00補足|2026年BMJ研究では、何が分かった?

00補足|2026年BMJ研究では、何が分かった?

65のPIPC候補を実臨床データで評価し、24件を高優先度として抽出

2025年の国際専門家Delphiで整理された65件の potentially inappropriate prescribing cascades(PIPCs)について、2026年のBMJ研究では、カナダ・オンタリオ州の大規模な高齢者データを用いて、どのPIPCを優先して確認すべきかが検討された。
重要なのは、この研究が「不適切処方を確定した研究」ではないことだ。起点薬の使用規模、処方組み合わせの発生頻度、起点薬→追加薬の時間的関連をもとに、集団レベルで優先順位を付けた研究である。

1|どんな研究?

研究デザイン
Population-level retrospective cohort study
対象
  • カナダ・オンタリオ州
  • 地域在住高齢者
  • 66歳以上
  • 2,297,942人
  • 女性 54.3%
2022年1月1日時点で生存していた高齢者を対象に、行政医療データを用いて65件のPIPC候補を評価した。

2|何を調べた?

各PIPCについて、3つの指標を評価した。

① 起点薬のpopulation prevalence

その起点薬が、高齢者集団でどのくらい使われているか
薬剤自体が広く使用されていれば、処方カスケードが生じた場合の集団への影響も大きくなる。

② prescribing cascade incidence

起点薬→追加薬という組み合わせが、どのくらい観察されたか
ただし、この数値は副作用の発生率ではない。
例えば、
鉄剤 → 下剤 11.9%
という結果は、
「鉄剤使用者の11.9%に鉄剤による便秘が起きた」
という意味ではない。
研究で定義された鉄剤→下剤という処方組み合わせのincidenceを示している。

③ adjusted sequence ratio(ASR)

起点薬→追加薬という順序が、逆の順序よりどのくらい多く観察されたか
処方順序の時間的な偏りを見る指標である。
したがって、
ASR 2.55=副作用リスクが2.55倍
ではない。
また、
ASRが高い=因果関係が証明された
という意味でもない。

3|「高優先度PIPC」の基準

研究では、次の3条件をすべて満たすPIPCを高優先度とした。

① 起点薬が広く使われている

population prevalence ≥5%

② 処方組み合わせが一定以上みられる

cascade incidence ≥1%

③ 起点薬→追加薬の時間的関連がある

adjusted sequence ratio >1
さらに、各指標の95%信頼区間下限も基準を超えることが求められた。

4|65件中、24件が高優先度

65件のPIPC候補
↓
3つの基準で評価
↓

24件(37%)が高優先度PIPC

として抽出された。
つまり、
65件すべてを同じ優先度で扱うのではなく、集団レベルでより優先して確認する価値が高い24件が示された
と考えるとよい。

5|発生頻度が高かったPIPC

prescribing cascade incidenceが高かった代表例は、
PIPCIncidence
鉄剤 → 下剤11.9%
HMG-CoA還元酵素阻害薬 → 鎮痛薬10.9%
コリンエステラーゼ阻害薬 → 睡眠薬10.3%
だった。
ここでも、
Incidence=副作用発生率ではない
ことを強調する必要がある。

6|時間的関連が強かったPIPC

adjusted sequence ratioが高かった代表例は、
PIPCASR
コルチコステロイド → 抗精神病薬2.55
下剤 → 止瀉薬2.53
コリンエステラーゼ阻害薬 → 制吐薬2.24
だった。
これは、
起点薬が先、その後に追加薬
という順序が、逆の順序より多く観察されたことを示す。
個々の患者で起点薬が症状の原因だったことを証明するものではない。

7|性差も検討された

多くのPIPCでは、男性・女性でASRは概ね一致していた。
一方、SSRI/SNRI → 過活動膀胱治療薬では、
  • 男性:ASR 1.21
  • 女性:ASR 1.02
と差がみられた。
ただし、この結果から、
男性の方がSSRI/SNRIによる尿失禁を起こしやすい
とは判断できない。
示されているのは、あくまで集団レベルでの処方順序の違いである。

8|この研究から分かること

分かること

  • 起点薬が高齢者集団でどの程度使われているか
  • 起点薬+追加薬の組み合わせがどの程度みられるか
  • 起点薬→追加薬という処方順序に時間的な偏りがあるか
  • 集団レベルで、どのPIPCを優先的に確認するとよいか

分からないこと

  • 個々の患者で起点薬が本当に症状の原因だったか
  • 追加薬が不要だったか
  • その処方が実際に不適切だったか
  • 24件以外のPIPCは確認不要なのか

重要|「24件=不適切処方」ではない

この研究で抽出された24件は、
不適切処方24選
ではない。
より正確には、
集団レベルで薬剤レビューや安全対策の優先度が高いと整理された24のPIPC
である。
したがって、個々の患者では、
  • 症状の原因
  • 起点薬の治療目的
  • 起点薬を継続する必要性
  • 追加薬の適応
  • 他の原因
  • 患者背景
を確認する必要がある。

薬剤レビューへの活かし方

研究結果は、次のように使う。
PIPC候補を見つける
↓
高優先度PIPCか確認
↓
起点薬→症状→追加薬の経過をさかのぼる
↓
症状の原因を評価
↓
起点薬の必要性を確認
↓
追加薬の適応・安全性を確認
↓

処方全体の妥当性を見直す

目的は、単純に追加薬を減らすことではない。

Take Home

2026年BMJ研究では、65のPIPC候補を約230万人の高齢者の実臨床データで評価し、起点薬の使用規模、処方組み合わせの発生頻度、時間的関連の3条件から24件を高優先度として抽出した。これは不適切処方を断定するリストではなく、薬剤レビューや安全対策で優先して確認したい処方カスケードを示すものだ。

この資料の位置づけ

高優先度PIPCに該当する処方の組み合わせがあっても、それだけで不適切な処方とは判断できない。個々の患者の症状、病態、治療目的、起点薬・追加薬の必要性、他の原因等を確認し、処方全体を見直す際の参考情報として活用する。

参考文献

  1. Rochon PA, O'Mahony D, Cherubini A, et al. International expert panel's potentially inappropriate prescribing cascades (PIPC) list. Eur Geriatr Med. 2025;16(5):1573-1584.
  1. Rochon PA, Austin PC, Gurwitz JH, et al. Exploring high priority potentially inappropriate prescribing cascades in older adults: population level retrospective cohort study. BMJ. 2026;394:e100499. doi:10.1136/bmj-2026-100499. PMID: 42727946.