【補足】8-3 心不全
心不全は、大きく分けと、急性心不全か、慢性心不全かの二つに分けられる。
急性心不全は、急激に心臓の動きが悪くなり、呼吸困難などの症状が現れる状態である。
薬物治療では、命を救うこと、速やかに症状を改善させるために行う。
呼吸を楽にするための酸素投与に加え、心筋収縮力を増強させるために、強心薬を使い、体液量を減少させ心負荷を軽減するために、利尿薬を用いる。
速やかに症状を軽減するため、注射薬での治療が主となる。
それに加えて、原因疾患の治療を行う。
原因疾患には、虚血性心疾患や心筋炎、心臓弁膜症、不整脈がある。

慢性心不全は、心不全の状態が続いていることである。病状は、悪化と回復を繰り返しながら、徐々に進行していき、やがて、安静にしていても症状がある状態になる。
薬物治療の目的としては、心不全のステージの進行を食い止めることである。
心不全は、左心室の収縮する力が低下して心不全になる収縮不全(HFrEF(ヘフレフ))と、収縮する力は低下していないが、左心室が拡張期に膨らむことができない、もしくは、膨らむのに時間がかかる拡張不全(HFpEF(ヘフペフ))がある。
治療薬の選択が異なる。
HFrEF には、心不全の悪化を遅らせる薬を用いる。
HFpEF には、利尿薬を用いて、心臓の負担を軽減する治療が行われる。
心不全の悪化を遅らせる薬の使い方が、近年、変わってきている。

慢性心不全の急性増悪
- 水分・塩分過剰摂取
- 過労
- 感染
急性増悪を防ぐとともに、急性増悪時の対処法を普段から説明することが重要
まずは、おおまかな、心不全の薬物治療のイメージを示している。
馬が荷物を引いて、坂を登っている。馬が心臓であり、全身に血液という荷物を運んでいるとイメージして欲しい。
慢性心不全は、馬が老馬で、疲弊しているため、荷物をひいて、坂を登れない状態である。歳をとると、今後、ますます、荷物を引くことは困難になってくる。
ただし、全身には荷物が必要であるため、坂を登るために速度を上げようと無理をさせている状態である。(RASS が亢進している)
強心薬は、馬に鞭を入れることで、馬を動かし、坂を越えて荷物を届けさせる。
利尿薬は、荷物を減らして、馬の負担を減らす。SGLT2 阻害薬も荷物を減らすことができる。
β遮断薬は、心臓の働きを弱める薬であるため、かつては、心不全に禁忌とされていた。現在では、少量から徐々に増やして使うことで、馬の速度を落として、馬を休めながら、動かすような薬として、心不全では、重要な薬の一つである。
RASS を抑制する、ACE 阻害薬や ARB も、馬の速度を落として、馬を休める薬である。
MRA は、利尿効果と RAAS 抑制を合わせ持つ。ARNi は、ARB としての作用と、NEP 阻害して心臓を守る作用を併せ持つ。
ARNi、β遮断薬、MRA、SGLT2 阻害薬の4つを、マーベルヒーローになぞらえて、「ファンタスティックフォー」と呼ばれている。

ジギタリス製剤
ジギタリス製剤は、心臓を強く、ゆっくりと動かす薬である。
薬物動態の特徴として、治療域が狭いことがある。そのため、血中濃度を測りながら使用することが推奨される。
また、腎排泄型の薬剤であるため、腎機能低下している人では、血中濃度が上昇する可能性がある。静脈内が低下している人や、高齢者では注意が必要である。
代表的な副作用には、精神・神経症状として、めまい・頭痛の他、不整脈、悪心・嘔吐などがある。
この誘因として、低K血症がある。低K血症は、薬剤性では、利尿薬やステロイドが原因薬剤となる。心不全治療においては、利尿薬と併用するため、低K血症を起こしやすい利尿薬と併用する時は、初期症状が起こっていないか、確認することが重要である。

レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)抑制薬
ACE 阻害薬や、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)は、降圧薬としても説明した。
RAAS は、心不全の時にも活性化されており、過剰に活性化されていることが、心不全の進行と関連している。そのため、RAAS 抑制することで、心不全の悪化を抑制し、心筋を保護する目的で使用することが、非常に重要である。
ACE 阻害薬や ARB の他、アルドステロンの作用を阻害するミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)も使用されている。
(※アルドステロン受容体拮抗薬)
そのほかにも、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNi)も使われている。
降圧薬としても使われるように、血圧の変化に注意すべきである。(血圧が下がり、ふらつき・めまい・転倒の可能性がある)
※第三世代 MRA は、心不全に保険適用がない

アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNi)
ARNi は、アンジオテンシン受容体拮抗薬と、ネプリライシン阻害薬の複合体である。
ネプリライシンは、様々な生理作用に関連しているが、中でも、アンジオテンシンⅡやナトリウム利尿ペプチドの分解・不活化に関与している。
ナトリウム利尿ペプチドのうち、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)は、心不全診療で補助診断法として大切な項目である。BNP は心不全から守るために分泌される物質であるため、心不全では高値となる。NEP 阻害薬は、BNP の分解を阻害するため、心臓を守る効果がある。
ARNi は、ARB が含まれるため、ACE 阻害薬や ARB とは併用しない。切り替え、もしくは、未使用の場合に使用開始する。

SGLT2 阻害薬
SGLT2 阻害薬は、糖尿病治療薬の一つである。糖の再吸収を抑制することで、尿中の糖の排泄を促進するため、糖尿病治療に用いられている。
糖の排泄を促進すると同時に、尿量も増加させる。そのため、体液量を減少させるため、心臓の負荷を軽減させる。その結果、合併症のリスクを軽減することから、心不全治療薬としても非常に重要な薬の一つである。
服用中は、尿路感染症のリスクがあるため、通常、飲水指導を行い、トイレを我慢せずに排泄してもらうことが大切である。ただし、心不全では、心臓の負荷を軽減するため、飲水制限が指導される。軽度の心不全では飲水制限は必要ないとされているが、疾患の状況に応じて、飲水制限がおこなされているため、患者個別に飲水制限を確認した上で、指導を行う必要がある。
また、慢性心不全は多くの薬剤を併用するが、共通の注意点として、血圧の変化や不整脈に注意が必要である。
※SGLT2 阻害薬のうち心不全の治療に保険適用があるのは、
・エンパグリフロジン
・ダパグリフロジン
