JAK 阻害薬
- JAK(Janus kinase:ヤヌスキナーゼ)は、サイトカイン受容体からの刺激を細胞内で核へ伝えるシグナル伝達酵素であり、JAK-STAT経路の中心的役割を担う
- JAK阻害薬は、JAKのATP結合部位に可逆的に結合し、サイトカインシグナルの細胞内伝達を遮断することで、炎症反応や免疫応答を抑制する
- 生物学的製剤が細胞の外で特定のサイトカイン1種類をブロックするのに対し、JAK阻害薬は細胞の内で複数のサイトカイン経路を同時に遮断する点が異なる
- 主な適応疾患:関節リウマチ(RA)、潰瘍性大腸炎(UC)、アトピー性皮膚炎(AD)、円形脱毛症(AA)、骨髄線維症、クローン病など
JAK-STAT経路の役割と病態
- 炎症性サイトカイン(IL-6、IFN、IL-2 など)が細胞表面のサイトカイン受容体に結合すると、受容体に結合しているJAKが活性化される
- 活性化したJAKはSTAT(Signal Transducers and Activators of Transcription)をリン酸化し、STATは二量体を形成して核内へ移行
- 核内でDNA転写を促進し、炎症性サイトカインの産生・免疫細胞の増殖・活性化に関わる遺伝子が発現する
- 自己免疫疾患では、この経路が過剰に活性化し、慢性炎症・組織破壊を引き起こす
JAKファミリーの4種類
- JAK1:IL-6、IFN、IL-2 など多くの炎症性サイトカインのシグナル伝達に関与
- JAK2:造血因子(エリスロポエチン、トロンボポエチンなど)のシグナル伝達に関与
- JAK3:主にリンパ球の分化・増殖に関与(IL-2、IL-7、IL-15 など)。γc鎖を共有する受容体に特異的
- TYK2:IL-12、IL-23、IFN-α などのシグナル伝達に関与
JAK阻害薬の作用
- JAKのATP結合部位に可逆的に結合し、JAKの酵素活性(リン酸化)を阻害
- サイトカイン受容体からのシグナルが核へ伝わらなくなり、炎症関連遺伝子の発現を抑制
- 各薬剤はどのJAKサブタイプを選択的に阻害するかが異なり、薬効・副作用プロファイルに影響する
関節リウマチに適応のあるJAK阻害薬
| 一般名 | 先発品 | 主な阻害対象 | 投与方法 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|---|
| トファシチニブ | ゼルヤンツ | JAK1/JAK3 | 経口(1日2回) | 最初に承認されたJAK阻害薬。RA・UCに適応。グレープフルーツジュースとの併用注意(CYP3A4) |
| バリシチニブ | オルミエント | JAK1/JAK2 | 経口(1日1回) | RA・AD・AA・COVID-19肺炎に適応。主に腎排泄のため腎機能に応じた用量調節が必要 |
| ペフィシチニブ | スマイラフ | JAK1/2/3, TYK2(汎JAK阻害) | 経口(1日1回) | 日本で開発された薬剤。JAKファミリー全体を阻害。RAのみに適応 |
| ウパダシチニブ | リンヴォック | JAK1(選択的) | 経口(1日1回) | JAK1への高い選択性。RA・AD・UC・クローン病・乾癬に適応。適応疾患が広い |
| フィルゴチニブ | ジセレカ | JAK1(選択的) | 経口(1日1回) | JAK1選択的阻害。RAに適応 |
その他のJAK阻害薬
| 一般名 | 先発品 | 阻害対象 | 主な適応 |
|---|---|---|---|
| ルキソリチニブ | ジャカビ(内服)/オプゼルラ(外用) | JAK1/JAK2 | 骨髄線維症、真性多血症(内服)。尋常性白斑(外用) |
| フェドラチニブ | インレビック | JAK2(選択的) | 骨髄線維症 |
| モメロチニブ | オムジャラ | JAK1/JAK2, ACVR1 | 骨髄線維症(貧血を伴う例) |
| アブロシチニブ | サイバインコ | JAK1(選択的) | アトピー性皮膚炎 |
| リトレシチニブ リトレシチニブ | リットフーロ | JAK3/TEC | 円形脱毛症 |
| デルゴシチニブ | コレクチム軟膏 | JAK1/2/3, TYK2 | アトピー性皮膚炎(外用薬) |
生物学的製剤との使い分け:JAK阻害薬は経口投与が可能で患者の利便性が高い。一方、ORAL-surveillance試験では心血管リスクや悪性腫瘍リスクのある患者でTNF阻害薬より有害事象が増加したため、現在のガイドラインではリスク評価を踏まえて生物学的製剤を先に検討する場面もある。TNF阻害薬等の生物学的製剤で効果不十分な場合にもJAK阻害薬は有効であり、difficult-to-treat RAにも使用される。
投与前の確認事項
- 結核スクリーニング:ツベルクリン反応・IGRA・胸部CT検査で潜在性結核を確認。陽性の場合は抗結核薬の予防投与が必要
- B型肝炎スクリーニング:HBs抗原・HBs抗体・HBc抗体を測定し、再活性化リスクを評価
- 血液検査:リンパ球数・好中球数・ヘモグロビン値を確認。基準値未満では投与開始不可
- 脂質プロファイル:投与開始後に脂質上昇がみられるため、ベースラインの測定
- 活動性感染症の除外:活動性の重篤な感染症がある場合は投与禁忌
- 悪性腫瘍・血栓症リスクの評価
投与中の観察
- 感染症の徴候:発熱・咳嗽・倦怠感・口内炎などがあれば速やかに報告するよう患者指導。特に帯状疱疹の頻度が高い(痛み・かゆみを伴う片側性の水疱・発疹に注意)
- 定期的な血液検査:リンパ球数・好中球数・ヘモグロビン値・肝機能・脂質の定期モニタリング
- 消化器症状:悪心・下痢・腹痛の有無(稀に消化管穿孔の報告あり)
- 血栓症の徴候:下肢の腫脹・疼痛(DVT)、胸痛・呼吸困難(PE)に注意
長期使用時の注意
- 感染症:免疫抑制による日和見感染症(結核・ニューモシスチス肺炎・帯状疱疹等)に注意
- 悪性腫瘍:長期使用によるリスク上昇の報告あり。定期的なスクリーニング
- 心血管イベント:特にリスク因子を有する高齢者では注意が必要
- ワクチン接種:投与中は生ワクチン禁忌。帯状疱疹予防として、投与開始前にシングリックス(不活化ワクチン)の接種を検討
併用禁忌に注意:JAK阻害薬は生物学的製剤や強力な免疫抑制剤との併用は行わない(免疫抑制の過剰リスク)。メトトレキサート(MTX)等の経口抗リウマチ薬との併用は可能。
命名法:JAK阻害薬の一般名は 〜チニブ(-tinib) で終わる。これはチロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor)を示す語幹である。例:トファシチニブ、バリシチニブ、ウパダシチニブ