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食欲不振

通常あるべき食欲が低下して、食事をとりたいという気持ちや意欲が弱くなっている状態を指します。「食欲低下(anorexia)」とも呼ばれます。
 

|食欲不振の臨床的な意義

食欲不振は栄養不良や脱水、体重減少、筋力低下(サルコペニア)などを引き起こし、特に高齢者ではフレイル(虚弱)や要介護状態の進行につながります。
 

|食欲不振の OPQRST

Onset発症機転いつから食欲不振がはじまったか?
Palliative & Provoke寛解・増悪どんなときに食欲不振は良くなるか/悪くなるか
Quality & Quantity性状・強さどれくらいの食欲不振か?(量)、どのくらい食べられるか?、食べられるのは何か?
Symptoms随伴症状他にどんな症状があるか?嘔気・嘔吐、便秘、腹部膨満感、痛み、味覚、嗅覚
Time course時系列食欲低下となったあとの経過はどうか?

|食欲不振の評価

  • 食事の摂取量、食事の摂取内容
  • 体重の変化
意図しない体重減少:6ヶ月のうちに、5%以上?/10%以上? →栄養障害
  • 食欲不振の評価
SNAQ(食欲評価) (4問の質問項目で判定)
CNAQ-J (8問の質問項目で判定)
 

食欲不振の主な原因

疾患・病態による原因
がん及び悪液質に関連する問題
がんおよび悪液質に関連する原因
がん患者の食欲不振は「がん食欲不振・悪液質症候群(CACS)」と呼ばれる
炎症性サイトカインの作用
腫瘍や免疫細胞から産生される炎症性サイトカインが、視床下部にある摂食促進作用を持つニューロペプチドY(NPY)の作用を阻害
ホルモン抵抗性
食欲亢進作用を持つホルモンであるグレリンが増加しているにもかかわらず、グレリンに対する抵抗性が出現することで食欲不振を招く
特定の臓器のがん
胃がんや膵がんで食欲不振の頻度が高い
疾患・病態による原因
その他の疾患身体症状
消化器系疾患
胃炎、逆流性食道炎、消化管閉塞、消化性潰瘍、肝炎、膵炎、悪心・嘔吐、便秘、下痢,。
他の身体症状
痛み(慢性疼痛含む)、呼吸困難、嚥下障害
代謝異常
電解質異常(高カルシウム血症、低ナトリウム血症など)、肝不全、腎不全
感染症
急性期感染症(扁桃炎、上気道炎、腸炎など)、結核、HIV感染症
慢性疾患
心不全、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、血管炎、膠原病、糖尿病
炎症性サイトカインが食欲不振を引き起こすため
加齢に伴う生理的・機能的変化
Anorexia of Aging(高齢者の食欲低下)」:高齢者特有の食欲低下
消化機能の変化
  • 加齢により唾液分泌が減少し摂食が困難になることや、胃排出が遅延することで満腹感が長引き、食欲が低下する
  • また、小腸の運動機能が低下し、小腸通過時間が延長することも関連すると考えられている
ホルモンバランスの崩れ
高齢者では、食欲を抑制するレプチンが高値を示したり、食欲を亢進させるグレリンの空腹時血漿レベルが低値を示したりする傾向がある
また、コレシストキニン(CCK)が食欲をより強く抑制する傾向もある
感覚機能の低下
嗅覚、味覚、視覚の障害が起こると、食物の享受が低下し、食欲減退につながる
口腔内の問題
味覚障害、口腔乾燥、口内炎、う歯、義歯不適合、歯牙欠損などが原因となる
オーラルフレイル
咀嚼機能や嚥下機能の軽微な衰えが見逃されると、食欲低下や偏食を引き起こし、全身的な虚弱(フレイル)へと進行する可能性がある
エネルギー必要量の低下
加齢による除脂肪量(特に骨格筋)の減少や身体活動レベルの低下に伴い、エネルギー必要量が減少することも食欲低下の一因
慢性炎症
高齢者の食欲不振や低栄養状態は、慢性炎症が基盤となって顕在化することが示唆されている
炎症性サイトカイン(TNF-α、MCP-1、GDF-15/MIC-1など)の濃度は栄養状態の悪化に伴い高値となる傾向がみられる
亜鉛欠乏による食欲低下
亜鉛は味細胞のターンオーバーに不可欠なミネラルであり、亜鉛欠乏は味覚障害の代表的な原因の一つ
亜鉛が欠乏すると、消化管粘膜が萎縮し、消化液の分泌減少や消化管運動の低下が起こり、結果として食欲が低下する
視床下部におけるニューロペプチドYの放出阻害も食欲低下を引き起こすと言われている
精神的・心理的・社会的原因
精神症状
不安、抑うつ(うつ病)、せん妄
大うつ病性障害(MDD)の青少年において食欲不振の有病率は高く(76.0%)、うつ病の重症度や特定のネガティブなライフイベント(懲罰)と関連している
認知症
認知症も食欲不振の原因となり、特に気分の落ち込み(BPSD)失認、食べ方が分からなくなる失行が食事拒否につながることがある
ネガティブなライフイベント
死別(近親者や配偶者)、家族や友人とのいさかい、深刻な経済的危機、懲罰経験などがうつ病を誘発し、食欲不振につながる可能性がある
社会的要因
独居、孤食は、買い物の困難さや調理への意欲低下、孤独感を引き起こし、食欲低下につながる
環境的要因
臭気、食事環境(騒音、照明、落ち着かない雰囲気)、金銭的な理由、食事内容への不満(嗜好、形態、盛り付け)も食欲不振の誘因となる
薬剤・治療関連の原因
 
de Souto Barreto P, J Frailty Aging (2023) [PMID: 36629077] https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36629077/ 高齢者の食欲低下の評価方法と管理方法
“Assessment and Management of Appetite Loss in Older Adults: An ICFSR Task Force Report”
(J Frailty & Aging 2023;12:1–6) の概要を簡潔にまとめます。

【概要】

本論文は、高齢者の食欲低下(anorexia of aging)を重要な未解決の臨床課題として位置づけ、評価方法(スクリーニングツール・バイオマーカー)管理方法(介入戦略)について、ICFSR(International Conference on Frailty and Sarcopenia Research)タスクフォースがまとめた最新の報告である。

1. 食欲低下が高齢者で重要な理由

  • 高齢者で 高頻度にみられ(複数研究で高有病率)
    • 体重減少・栄養不良・サルコペニア・フレイル・抑うつ・死亡リスクと関連
      (p.1 の本文に記載)。
  • しかし臨床現場では 系統的な評価がほとんど行われていない

2. 評価ツール(Appetite Assessment Tools)

論文 p.1〜2 および Table 1(p.2) に、主要な質問票が整理されている。
代表的なもの:
  • SNAQ(Simplified Nutritional Appetite Questionnaire):4項目、臨床で使いやすく、体重減少を予測
  • CNAQ:8項目、SNAQの元となった質問票
  • AHSPQ:味覚・嗅覚など29項目、負担が大きく臨床には不向き
  • FAACT / A/CS-12(がんなど特定疾患向け)
  • DRAQ / ESQ(COPD など疾患特異的)
  • ADAT(腎不全患者向け)
また、
  • NANA(デジタル評価ツール)
  • WHO ICOPE の単一質問(vitality ドメイン)
    • といった最新ツールも紹介されている。
食欲のゴールドスタンダード評価法は存在しない と明記(p.3)。

3. バイオマーカー(p.3)

研究段階の指標であり、臨床導入には至っていない。
例:
  • Ghrelin(空腹ホルモン)
  • Leptin(長期の摂食調節)
  • CCK / GLP-1 / PYY(食後に満腹シグナルを形成)
  • GDF15:近年注目の食欲抑制因子で、加齢や炎症とも関連
今後、質問票+バイオマーカーの組合せで診断精度が上がる可能性が示されている。

4. ICOPE 実装データ(仏トゥールーズ:p.3–4)

WHO ICOPE プログラムに基づき、2 万人以上が実際に食欲評価を受けている。
  • 14,358人中 1,995人(約14%)が食欲低下を報告
  • 食欲低下は、認知・歩行能力・心理状態・視力・聴力などすべての機能領域で有意に不良
    • (Table 2、p.4)。
  • 食欲低下は フレイル・サルコペニア・握力低下・ADL低下とも関連
  • 縦断データでは、食欲低下が 将来の認知低下・歩行能力低下・抑うつ・体重減少の発生と関連

5. 管理(Management)

現時点で 食欲低下に対する承認薬は存在しない(p.4–5)。
したがって 非薬物療法が中心
推奨される介入例:
  • 味付け・香辛料の工夫、食事の風味向上
  • 食品の強化(高エネルギー食)、栄養補助食品
  • 運動
  • 食事環境の改善(静かな環境、明るさ、楽しい雰囲気)
  • 食事形態の調整、食事補助、食事介助
多くの要因が絡むため、
  • 高齢者総合機能評価(CGA)による多面的介入
    • が最も推奨される。

6. 結論(p.5)

  • 食欲低下は高齢者における 重大な未解決課題
  • 評価ツールは複数あるが 統一基準は不在
  • それでも SNAQ は簡便で臨床導入の第一候補
  • ICOPE の 単一質問は公衆衛生レベルで有用
  • 今後は
    • *食欲低下の表現型(臨床サブタイプ)**の理解
    • 縦断データの蓄積
    • バイオマーカーの応用
    • 薬物治療の開発
      • などが必要とされる。
Pilgrim AL, Nurs Older People (2015) [PMID: 26018489] https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4589891/ 高齢者の食欲低下についてのレビュー
「An overview of appetite decline in older people」
(Nurs Older People. 2015;27(5):29–35)の 概要を簡潔にまとめます。

【概要】

本論文は、高齢者における食欲低下(anorexia of ageing)の原因・影響・評価方法・管理方法を総合的に解説した総説であり、看護師を含む医療従事者が臨床で理解すべきポイントを整理している。

1. 食欲低下の重要性

  • 高齢者では 15〜30% が食欲低下を呈する(女性・施設入所者・入院患者でより高頻度)。
  • 食欲低下は 栄養不足・体重減少につながり、
    • フレイル
    • 感染症リスク上昇
    • 免疫機能低下
    • 転倒・骨折
    • 入院期間延長
    • 死亡率上昇
      • などの有害アウトカムと関連(p.1、Table 1)。
  • いったん体重を失うと、高齢者では回復が困難(p.1)。

2. 食欲低下の原因

本論文では原因を 生理的・心理社会的・薬理学的 の3カテゴリーに整理している。

生理的要因(p.2–4)

  • 唾液分泌低下(薬剤性が多い)
  • 口腔内トラブル(義歯不適合・咀嚼障害・味覚低下)
  • 嗅覚低下・視力低下
  • 胃排出遅延 → 早期満腹感
  • 便秘(高齢者の30〜40%)
  • ホルモン変化
    • 低 ghrelin高 CCK高 leptin など
  • 急性・慢性疾患(感染症、心不全、COPD、腎不全、肝疾患、パーキンソン病、がん)
  • 慢性痛
  • 身体活動量低下・除脂肪量減少(fat-free mass 減少)

心理社会的要因(p.4–5)

  • うつ病(高齢者で高頻度:施設入所者 27% など)
  • 認知症・せん妄
  • 独居・孤食(65歳以上の 1/3、75歳以上の 1/2 が単身)
  • 料理・買い物能力低下
  • 退職後の生活リズム変化
  • 大きすぎる病院食のポーションサイズ

薬剤性(p.5、Table 2)

非常に多数の薬剤が食欲を低下させ得る。
例:
  • 抗菌薬(ampicillin、macrolides、quinolones…)
  • 抗真菌薬(fluconazole など)
  • 抗ウイルス薬(ganciclovir など)
  • 抗パーキンソン薬
  • うつ病薬、抗精神病薬
  • β遮断薬・抗不整脈薬
  • ACE阻害薬
    • など幅広い治療領域の薬が含まれる。

3. 食欲の評価(p.5–6)

食欲は 主観的で測定が難しい
有用なスクリーニングとして、

SNAQ(Simplified Nutritional Appetite Questionnaire) が紹介されている(p.10 Box 1)。

  • 4項目、各 1〜5 点
  • スコア <14 で 6カ月以内に ≥5% 体重減少のリスク増大
  • 簡便で臨床で使用可能

4. 管理(Management)(p.6–7)

基本原則:まず原因を特定し治療する

  • 口腔乾燥への対応、義歯調整
  • 口腔衛生の改善
  • 便秘治療
  • 感染症や慢性疾患の適切な管理
  • 痛みと悪心のコントロール
  • 視覚障害への対応(適切な眼鏡、コントラストのある食器など)

食欲を改善させる非薬物的介入

  • 食事の風味を ハーブ・スパイス で調整(塩分・糖分の追加は推奨されない)
  • 温かい環境・心地よい雰囲気での食事
  • 視覚障害者には コントラストのある食器・良好な照明
  • 握力低下には滑り止めマット・食器の工夫
  • 認知症には 食事介助・フィンガーフード・色付き食器(摂取量増加の報告あり)
  • 独居者には 昼食会・家族との会食の推奨
  • 身体活動の促進(食欲改善に寄与)
  • 少量高エネルギー食(enriched foods)
  • 好みの食べ物・通常の食事パターンに合わせる

薬物療法

  • 高齢者の食欲改善目的で承認されている薬は存在しない
  • アルコールや食欲増進薬を routine に使用する根拠なし

栄養補助食品(ONS)

  • 急性疾患などで食欲改善が見込めない場合に使用

5. 図表の要点

Figure 1(p.23)

高齢者の食欲調節で起こる変化を図示
  • 赤字:加齢で低下・障害される因子(唾液低下、味覚低下、便秘、ホルモン変化、独居、うつ…)
  • 緑矢印:食欲を高める因子(環境、食事の匂い、社会的 cues など)
  • 多数の臓器・ホルモンが連動する複雑な調節メカニズム

6. 結論(p.7)

  • 高齢者の食欲低下は非常に多因子であり、
    • 早期発見と多面的介入が重要
  • 看護師は、原因の特定・介入の実施・家族支援・環境調整など、
    • 中心的役割を担う。
  • 食事の風味工夫、食事環境改善、少量高エネルギー食、食事の楽しみの提供が重要。

https://www.ncgg.go.jp/ncgg-kenkyu/documents/23/23xx-25.pdf
 

食欲不振におけるレッドフラッグサイン

「重大な疾患が隠れている可能性が高い」ため、速やかな精査や専門医への紹介が必要な警告徴候
レッドフラッグ考えられる重大疾患・背景
意図しない体重減少(特に数週間~数ヶ月で5%以上がん、慢性感染症、内分泌疾患、うつ病、吸収不良症候群など
発熱の持続結核、感染性心内膜炎、膠原病、悪性腫瘍
強い倦怠感や全身衰弱がん、内分泌疾患(副腎不全、甲状腺機能低下)、心不全
持続する消化器症状(悪心、嘔吐、腹痛、下痢・便秘)胃がん、膵がん、慢性膵炎、IBD、潰瘍など
嚥下障害・嚥下時の痛み(嚥下困難・嚥下時疼痛)食道がん、咽頭がん、神経疾患
吐血・下血・黒色便消化管出血、胃潰瘍、食道静脈瘤、消化管腫瘍
貧血(特に鉄欠乏性)胃がん・大腸がんなどによる消化管出血、吸収障害
夜間の発汗・盗汗リンパ腫、結核、感染症、ホルモン異常
高齢者で急激に進行する認知機能低下・意欲低下うつ病、レビー小体型認知症、脳腫瘍
喫煙歴や飲酒歴があり、食欲不振が続く消化器がん(胃がん、食道がん、肝臓がん、膵がんなど)
特に重要なポイント
Onset発症機転食欲不振が続いている
Palliative & Provoke寛解・増悪
Quality & Quantity性状・強さどれくらいの食欲不振か?(体重)
Symptoms随伴症状意図しない体重減少(特に数週間~数ヶ月で5%以上倦怠感が強い
黒色便
Time course時系列
まれだが見逃してはいけない食欲不振の原因
  • 神経性やせ症(拒食症)
  • 文化面(宗教・信念:ハラル、ベジタリアン など)
  • 甲状腺機能低下症(橋本病)
  • 妊娠
  • 高カルシウム血症
  • 脳疾患(脳腫瘍、慢性硬膜下血腫など)
 

食欲不振の評価

薬剤性の食欲不振

薬剤性の食欲不振は、食欲不振の原因となることが多い。
薬剤性の食欲不振に対しては、原因薬剤の中止または変更、または、副作用軽減のための支持療法(制吐剤、胃腸刺激薬)を検討する。
 
  • 中枢性の食欲抑制作用
  • 消化器症状・・消化管運動障害のため。随伴症状として、腹部膨満感や便秘など
  • 味覚への影響
  • 口腔・嚥下機能への影響
    • 口渇
    • 口腔内の粘膜障害・炎症
 

糖尿病の薬物治療中の食欲不振

糖尿病のある方が治療中に感染症などによる発熱、下痢、嘔吐や食欲不振をきたし、そのために食事がとれない状態をシックデイという。
シックデイには、ストレス応答反応としてカテコラミンやコルチゾールなどのインスリン拮抗ホルモンが増加し、インスリンの作用が弱まるため、血糖コントロールが乱れる可能性がある。食事が取れないからと、糖尿病の薬を中断すると、著しい高血糖やケトアシドーシスに陥るリスクや、薬の副作用が出やすくなる場合がある。治療中の薬に応じて、正しい対応が必要となる。
シックデイの時の対応について説明内容を確認する
(例えば、日本くすりと糖尿病学会が作成したシックデイカードなどを用いて説明しています)
 

腎臓シックデイ

慢性腎臓病患者や慢性心不全患者は、急性腎障害のリスクが高いため、急性腎障害を防ぐために、シックデイの時の休薬指示が出る場合がある。
  • 脱水予防
  • 低血圧のとき