食欲不振

食欲不振の診断推論

以下のように、「食欲不振(アノレキシア)」を訴える患者さんに対する診断推論をステップごとに整理すると、原因を漏れなく効率的に評価し、適切なマネジメントにつなげられます。

1. 診断推論のステップ

  1. 問診(既往歴・症状詳細)
      • 発症時期・経過(急性か慢性か)
      • 食欲不振の局面(全般的か、特定の食物だけか)
      • 体重変化の有無・程度
      • 伴う症状:嘔気・嘔吐、腹痛、胸焼け、嚥下障害、発熱、精神症状(抑うつ・不安)
      • 生活状況:ストレス、環境変化、食事環境、薬歴
  1. 身体所見・基本検査
      • バイタルサイン:発熱、低血圧、頻脈などのサイン
      • 全身所見:筋萎縮・浮腫、口腔内(口腔乾燥、口内炎)
      • 腹部診察:腹部膨満、圧痛、腸雑音の異常
      • 神経・精神所見:抑うつ気分、焦燥感、認知機能低下
  1. 1次スクリーニング検査
      • 血液検査:CBC(貧血)、電解質、肝腎機能、CRP、甲状腺機能、血糖
      • 尿検査:感染、糖尿
      • 栄養指標:アルブミン、総蛋白、ビタミンB₁₂、葉酸
  1. 2次精査
      • 消化器系
        • 上部消化管内視鏡:胃・食道病変の除外
        • 腹部超音波:肝胆膵疾患、腫瘍の有無
      • 画像検査:必要時CT/MRI(腫瘍、炎症性疾患、神経疾患)
      • 精神科的評価:うつ病スクリーニング(PHQ-9など)、摂食障害評価
      • 内分泌・代謝評価:糖尿病、Cushing症候群、Adrenal機能
  1. 鑑別診断の統合
      • 問診・所見・検査結果を「器質的」「代謝内分泌」「精神・行動」「薬剤性」「環境因子」に分類し、主因を確定

2. 主な原因分類とポイント

分類主な疾患・要因例臨床的ポイント
器質的(消化器)胃炎・胃潰瘍、GERD、腫瘍(胃がん、膵がん)、慢性膵炎上部消化管症状(胸焼け、腹痛)、体重減少が顕著。内視鏡で評価。
代謝・内分泌甲状腺機能亢進・低下、糖尿病、Addison病、肝硬変、慢性腎臓病電解質異常、血糖異常、皮膚色素沈着(Addison)などが手がかり。
感染・炎症性疾患結核、HIV、慢性膵炎、自己免疫性疾患(クローン病など)発熱、CRP↑、特異的マーカー。画像検査で確認。
精神・行動疾患うつ病、摂食障害(神経性無食欲症)、認知症、ストレス関連障害抑うつ気分、焦燥感、食事への強い恐怖。PHQ-9、EDE-Qなどでスクリーニング。
薬剤性抗がん剤、抗うつ薬、抗精神病薬、NSAIDs、デジタリス、抗生物質服薬開始・増量時期と症状発現のタイミングを照合。
環境・社会因子経済的要因、孤独・介護問題、食事環境の変化問診で生活背景を詳しく把握。社会資源の活用も検討。

3. フローチャート例

4. 治療的介入の方向性

  1. 原因治療
      • 器質的疾患:潰瘍治療薬、抗炎症薬、腫瘍治療
      • 代謝異常:ホルモン補充、電解質調整
      • 精神疾患:認知行動療法、抗うつ薬(副作用に注意)、栄養カウンセリング
      • 薬剤性:疑わしい薬剤の減量・中止
  1. 栄養サポート
      • 栄養補助食品、経口栄養剤
      • 経管栄養や中心静脈栄養の検討(重症例)
  1. 生活・環境調整
      • 食事環境の改善(家族・介護者への指導、食形態調整)
      • 社会資源(訪問栄養指導、デイサービス)
  1. フォローアップ
      • 体重、栄養指標の定期モニタリング
      • 症状スケール(食欲・抑うつ)による評価

ポイントまとめ

  • 急性 vs 慢性 でまず大まかな分岐
  • 器質的疾患のスクリーニングと精神・行動要因の評価を並行
  • 薬歴・生活背景 の把握が早期診断の鍵
  • 原因に応じた 原因治療+栄養サポート がベース
これらの手順を踏むことで、食欲不振の多彩な原因を体系的に絞り込み、適切な診断・治療につなげることができます。

副作用の機序

食欲不振の原因となる薬剤について
📌薬理作用の延長

食欲減退作用がある

  • 396糖尿病用剤:メトホルミン
    • メトホルミンは、GLP-1の分泌を増加させるため、満腹中枢を刺激して食欲を低下させる作用がある。また、消化管の運動を低下させるため、食物が長く滞留し、満腹感をもたらす。(薬効といえる)
  • 食欲抑制薬
    • マジンドール(サノレックス (R))
    • GLP-1受容体作動薬:
      • セマグルチド(ウゴービ(R))
 
📌薬の効きすぎが原因
予防・対策:効き過ぎになる要因がないか?・・・薬剤の変更、相互作用、体重減少などの患者背景の変化はなかったか?

中枢神経抑制作用がある

中枢神経抑制作用に起因する意欲減退として、食欲不振につながる可能性がある
  • 112催眠鎮静剤、抗不安剤
  • 113抗てんかん剤
  • 117精神神経用剤
  • 119その他の中枢神経系用剤

抗コリン作用がある・・唾液分泌が低下する

抗コリン作用を持つ薬剤であり、唾液分泌低下から、食欲低下を引き起こす可能性がある。
  • 116抗パーキンソン剤:抗コリン薬

消化管運動に影響する

○消化管運動を促進する:消化管運動を促進する薬であるが、消化管運動に影響することで、腹部膨満感を引き起こし、嘔気誘発・食欲不振につながる可能性がある。
 
ドパミンD2受容体拮抗作用を持つ薬。本来、消化管の運動を助け、食欲不振の治療のために用いられるような作用である(実際に使用されている薬剤もある)。中枢ドパミン受容体拮抗作用がある薬剤は、制吐作用目的で使用することもある。
  • 111全身麻酔剤:ドロペリドール・・・制吐作用
  • 232消化性潰瘍用剤:スルピリド
 
直接・関節的にアセチルコリンエステラーゼ阻害作用をもち、消化管運動を亢進させる。
  • 239:アコチアミド、イトプリド
 
蠕動運動を亢進させる作用を持つ
  • 235下剤、浣腸剤:
    • センノシド、ピコスルファート、ヒマシ油、カスカラサグラダ流エキス
 
○便の量を増やす:
下剤のうち、便をカサ増しさせて排出を促す作用のある薬剤は、腹部膨満感から食欲不振につながる可能性もある。
  • 235下剤、浣腸剤
    • ルビプロストン、カルメロースナトリウム
 
📌薬の副作用が原因
  • 消化管機能や腹部症状に影響する

食事に必要な運動機能に支障を来たすため

食事に必要な運動機能、つまり、手指を動かすこと、嚥下に必要な調整の取れた筋肉の動きが、薬剤の影響を受けると、食行動に支障を来たすため、食欲低下の原因になる可能性がある。
 
薬剤性パーキンソニズムの原因薬剤
  • 中枢性ドパミンD2受容体拮抗作用がある薬剤
    • 117精神神経用剤 の一部
→参照)錐体外路症状
 
筋弛緩作用がある薬剤

胃腸障害が起こるため

胃腸障害(粘膜の炎症)の原因薬剤であり、胃腸障害から、食欲低下を引き起こす可能性がある。
  • 114解熱鎮痛消炎剤
    • 慢性疼痛に対する、漫然使用に注意
  • 399他に分類されない代謝性薬剤:ビスホスホネート
    • 服薬後の口腔内残薬確認(口腔ケアを行う)・服薬後の体制保持(上体を起こす)に注意
 
全身循環に移行し、全身性の副作用を起こす可能性がある
  • 113眼科用剤:ジクロフェナク
 

クリーゼの初期症状としての消化器症状

コリンエステラーゼ/アセチルコリンエステラーゼ阻害作用をもち、アセチルコリン作用を強めることで、消化管運動を促進させる可能性がある。ただし、効きすぎによるコリン作動性クリーゼには十分注意が必要である。主な初期症状には、「下痢、腹痛、嘔吐、唾液分泌」があり、これに続き、気道分泌過多、食欲不振、発汗にも注意が必要。
  • 123自律神経用剤:ジスチグミン、ネオスチグミン、ピリドスチグミン、アンベノニウム
  • 113眼科用剤:ジスチグミン

高マグネシウム血症の症状

  • 234制酸剤:酸化マグネシウム
緩下剤として汎用されている。高齢者・腎機能低下者では、高マグネシウム血症に特に注意が必要。(定期的にMg値を検査)
 
  • 「味」に影響する

薬が味や匂いの感じ方に影響する

  • 亜鉛とキレートを形成する
    • ACEi

薬自体に苦味がある

     

    ガイドラインにおける記載

    各ガイドラインでは、薬剤のリスクについて、どのような記載がされているのか
    詳細は各ガイドラインを参照

    「高齢者の安全な薬物治療ガイドライン2015」

    「高齢者に有用性が示唆される我が国の医療用漢方製剤のリスト」解説

    (1)抑肝散
    ・・うつ、不安、悲哀、無動、食欲不振といった陰性症状には無効であるのみならず、症状を増悪させることすらある。・・・
    ・・抑肝散加陳皮半夏がある。抑肝散の適応となる易怒を伴う BPSD で、さらに食欲低下、抑うつ傾向を伴う人に用いる。・・
    CQ. 高齢者のうつ病に対する抗うつ薬使用上の注意点は?

    A. 三環系抗うつ薬は、他の薬剤に比べて抗コリン作用が強いため高齢発症のうつ病に対して特に慎重に使用するべきである(エビデンスの質:高、推奨度:強)。 SSRI も高齢者に対して転倒や消化管出血などのリスクがあり、これらのハイリスク群に対する使用には特に注意が必要である(エビデンスの質:中、推奨度:強)。 スルピリドは、錐体外路症状が発現しやすいため可能な限り使用を控えるべきである(エビデンスの質:低、推奨度:強)。
    食欲不振がみられるうつ状態の患者にしばしばスルピリドが使用された。しかしスルピリドはパーキンソン症状や遅発性ジスキネジアなどの錐体外路症状発現のリスクがあり、使用はできる限り控えるべきである。

    がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン(2017年版)

    Ⅱ章 背景知識
    7. 食欲不振

    1.定義
    がんの食欲不振には、明確な定義はないが、「食事を摂取したい欲が消失している状態」を言う。
    5.治療 (要点を抜粋)
    • 食事摂取を無理には勧めない
    • 栄養にこだわることなく、患者の嗜好に合わせて、食べやすいように、形態・量・味付け・盛り付け・食器など工夫する
    • 輸液:「終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン2013年版」参考
    • 悪液質の治療薬:コルチコステロイド、消化管運動改善薬、六君子湯、エイコサペンタエン酸(EPA)、プロゲステロン製剤、グレリン受容体作動薬
     

    原因薬剤

    「多職種連携推進のための在宅患者訪問薬剤管理指導ガイド」に記載されている原因薬剤一覧

    ○ 一般名ごと

     
    高齢者の体重減少の原因/ゴロでの覚え方
    MEALS ON WHEELS
    (配食サービス)
    (注意)体重減少の原因のゴロ合わせのため、食欲とは関連しない項目もあることに注意
    M, medication 薬剤
    E, emotional 精神疾患(抑うつ)
    A, alcholism, anorexia tardive, or abuse of elders アルコール依存、晩発性食欲不振症、高齢者における過剰使用
    L, late life paranoia 老年期妄想
    S, swallowing problems (dysphagia) 嚥下障害
    O, oral problems 口腔トラブル
    N, no money 金欠
    W, wandering and other dementia-related problem 徘徊や、他の認知症関連行動
    H, hypothyroidism, hyperglycemia 甲状腺機能低下症、高血糖
    E, enteral problems (malabsoption) 腸管疾患(吸収不良)
    E, eating problems 食事の問題(自分で食べられない)
    L, low salt, low cholesterol 低塩・低コレステロール食
    S, shopping and meal preparation problems 買物、食事の用意に関する問題
    食事量減少/食欲低下の原因推論のためのチェクリスト
    「新悪役職人殿、社会の内戦に疲れ、パイ食し、正味8回、焼酎口移ししたい」
    しん心不全
    あく悪液質
    やく薬剤(向精神薬、唾液減少、嘔気誘発作用)
    しょくにん食物認知・認知症
    どの嚥下障害(のど)
    しゃかい買い物、社会的問題、孤独
    (脳)意識障害
    ない内分泌疾患(甲状腺機能低下、高血糖)
    せんせん妄
    (匂い)嗅覚不良
    つかれ耐久性、持久力低下
    ぱい(肺)呼吸不全
    しょくし食嗜好
    しょう消耗状態
    味覚不良
    はっ発熱
    かい食事介助が必要
    しょう消化器系疾患
    ちゅう中枢神経系疾患
    くち口腔問題
    うつしうつ・心理・精神疾患
    たい痛い(疼痛)
    前田圭介医師
     

    患者さん・家族向けの説明資料

    • 術後の食事をおいしく楽しく 胃がん手術後の患者さまとご家族の皆様へ