浣腸
- 直腸・下部大腸に直接薬液を注入し、排便を促進する外用薬
- 経口薬と異なり即効性が高い(数分〜30分以内に効果発現)
- 代表的な製剤はグリセリン浣腸で、日常的な便秘対応から大腸検査前処置まで幅広く使用
- 経口薬で効果不十分な場合のレスキュー手段として位置づけられる
- 看護師が施行する機会が多く、正しい手技と観察ポイントの理解が重要
グリセリン浣腸(最も汎用)
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 直腸内への注入 | 50%グリセリン液を直腸内に注入。グリセリンは高浸透圧性の粘稠な液体 |
| 浸透圧作用 | グリセリンの高浸透圧により、腸管壁から水分が腸管内に引き込まれる → 便が軟化・溶解 |
| 潤滑作用 | グリセリン自体が潤滑剤として便の表面を滑らかにし、排出を容易にする |
| 直腸刺激 | 薬液の注入による直腸の伸展刺激 → 排便反射を誘発 → 数分〜30分で排便 |
グリセリン浣腸の3つの作用
- 浸透圧作用:水分を引き込み便を軟化
- 潤滑作用:便の表面を滑らかにし排出を容易に
- 直腸刺激:排便反射を誘発
→ この三重の作用により即効性の高い排便促進が得られる
| 製剤名 | 成分 | 用法・用量 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| グリセリン浣腸液 50% | 濃グリセリン 50% | 成人:1回60mL 直腸内注入 小児:1回10〜30mL(年齢・体格により調整) 乳幼児:1回10mL程度 | 最も汎用される浣腸製剤。効果発現:数分〜30分。ディスポーザブルタイプ(使い捨て)が主流 |
| グリセリン浣腸液 10% | グリセリン 10% | 成人:1回120〜150mL 直腸内注入 | 50%液より低濃度。大量で使用。刺激がややマイルド |
| ビサコジル坐薬(参考) | ビサコジル 10mg | 成人:1回10mg 直腸内挿入 | 坐薬(浣腸ではないが同じ直腸投与)。刺激性下剤の一種。効果発現:15〜60分 |
グリセリン浣腸は、看護師が施行する頻度が最も高い下剤のひとつ
| ステップ | 役割 | 薬剤 |
|---|---|---|
| Step 1(定時薬・経口) | 便を軟化・増大 → 基本薬 | 酸化Mg、モビコール®等 |
| Step 2(レスキュー・経口) | 蠕動を直接促進 → 排便なき時の頓用 | ピコスルファート液、センノシド |
| Step 3(レスキュー・直腸投与) | 直腸から直接排便を促進 → 経口薬でも効果不十分な場合 | ビサコジル坐薬、グリセリン浣腸 |
浣腸が選択される場面
- 経口薬(定時+頓用)でも排便が得られない場合
- 宑便(直腸内に硬便が貯留)が疑われる場合
- 術前・検査前の腸管洗浄
- 経口摂取が困難な患者(意識障害・嘔吐・嘆下障害等)
- 即座に排便が必要な緊急時
主な副作用
- 腹痛・腹部不快感(排便反射・蠕動亢進による)
- 直腸粘膜の刺激・損傷(挿入操作による)
- 血圧変動・迷走神経反射(徐脈・血圧低下 → 特に高齢者で注意)
- 腸管穿孔(極めて稀だが重篤 → 不適切な挿入・無理な注入でリスク↑)
- 電解質異常(頻回使用で脱水・電解質バランスの乱れ)
重要な注意事項
- 急性腹症(腸閉塞・虫垂炎・腸管穿孔等)が疑われる場合は禁忌
- 全身状態が著しく不良な患者では迷走神経反射による循環動態変動に注意
- グリセリン涶液は体温程度(約37℃)に温めてから使用(低温では腸管痙政のリスク)
- 連用を避け、必要時のみの使用が原則(常用で直腸の感受性低下)
- 妊婦:子宮収縮を誘発する可能性 → 原則禁忌(または慎重投与)
- 小児では体格に応じた用量調整が必要(過量注入による穿孔のリスク)
🚫 禁忌
- 急性腹症(腸閉塞・虫垂炎・腸管穿孔等)
- 腸管に穿孔またはそのおそれがある患者
- 重篤な心疾患のある患者(迷走神経反射によるリスク)
- 本剤の成分に過敏症の既往
⑥ 看護師の観察ポイント
📋 施行前の確認
- 腹痛の有無・腸閉塞の除外を確認
- 現在の排便状況・最終排便日を確認
- 心疾患の既往がないか確認(迷走神経反射のリスク)
- 妊娠の有無を確認
- 浣腸涶液を体温程度(約37℃)に温める(低温では痙政・不快感の原因)
- プライバシーの配慮(カーテン・声かけ・露出を最小限に)
💉 施行の手技ポイント
- 体位:左側臥位(Sims位)が基本(S字結腸の解剖に合わせる)
- チューブの挿入:成人で約5〜6cm、小児で約3cmを目安にやさしく挿入
- 挿入時は口呼吸を促す(腹圧を下げ、括約筋を弛緩させる)
- ゼリーや涶滑剤をチューブ先端に塗布し挙入を容易にする
- 注入はゆっくり行う(急速な注入は腹痛・迷走神経反射の原因)
- 抵抗を感じたら無理に押し込まない(穿孔のリスク)
- 注入後、可能なら3〜10分程度排便を我慢してもらうと効果が高まる
🩸 施行中・施行後の観察
- バイタルサイン:血圧・脈拍・表情を確認(特に高齢者)
- 迷走神経反射の徴候:徐脈・血圧低下・顔面蒼白・冒汗・気分不良 → 発見時は直ちに中止し仐臥位に
- 排便の有無・量・性状・血液の混入を確認
- 排便後の腹痛・腹部膨満感の有無を確認
- 血便がみられた場合 → 直腸粘膜損傷の可能性 → 医師に報告
- 施行後の清潔ケア(肛門周囲の洗浄)
⚡ 特に注意すべき患者
- 高齢者:迷走神経反射↑・直腸粘膜脆弱 → 愞重に施行
- 心疾患患者:徐脈・不整脈のリスク → モニター装着下での施行も検討
- 血液凝固異常・抗凝固薬服用中:粘膜損傷時の出血リスク
- 小児:体格に応じた用量・挿入の深さに注意
💬 患者教育
- 「お尻から薬を入れて、直接便を出しやすくする処置」と説明
- 数分で効く即効性のある処置であることを伝える
- 注入後、できれば少し我慢すると効果が高まると説明
- 自宅での自己施行時の注意点:必ず温めてから使用・無理に押し込まない
- 浣腸は毎日使うものではなく、必要時のみの救急的な処置であることを伝える
- 繰り返し必要な場合は経口薬の見直しを医師に相談するよう指導