抗アンドロゲン薬
抗アンドロゲン薬は、男性ホルモン(アンドロゲン)の合成・分泌・作用を抑制する薬の総称。主に前立腺癌・前立腺肥大症の治療に用いられる。前立腺癌の治療ではホルモン療法(アンドロゲン除去療法:ADT)の中心的薬剤である。
- アンドロゲンは主に精巣(テストステロン)と副腎(DHEA)で産生される
- 視床下部 → GnRH → 下垂体前葉 → LH・FSH → 精巣でテストステロン合成(視床下部–下垂体–性腺軸)
- テストステロンは前立腺細胞内で5αレダクターゼによりジヒドロテストステロン(DHT)に変換 → DHTがアンドロゲン受容体に結合 → 前立腺癌細胞の増殖促進
- 抗アンドロゲン薬はこの経路のいずれかを阻害してアンドロゲンの作用を抑制する
1️⃣ GnRHアナログ(LH-RHアゴニスト)
| 代表薬(一般名) | 先発品例 | 特徴 |
|---|---|---|
| リュープロレリン | リュープリン® | 持続的GnRH刺激によるLH/FSH分泌抑制(ダウンレギュレーション)。精巣機能を薬理的に去勢状態にする |
| ゴセレリン | ゾラデックス® | 同上。前立腺癌・子宮内膜症などに使用 |
- 作用:GnRH受容体を持続的に刺激 → 受容体のダウンレギュレーション → LH・FSH分泌↓ → テストステロン↓
- ❗ 投与初期にフレアアップ現象(一過性のLH↑→テストステロン↑)が起こる → 症状悪化の可能性(骨転移痛↑、尿路閉塞など)
- フレアアップ予防に抗アンドロゲン薬を併用することがある
3️⃣ 抗アンドロゲン薬(アンドロゲン受容体拮抗薬)
| 代表薬(一般名) | 先発品例 | 特徴 |
|---|---|---|
| ビカルタミド | カソデックス® | 第一世代。アンドロゲン受容体を競合的に阻害。肝障害に注意 |
| フルタミド | オダイン® | 第一世代。同上 |
| エンザルタミド | イクスタンジ® | 第二世代。受容体親和性が高く、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)にも有効 |
| アパルタミド | アーリーダ® | 第二世代。同上。CRPCに適応 |
| ダロルタミド | ニュベクオ® | 第二世代。同上。転移性CRPCに適応 |
- 作用:アンドロゲン受容体を競合的に阻害 → DHTの前立腺細胞への作用をブロック
- GnRHアナログと併用(CAB療法:複合アンドロゲン除去療法)で用いることが多い
- 第二世代は第一世代より受容体親和性が高く、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)にも使用
5️⃣ 5α還元酵素阻害薬 5α還元酵素阻害薬
| 代表薬(一般名) | 先発品例 | 特徴 |
|---|---|---|
| デュタステリド | アボルブ® | 前立腺肥大症に使用。5αレダクターゼⅠ型・Ⅱ型を両方阻害 |
- 作用:テストステロン → DHTへの変換を阻害 → 前立腺縮小
- 主に前立腺肥大症(BPH)に使用(前立腺癌には不十分)
- PSA値を約50%低下させる → PSAスクリーニング時に注意(見かけ上の正常化)
- 妊娠中の女性は触れない(経皮吸収による胎児への影響)
- フレアアップ現象(GnRHアナログ投与初期)→ 投与開始後1〜2週間は症状悪化の可能性。骨疼痛増強・尿路閉塞・脊髄麻痺などに注意
- ホットフラッシュ(急なほてり・発汗)→ アンドロゲン低下による更年期様症状。QOLへの影響が大きい
- 骨密度低下・骨折リスク → 長期のADTで骨粗鬆症が進行。定期的な骨密度測定・カルシウム・VitD補充
- 代謝異常 → 脂質異常・耐糖能異常・体重増加・筋肉量低下(メタボリックシンドローム様)
- 心血管リスク → 長期 ADTで心血管イベントリスク↑。定期的な心電図・血圧・血糖・脂質のモニタリング
- 肝機能障害(特にビカルタミド・フルタミド)→ 定期的な肝機能検査
- 性機能障害・性欲低下 → 患者のQOLに大きく影響。心理的サポートが重要
- プレドニゾロン併用時(アビラテロン)→ ステロイドの副作用(血糖上昇・感染症・浮腫・低カリウム血症)にも注意
- デュタステリド服用患者の家族指導 → 妊娠中の女性は破損した錠剤に触れない(経皮吸収による胎児への影響)
- 服薬アドヒアランス → 副作用(QOL低下)による自己中断を防ぐため、治療の意義を繰り返し説明