グレープフルーツと医薬品の相互作用
経口投与後の初回通過効果
フェロジピンという、血圧を下げる薬を、口から飲んだ時にたどる経路を示しています。胃を通って、小腸から吸収されますが、小腸の細胞内にも、 CYP3A4 という酵素が存在しています。小腸を通る時に、CYP3A4 で代謝されるため、フェロジピンは、飲んだ薬の量を100とすると、70%が分解されるので、30% のみが吸収されます。
次に、小腸で吸収された薬物は、門脈を通って、肝臓に運ばれます。肝臓にも、CYP3A4 が存在しているので、分解されます。フェロ時ピンは、30% から 15% へと、半分になります。
このように、薬によっては、小腸での分解を強く受けています。
グレープフルーツとの相互作用では、この小腸での分解に対して、グレープフルーツは、酵素の働きを強く阻害することで、相互作用が起きてしまいます。
グレープフルーツと医薬品の相互作用についてまとめます。
①相互作用のメカニズム
グレープフルーツに含まれる成分が、薬物の代謝酵素の一つである、CYP3A4 を阻害します。そのため、CYP3A4 で代謝される薬物の分解が阻害され、薬物の血中濃度が上昇することで、薬物の副作用が起こります。
これは、グレープフルーツに含まれている、フラノクマリン類という化合物が影響しています。数種類が同定されています。
※CYP3A4 で代謝された後の代謝物が、主に薬効を発揮する薬の場合は、グレープフルーツとの相互作用で、薬効が減弱します。
この相互作用を引き起こしている物質ですが、
グレープフルーツの果肉にも、白い皮の部分にも存在しています。グレープフルーツには、果肉が白いもの、ルビー色のものがありますが、どちらにも含まれています。
また、この物質による酵素阻害作用の様式は、不可逆的阻害であり、一度結合したら、離れないので、その影響は数日間持続します。
②グレープフルーツ摂取はどこまで大丈夫?
では、実際に患者様に説明する時には、どこまでダメなのか、きちんと説明する必要があります。グレープフルーツがダメ、といっても、どこまでがダメなのでしょうか。
グレープフルーツの、果肉を食べること、ジュースを飲むこと、皮を使用したジジャムを食べること、全て、ダメです。
先ほど示したように、果肉にも、皮にも、原因物質が含まれています。
ジャムについては、1週間に1.5kg もの大量のジャムを摂取した例で、相互作用が起きたことが報告されています。
次に、時間を開ければ、摂取しても構わないのでしょうか。
これも、同時摂取だけではなく、原則、服薬中は摂取してはいけません。
グレープフルーツの成分による阻害作用は、数日間持続します。そのため、原則として、服薬期間中は、グレープフルーツは摂取してはいけません。
ただし、相互作用を回避するために開けるべき時間は、その薬がどの程度影響を受けやすいかによって違います。
相互作用の詳細がわかっていなかった時は、果皮に含まれるので、果実を食するのは大丈夫では?とも考えられていたので、「グレープフルーツジュース」は×と書かれていましたが、その後、果実にも含まれることがわかってきました。
※そもそも、最初の症例が、ジュース飲用後に副作用症状が出た例でした。ジュースに特に注意が必要なのは、簡単に大量を摂取できるところ、でもあります。
③他の柑橘類は?
では、次に、グレープフルーツ以外の、柑橘類については、どうでしょうか?
いろんな柑橘類について、フラノクマリン類の含有量が調べられています。
グレープフルーツは、ザボンに近い品種です。類似した品種でも、フラノクマリン類を含んでいることが明らかになっています。
ここでは、含有量を調べた研究から、大まかに4群にわけて 、ご紹介します。
グレープフルーツの他、スウィーティー、メロゴールド、ばんぺいゆ、レッドポメロ、ぶんたん、サワーポメロ、あまなつは、フラノクマリン類の含有量が多いです。そのため、グレープフルーツと同様に、注意が必要です。
次に、だいだい、はっさく、メキシカンライム、パールかん、サンポウカン、レモン、ひゅうがなつ、スイートオレンジは、グレープフルーツよりも少ないものの、フラノクマリン類を含むことがわかっています。
そのため、影響の出やすい薬については、注意が必要だと言えます。
次に、ポンカン、いよかん、ゆず、カボス、スダチ、金柑、これらは、微量ではありますが、フラノクマリン類を含んでいました。
一方で、うんしゅうみかんやデコポンは、この研究では、検出下限以下であり、検出されませんでした。
含有量の他、摂取量によっても、もちろん、影響は異なります。
④どんな薬に注意が必要か?
では次に、どんな薬に注意が必要なのでしょうか。
実は、たくさんの薬が、影響を受けることがわかっています。先ほど示した、フェロジピンは、100%のうち、70%が小腸の細胞内で代謝され、その後、肝臓で15%に減少するというように、初回通過効果の影響は中程度に受ける薬剤、とされています。
カルシウム拮抗薬のひとつであるアムロジピンは、初回通過効果が受けますが、100%のうち、97%は全身循環血液中に移行すると言われており、初回通過効果の影響が低い薬剤です。
このように、アムロジピンでは、90% 以上が全身循環血液中に移行すると言われており、初回通過効果の影響は小さいため、グレープフルーツ併用した時でも、ほとんど、血中濃度は増加しないと考えられます。
添付文書では、一様に、「併用注意」ですが、その影響の程度は、異なります。
他にも、患者の個人差によって、影響の受けやすさは異なります。
果実の摂取量によっても異なります。
(免疫抑制薬、カルシウム拮抗薬、高脂血症治療薬などが言われていますが、実はそれだけではありません)
学問的には、アムロジピンは、影響は少ないと考えられるのですが、
しかし、経験上、関与が疑われる症例報告があるため、
→(臨床での対応)「疑わしいものは、可能な限り避ける」
実際には、薬剤のリスクも鑑みて対応しています(ハイリスク薬では、より厳密な制限が必要です)
最後に
以上、グレープフルーツと医薬品の相互作用について、説明しました。
リスクの程度は、医薬品の特徴によっても異なりますので、適切な対処が必要です。
グレープフルーツとカルシウム拮抗薬との相互作用が有名なので、そればかり想像する人も多いかもしれませんが、それだけではありません。免疫抑制薬や抗がん剤の一部にもありますので、きちんと薬剤師に確認をしてください。
実は、また別のリスクもあるのですが、それは、また別のところでお伝えします。別のフルーツも。
医薬品との相互作用を説明しましたが、もちろん、グレープフルーツ自体は、とても美味しいです、影響のある医薬品を服用中でない場合は、どうぞお召し上がりください。