素化し、入所中に1日2回処方とした。これにより、入所中は自己管理が可能となった。
介入後の経過 降圧薬は1剤としたが、特に高血圧の悪化を認めなかった。セレコキシブ、プレガバリンを継続しても頸部周辺の痛みは続いた。 その他減薬に伴う薬物有害事象はなく、6剤で継続した。 また、在宅復帰にあたって居宅から近い医療機関Aで一括して処方してもらうこととして、医療機関A及び医療機関Bに対してその旨記載した診療情報提供書を作成した。 また、居宅の介護支援専門員や、通所サービスの担当者には、引き続き残薬の確認をお願いした。
事例7:看取りを前提に介護老人保健施設に入所した事例
療養環境介護老人保健施設
問題点看取りが予定されているにもかかわらず多剤服用が続いている
患者背景88歳 男性 胆管がん(末期)、2型糖尿病、高血圧症、認知症(長谷川式スケール12点)、甲状腺機能低下症、脳梗塞既往歴
処方介入前:合計9剤 服用回数3回 ウルソデオキシコール酸錠100mg 1回1錠(1日3錠) 1日3回 毎食後 ミグリトールOD錠50mg 1回1錠(1日2錠) 1日2回 朝夕食後 グリメピリドOD錠0. 5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 エソメプラゾールカプセル20mg 1回1Cap(1日1Cap) 1日1回 夕食後 シルニジピン錠10mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 夕食後 アンブロキソール錠15mg 1回1錠(1日3錠) 1日3回 毎食後 クロピドグレル錠75mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 フロセミド錠20mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 レボチロキシン錠50μg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 介入後: 1:看取りの方針決定まで:合計2剤 服用回数3回 ウルソデオキシコール酸錠100mg 1回1錠(1日3錠) 1日3回 毎食後 レボチロキシン錠50μg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 2:看取りの方針決定後:合計1剤 アセトアミノフェン坐薬(100mg) 適宜使用
服薬管理施設職員による管理
経過介入のきっかけ 3か月前胆管がんによる閉塞性黄疸で入院し、逆行性胆管炎疑いでERBDチューブを使用していた。入院中に胆管炎、肺炎を罹患し加療した。状態が落ち着いたため介護老人保健施設に紹介された。胆管がんの手術は困難と判断された。認知症についてコミュニケーションは可能で、説明も理解でき、長谷川式スケールで12点であった。糖尿病、高血圧症があり、糖尿病は上記薬剤でHbA1c6.2%であった。入所時に低アルブミン血症2.3g/dL、肝機能異常ALP849 U/L、γGTP 264 U/L、両下肢の浮腫、及び胸部レントゲンでは両側の胸水を認めた。 胆管がんであることから、予後が不良であり、かつ薬剤も多いので入所中に薬を減らすことを本人、家族に説明した上での入所となった。
経過介入のポイント 入所当初、グリメピリドについては、低血糖が懸念されるため中止した。ミグリトールについても低血糖の懸念に加え、食後服用では効果が期待できないため中止した。エソメプラゾールは、胃腸症状が無いため中止した。低血圧傾向を認めたため、シルニジピン及びフロセミドは中止した。 予後が不良で、クロピドグレルによる予防効果は小さいと考えられたため中止した。咳症状は入所時に認めなかったためアンブロキソールも中止した。 入所後1週間で薬剤は2種類となった。残りの薬については、延命を希望していない家族に対して説明の上、中止することとした。
介入後の経過 食欲低下が進行したため、内服が困難となり疼痛、発熱時にアセトアミノフェン坐薬を使用し約3か月目に永眠された。
事例8:腎機能低下と複数診療科からの多剤服用のため減薬介入を必要とした事例
療養環境急性期病院
問題点・服薬数・服用回数が多く、減らしたいとの患者の訴え・視力低下などによる服薬管理能力の低下 ・高齢者に特に慎重な投与を要する薬物(*)を多数服用・催眠鎮静薬・抗不安薬等の重複処方
患者背景84歳 女性 慢性心不全、狭心症、心房細動、2型糖尿病、慢性腎臓病、骨粗鬆症、不眠症
処方介入前:合計19剤 服用回数7回+起床時(週1) 循環器内科) カルベジロール錠2. 5mg 1回1錠(1日2錠) 1日2回 朝夕食後 カンデサルタン錠4mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 アムロジピン錠5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 スピロノラクトン錠25mg* 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 フロセミド錠20mg* 1回1錠(1日2錠) 1日2回 朝昼食後 リバーロキサバン錠10mg* 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 低用量アスピリン錠100mg* 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 ラベプラゾール錠10mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 糖尿病内科) グリメピリド錠1mg* 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 メトホルミン錠250mg* 1回1錠(1日2錠) 1日2回 朝夕食後 ボグリボース錠0. 3mg* 1回1錠(1日3錠) 1日3回 毎食直前 スルピリド錠50mg* 1回1錠(1日2錠) 1日2回 朝夕食後 酸化マグネシウム散0. 33g* 1回1包(1日3包) 1日3回 毎食後 ブロチゾラム錠0. 25mg* 1回1錠(1日1錠) 1日1回 就寝前 レバミピド錠100mg 1回1錠(1日3錠) 1日3回 毎食後 エチゾラム錠0. 5mg* 1回1錠(1日3錠) 1日3回 毎食後 整形外科) リセドロン酸錠17. 5mg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 起床時(週1回) エルデカルシトールカプセル0. 75μg 1回1錠(1日1錠) 1日1回 朝食後 L-アスパラギン酸カルシウム錠200mg 1回2錠(1日6錠) 1日3回 毎食後
服薬管理管理者 入院前 本人管理 退院後 本人管理管理方法 入院前 PTPシート 退院後 一包化
経過介入のきっかけ 心不全の精査・コントロール目的に循環器内科入院となった。病棟の担当薬剤師は、入院時の持参薬確認時に腎機能がeGFR 27mL/min/1.73m 2(CCr 22mL/min)と腎機能が低下していることから、処方薬の見直しを検討する必要があると考えた。また、患者は目が悪く、服用薬剤数と服用回数が多いことから減薬を希望されていた。さらに、高齢者に特に慎重な投与を要する薬物を多数服用していることからも、処方全体の見直しを担当医師と検討することになった。
介入のポイント HbA1cは6.3%であること、メトホルミンは禁忌に相当する腎機能であることから、糖尿病内科に相談し、まずはメトホルミンを中止して経過観察とした。また、血清補正カルシウム値が10.4mg/dLと高いことからエルデカルシトロールとL-アスパラギン酸カルシウムは中止した。日中に眠気の訴えが強く、エチゾラムを漸減することとした。また、スルピリドは腎排泄型の薬剤であり、錐体外路障害のリスクが高いと考えられ、服用理由の詳細も不明であるため中止して経過観察とすることとした。就寝前に服用していたブロチゾラムは非ベンゾジアゼピン系のエスゾピクロンの頓用での使用とした。 メトホルミン中止後も血糖コントロールは良好であり、ボグリボースは飲み忘れも多いことなどから中止して、退院後のアドヒアランスも考慮して、週1回のデュラグルチド皮下注によりコントロールすることとした。自己注射手技も問題なく習得した。胃腸症状もないことから、ラベプラゾールを残して、レバミピドは中止した。また、腎機能が低下していることから、緩下剤は酸化マグネシウムからピコスルファート内用液の頓用として対応することとした。心不全の精査の結果、カルベジロールは増量し、血圧調節のためアムロジピンは中止とした。週1回のビスホスホネート製剤は、月1回の静注製剤を整形外科で注射してもらう方針となった。
介入後の経過 退院後に受診する診療科は患者の希望もあり、元のままとなったが、各診療科には入院中の薬剤調整の経緯等の情報提供を行った。また、薬局薬剤師には一包化していただくように情報提供を行った。
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別 添

別表3 入院(入所)から退院(退所)までの多職種協働による薬剤調整*