クローン病(CD)

クローン病(Crohn’s Disease:CD)

クローン病(Crohn’s Disease:CD)は、口腔から肛門までの消化管のあらゆる部位に非連続性・全層性の肉芽腫性炎症を引き起こす原因不明の慢性炎症性疾患である。厚生労働省の指定難病に指定されている。

疾患の特徴

病変部位と炎症の特徴

  • 口腔から肛門まで消化管のあらゆる部位に発症しうる
  • 好発部位:回盲部(回腸末端)が最多
  • 病変の分布:
    • 非連続性(skip lesion):正常粘膜と病変部が交互に存在
    • 区域性:特定の部位に集中
  • 炎症の深さ:全層性(粘膜から漿膜まで及ぶ)
  • 病型分類:
    • 小腸型:小腸のみ
    • 小腸大腸型:小腸・大腸の両方(最多)
    • 大腸型:大腸のみ

疫学

  • 好発年齢:10〜20代(若年発症が多い)
  • 男性にやや多い(約 2:1)
  • 日本での患者数は約7万人(増加傾向)
  • 喫煙が増悪因子(UCとは逆)

主な症状

  • 腹痛(右下腹部が多い)
  • 下痢(血便はUCより少ない)
  • 体重減少・栄養障害(小腸病変による吸収不良)
  • 発熱
  • 肛門病変(痔瘻、裂肛、肛門周囲膿瘍):初発症状のこともある
  • 口内アフタ

内視鏡所見

  • 縦走潰瘍(longitudinal ulcer):腸管の長軸方向に走る潰瘍
  • 敷石像(cobblestone appearance):潰瘍と浮腫粘膜が交互に出現
  • アフタ様潰瘍(早期病変)
  • 狭窄(慢性期)

病理所見

  • 非乾酪性類上皮細胞肉芽腫(最も特徴的)
  • 全層性炎症
  • 裂溝潰瘍(fissuring ulcer)

合併症

  • 腸管合併症(全層性炎症に起因)
    • 狭窄:線維化による腸管内腔の狭小化→腸閉塞
    • 瘻孔(fistula):腸管から他臓器・皮膚への異常交通
    • 膿瘍:腸管周囲や肛門周囲
  • 腸管外合併症
    • 関節炎
    • 結節性紅斑
    • 虹彩炎
    • 口内アフタ
    • 肚石(回腸末端の胆汁酸吸収障害による)

UCとの主な鑑別ポイント

項目クローン病(CD)潰瘍性大腸炎(UC)
病変部位消化管全体(回盲部好発)大腸のみ(直腸から連続性)
炎症の深さ全層性粘膜〜粘膜下層
病変分布非連続性(skip lesion)連続性・びまん性
血便少ない顔著(粘血便)
肛門病変高頻度まれ
病理所見非乾酪性肉芽腫陰稼膿瘍、杯細胞減少
内視鏡縦走潰瘍、敷石像びまん性発赤、偽ポリポーシス
喫煙増悪因子非喫煙者に多い

治療方針

CDの治療は寛解導入療法寛解維持療法に分けて考える。薬物療法に加え、栄養療法が重要な役割を果たすのが大きな特徴である。

寛解導入療法

軽症〜中等症

  1. 栄養療法(CD治療の柱)
      • 成分栄養剤(エレンタール®):第一選択。抵分子栄養で消化管を安静化
      • 消化態栄養剤:成分栄養が不耐な場合
      • 原則として、活動期には低脂肪・低残渣食を指導
  1. 5-ASA製剤
      • メサラジン(ペンタサ®):小腸病変にも有効
      • サラゾスルファピリジン:大腸病変に使用
      • UCと比較して効果は限定的
  1. ステロイド(5-ASA・栄養療法無効例)
      • プレドニゾロン経口
      • ブデソニド(回腸末端・上行結腸の病変)

中等症〜重症

  1. 生物学的製剤(中心的役割)
      • 抗TNFα抗体:インフリキシマブ、アダリムマブ
      • 抗IL-12/23抗体:ウステキヌマブ
      • 抗IL-23抗体:リサンキズマブ、グセルクマブ
      • 抗α4β7インテグリン抗体:ベドリズマブ
  1. JAK阻害薬
      • ウパダシチニブ
  1. 免疫調節薬(生物学的製剤と併用も)
      • アザチオプリン、6-MP
  1. ステロイド点滴静注(重症例)

寛解維持療法

  • 栄養療法(在宅経腸栄養:half ED):基本の維持療法
  • 免疫調節薬(アザチオプリン、6-MP)
  • 生物学的製剤:寛解導入に有効だった製剤を継続
  • JAK阻害薬:継続投与
  • 5-ASA製剤:維持効果は限定的
栄養療法の重要性
CDでは小腸病変による栄養吸収障害が起こりやすく、栄養療法が治療の柱となる。成分栄養剤(エレンタール®)は寛解導入にも維持にも使用でき、特に若年患者ではステロイドの使用を最小限に抑えるため積極的に用いる。

肛門病変の治療

  • 抗菌薬:メトロニダゾール、シプロフロキサシン
  • 抗TNFα抗体(インフリキシマブ):瘻孔性病変に有効
  • シートンドレナージ(肛門周囲膿瘍)
  • 重症例は外科的介入

外科治療

  • 適応:狭窄による腸閉塞、瘻孔、膿瘍、内科治療抵抗例
  • 原則
    • 小腸温存(切除は最小限に):短腸症候群を防ぐ
    • 狭窄形成術(strictureplasty):切除せずに狭窄を解除
  • 内視鏡的バルーン拡張術:短い狭窄に有効
  • 術後再発率が高く、術後の寛解維持療法が重要
⚠️
UCとの外科治療の違い
UCは大腸全摘で根治可能だが、CDは消化管全体に再発しうるため、外科手術では根治できない。切除範囲の最小化と術後の継続的な内科治療が不可欠である。

治療薬の作用点まとめ

薬剤分類主な薬剤作用機序使用場面
成分栄養剤エレンタール®抵分子栄養で消化管を安静化、抗原負荷軽減寛解導入+維持(第一選択)
5-ASA製剤メサラジン、サラゾスルファピリジン腸管局所の抗炎症作用軽症の寛解導入(効果は限定的)
ステロイドプレドニゾロン、ブデソニド強力な抗炎症・免疫抑制作用寛解導入のみ
免疫調節薬アザチオプリン、6-MPプリン代謝拮抗→リンパ球増殖抑制寛解維持
抗TNFα抗体インフリキシマブ、アダリムマブTNFαを中和→炎症シグナル抑制中等症〜重症の導入・維持、瘻孔性病変
抗IL-12/23抗体ウステキヌマブIL-12/23のp40サブユニットを阻害中等症〜重症の導入・維持
抗IL-23抗体リサンキズマブ、グセルクマブIL-23のp19サブユニットを阻害中等症〜重症の導入・維持
抗α4β7抗体ベドリズマブ腸管選択的にリンパ球遊走を阻害中等症〜重症の導入・維持
JAK阻害薬ウパダシチニブJAKを阻害→サイトカインシグナル伝達抑制中等症〜重症の導入・維持
抗菌薬メトロニダゾール、シプロフロキサシン嫌気性菌・グラム陰性菌に対する抗菌作用肛門病変・膿瘍

服薬指導ポイント

💊
  • 栄養療法:エレンタール®の飲みやすさの工夫(冷やす、フレーバー添加)とアドヒアランス支援
  • 食事指導:活動期は低脂肪・低残渣食。寛解期も消化の良いものを中心に
  • 免疫抑制薬・生物学的製剤:感染症兆候(発熱、咳嗽、倦怠感)があれば速やかに受診
  • JAK阻害薬:帯状疱疹リスク上昇の説明
  • メトロニダゾール:服用中の禁酒(ジスルフィラム様反応)
  • 禁煙指導:喫煙はCDの増悪因子であり、禁煙を強く推奨
  • ステロイド:自己判断での中止禁止。減量スケジュールの確認