片頭痛
片頭痛とは
片側性の拍動性頭痛を特徴とする一次性頭痛。悪心・嘔吐・光過敏・音過敏を伴い、日常生活に支障をきたす。神経血管説に基づき、三叉神経血管系の活性化とCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)の放出が病態の中心的役割を果たす。
片頭痛の分類
| 前兆のない片頭痛 | 前兆のある片頭痛 | |
|---|---|---|
| 頻度 | 約80%(最多) | 約20% |
| 前兆 | なし | 閃輝暗点(ギザギザした光)、視野欠損などが頭痛の20〜60分前に出現 |
| 頭痛の特徴 | 片側性・拍動性、4〜72時間 | 片側性・拍動性、4〜72時間 |
| 随伴症状 | 悪心・嘔吐・光過敏・音過敏 | 同左 |
病態生理
三叉神経血管説(現在の主流)
- 何らかの誘因(ストレス・ホルモン変動・光刺激等)で三叉神経が活性化
- 三叉神経終末からCGRP・サブスタンスP等の神経ペプチドが放出
- 硬膜血管の拡張・炎症(神経原性炎症) → 拍動性頭痛
- 痛みのシグナルが三叉神経核を介して大脳皮質へ伝達 → 悪心・光過敏などの随伴症状
- CGRPが中心的な役割を果たす → CGRPを標的とした新薬が開発
薬物治療の全体像
| 目的 | 薬剤群 | 代表薬・特徴 |
|---|---|---|
| 急性期治療(発作時) | ||
| 軽症〜中等症 | NSAIDs・アセトアミノフェン | ロキソプロフェン、アスピリン、アセトアミノフェン。頭痛発現後早期に服用。制吐薬(メトクロプラミド等)の併用も |
| 中等症〜重症 | トリプタン製剤 トリプタン系 | スマトリプタン(イミグラン®)、リザトリプタン(マクサルト®)等。5-HT₁B/₁D受容体作動薬。片頭痛急性期治療の第一選択薬 |
| ラスミジタン製剤 | ラスミジタン(レイボー®)。5-HT<sub>1F</sub>受容体作動薬。血管収縮作用がなく、トリプタン無効例や心血管リスクがある患者にも使用可能 | |
| 予防治療 | ||
| 経口予防薬 | 各種経口薬 | バルプロ酸、プロプラノロール、アミトリプチリン、ロメリジン。月に2回以上の発作がある場合に検討 |
| 抗CGRP抗体・抗CGRP受容体抗体 | モノクローナル抗体 | ガルカネズマブ(エムガルティ®)、フレマネズマブ(アジョビ®)、エレヌマブ(アイモビーグ®)。皮下注射・月1回。3剤以上の予防薬が無効な場合に使用 |
急性期治療薬の詳細
トリプタン製剤(5-HT₁B/₁D受容体作動薬)
作用機序
- 5-HT₁B受容体刺激 → 拡張した硬膜血管の収縮
- 5-HT₁D受容体刺激 → 三叉神経からのCGRP放出抑制
- 結果として神経原性炎症を抑制し、頭痛を改善
| 代表薬 | 商品名 | 特徴 |
|---|---|---|
| スマトリプタン | イミグラン® | 経口・点鼻・注射がある。最も古典的なトリプタン |
| リザトリプタン | マクサルト® | 経口。最も使用されるトリプタンの一つ |
| エレトリプタン | レルパックス® | 経口。作用時間がやや長い |
トリプタン製剤の注意点
- 心血管疾患のある患者には禁忌(心筋梗塞・狭心症・脳血管障害の既往・コントロール不良の高血圧) → 血管収縮作用による
- エルゴタミン製剤との24時間以内の併用禁忌
- セロトニン症候群:SSRI/SNRIとの併用でリスク↑
- 薬物乱用頭痛(MOH):月1回以上の頻回使用で頭痛が慢性化するリスク
- 頭痛発現後できるだけ早期に服用が原則
ラスミジタン製剤(5-HT<sub>1F</sub>受容体作動薬)
ラスミジタン(レイボー®)
- 5-HT<sub>1F</sub>受容体を刺激し、三叉神経からの痛みの伝達やCGRP放出を抑制
- トリプタンと異なり血管収縮作用がない → 心血管疾患のある患者にも使用可能
- トリプタン無効例やトリプタン禁忌例に有用
- 経口薬(OD錠)
ゲパント(CGRP受容体拮抗薬)
ゲパントは、片頭痛に関与するCGRP受容体を直接遮断する低分子薬。トリプタンのような血管収縮作用がないため、心血管疾患などでトリプタンが使いにくい場合の選択肢となる。
作用機序
- CGRP受容体を遮断し、三叉神経血管系でのCGRPによる血管拡張・神経原性炎症を抑制
- 片頭痛の痛みの伝達と発作の成立を抑える
- 5-HT受容体を介した血管収縮ではないため、トリプタンとは作用機序が異なる
代表薬・使い分け
| 代表薬 | 主な位置づけ | 特徴 |
|---|---|---|
| リメゲパント | 急性期治療・予防 | 口腔内崩壊錠。適応・用法は製品情報に従う |
| ウブロゲパント | 急性期治療 | 海外で使用される代表的なゲパント |
| アトゲパント | 予防治療 | 海外で使用される予防薬。投与方法は製品情報に従う |
注意点
- 薬剤ごとに急性期・予防の適応が異なるため、処方目的を確認する
- 悪心、眠気、便秘などの副作用を確認する
- 他の薬剤との相互作用や肝機能障害に注意し、併用薬を確認する
- 心血管疾患がある場合でも選択肢となるが、患者ごとの適応・禁忌を確認する
予防治療薬の詳細
経口予防薬
| 薬剤 | 分類 | 特徴 |
|---|---|---|
| バルプロ酸ナトリウム | 抗てんかん薬 | 片頭痛予防の第一選択薬の一つ。催奇形性に注意(妊婦禁忌) |
| プロプラノロール | β遮断薬 | 片頭痛予防の第一選択薬。気管支喘息・徐脈に禁忌 |
| アミトリプチリン | 三環系抗うつ薬 | 低用量で予防効果。口渇・眠気・体重増加の副作用 |
| ロメリジン | Ca拮抗薬 | 海外では第一選択薬の一つ。日本では使用頻度やや低い |
抗CGRP抗体・抗CGRP受容体抗体(新規予防薬)
CGRPを標的としたモノクローナル抗体
- 片頭痛の病態の中心であるCGRPまたはCGRP受容体を標的として阻害
- 片頭痛の発作頻度・重症度を低減
- 皮下注射・月1回(エレヌマブは3ヶ月に1回も可)
- 従来の予防薬が3剤以上無効な場合に使用
| 薬剤 | 商品名 | 標的 | 投与間隔 |
|---|---|---|---|
| ガルカネズマブ | エムガルティ® | 抗CGRP抗体 | 月1回 皮下注射 |
| フレマネズマブ | アジョビ® | 抗CGRP抗体 | 月1回 皮下注射 |
| エレヌマブ | アイモビーグ® | 抗CGRP受容体抗体 | 月1回または3ヶ月に1回 皮下注射 |
薬物乱用頭痛(MOH)
薬物乱用頭痛(Medication Overuse Headache)
- 急性期治療薬(トリプタン・NSAIDs等)を月1回以上頻回に使用すると、かえって頭痛が慢性化・悪化
- 治療:原因薬剤の中止・減量 + 予防薬の導入
- 看護のポイント:急性期治療薬の使用頻度を確認し、過剰使用を予防する指導が重要
看護のポイント
- 急性期治療薬の早期服用 → 頭痛が軽いうちに服用する方が効果的。前兆のある患者は前兆出現時に服用を検討
- MOHの予防 → 急性期治療薬の使用頻度を確認。月に10日以上の使用があれば予防薬の導入を医師に相談
- トリプタンの禁忌確認 → 心血管疾患の既往・コントロール不良の高血圧がないか確認
- 予防薬のアドヒアランス → 予防薬は2〜3ヶ月継続して効果を判定。自己中断を防ぐ指導
- 抗CGRP抗体の自己注射指導 → 皮下注射手技・オートインジェクターの操作・保管方法(冷蔵)を指導
- 頭痛ダイアリーの推奨 → 発作の頻度・程度・誘因・使用薬剤を記録することで治療方針の決定に役立つ
- 生活指導 → 規則的な生活・十分な睡眠・ストレス管理・誘因(アルコール・チョコレート・チーズ等)の回避