【補足】8-6 脂質異常症治療薬

動脈硬化とは?

動脈の血管が硬くなって、弾力が失われた状態をいい、動脈硬化性疾患の原因となる。
・アテローム動脈硬化(粥状動脈硬化)
動脈の内膜にコレステロールが沈着し、隆起した病変、プラーク(粥状動脈硬化巣)ができて、血管が狭くなる→狭心症 等
柔らかいアテロームが破綻して、血栓ができ、血管が詰まる →心筋梗塞 等
アテローム硬化病変は、血管の内腔を狭窄・閉塞させ、全身の血管で影響を与える。
例えば、
【心臓】
・狭心症:冠動脈の狭窄などのため、心筋が必要とする酸素の供給が、一時的に不足する
・心筋梗塞:冠動脈が閉塞し、血流が失われるため、その血管が養っていた部位が壊死に陥ってしまう
動脈硬化性疾患に対しては、発症予防と進展阻止の両方が重要である。
①発症予防
リスクが高い時に対処して、動脈硬化性疾患の発症を予防するためにおこなう一次予防
②進展阻止
動脈硬化病変が発見された後、進展を阻止する二次予防
まずは、生活習慣の改善を行い、不十分な場合に、薬物療法が行われる。ただし、冠動脈疾患の既往がある場合には、同時に開始することが必要となる。
動脈硬化性疾患の予防のために、生活習慣の改善として、①禁煙、②食事療法、③運動療法、④適性体重の維持が重要である。

脂質の分類

脂質は、効率の良いエネルギー源であり、細胞膜やホルモンの原料としても必要な物質である。
体内に存在する脂質は、コレステロールと脂肪酸が結合してできたものであり、コレステロール、トリグリセリド、遊離脂肪酸、リン脂質がある。
遊離脂肪酸は、水に溶けやすいが、優里コレステロールやリン脂質は、やや水に溶けにくい、コレステロールエステルやトリグリセリドは、水に溶けにくい。ただ、体内は水の多い環境である。体内で、どのように存在しているかというと、アポタンパク質と結合して、リポタンパク質となる。水に溶けにくい脂質は、リポタンパク質になることで、体内で安定して存在している。
リポタンパク質は、外側に、親水性のリン脂質や遊離コレステロール、アポタンパク質が並んでおり、中心部に疎水性のコレステロールエステルや鶏グリセリドがある。リポタンパク質は、比重の違いや、内部の脂質成分の粒子の大きさによって分類されている。アポタンパク質の割合が高く、脂質の割合が低いほど、比重が大きくなる。

脂質代謝

食餌中に含まれる脂質は、膵臓で作られ十二指腸で分泌される酵素であるリパーゼによって消化される。モノグリセリドや、脂肪酸・グリセロールに分解され、吸収される。
カイロミクロン‥吸収された脂質から合成され、腸から、他の部分へ脂質を輸送する役割を担う。
VLDL‥肝臓で合成される。血管を通って全身をめぐる。各組織にコレステロールを運搬し、LDL に変換される。
LDL‥組織にコレステロールを運搬する。
HDL‥末梢のコレステロール回収して、肝臓に戻す役割を担う。
LDLは、組織にコレステロールを運搬し、脂肪組織では蓄積され、末梢ではエネルギー源として活用される。ただし、過剰に蓄積されると動脈硬化疾患に繋がるため、「悪玉コレステロール」と呼ばれる。
HDL は、組織のコレステロールを回収するため、「善玉コレステロール」と呼ばれる。
細胞膜には、LDL 受容体が存在しており、LDL は LDL 受容体に結合して、細胞内に取り込まれる。
食事から摂取するコレステロールは全体の半分であり、残りは、脂肪酸を代謝してできた HMG-CoA を原料にして、肝臓で生合成される。
また、コレステロールが代謝されると胆汁酸となり、胆汁から、腸内へと排出される。ただし、ほとんどが回腸で回収され、肝臓に戻って再利用される(腸管循環)。
(補足)トリグリセリドとは、グリセロールに脂肪酸が3つ結合したものである。グリセロールの結合数は、1つ(モノ)、2つ(ジ)、3つ(トリ)の可能性があり、これらを総称して「中性脂肪」というが、体内に存在する中性脂肪は、ほぼトリグリセリドであるため、同義の言葉として使われることもある。
中性脂肪は、主に、エネルギー貯蔵物質としての役割を果たしている。
エネルギーが過剰である時に、炭水化物から中性脂肪が作られる(タンパク質から合成されるのはわずか)。
簡単なまとめのイメージ
【コレステロール・中性脂肪を増やす】
・食物から吸収する
・肝臓で作られる
【コレステロール・中性脂肪を減らす】
・組織に運ばれ、エネルギー源として消費される
・胆汁酸として排出される

脂質異常症治療薬

過剰なコレステロールは、動脈硬化性疾患の原因となるために治療が必要である。
脂質異常症とは、
・LDLコレステロールやトリグリセリドが標準以上に増加した状態、もしくは
・HDL コレステロールが標準以下に低下した状態の
総称である。
脂質異常症治療薬は、大きく二つに分けられる。
・LDL コレステロール低下薬
・トリグリセリド低下薬
脂質異常症の治療目標として、脂質管理目標値は、動脈硬化性疾患のリスクを総合的に判断して、設定される。

LDL コレステロール低下薬

  • スタチン
  • 小腸コレステロールトランスポーター阻害薬
  • 陰イオン交換樹脂(レジン)
  • プロブコール

スタチン

高 LDL 血症に対する第一選択薬は、スタチンである。コレステロール合成経路のうち、律速段階(全体での反応速度に最も影響する過程)の酵素を阻害する。この酵素を、HMG-CoA 還元酵素といい、スタチンは、HMG-CoA 還元酵素阻害薬ともいう。肝臓でのコレステロール生合成が減少し、肝臓での LDL コレステロールが減少するため、LDL 受容体が増加し、肝臓への LDL コレステロールの取り込みが促進されることで、血中の LDL コレステロールが低下する。

小腸コレステロールトランスポーター阻害薬

小腸において、コレステロールは、タンパク質である NPC1L1 によって、吸収される。そのため、この小腸コレステロールトランスポーターを阻害することで、小腸からのコレステロール吸収を阻害することができる(食事由来および胆汁由来のコレステロールの吸収を阻害する)

陰イオン交換樹脂(レジン)

腸管内で、胆汁酸と結合し、そのまま、糞便として排泄される。
その結果、胆汁酸の腸管循環が減少する。
この薬自身は吸収されない。
※飲みづらい薬であり、正しい服用方法の説明が重要である。

プロブコール

コレステロールを胆汁中に排出するように促したり、コレステロールの合成を抑える。

HMG-CoA 還元酵素阻害薬(スタチン)

肝臓でのコレステロール合成を阻害するため、血中から肝臓へのコレステロールの取り込みが活性化され、血中のコレステロールが低下する。
  • 総コレステロール:低下
  • LDL コレステロール:低下
  • HDL コレステロール:増加・不変・減少(減少させる場合があることも知られている)
  • 中性脂肪(TG):低下・・中性脂肪を組織に運ぶ VLDL も低下させるため
LDL コレステロールを下げる強さによって、「スタンダードスタチン」「ストロングスタチン」に分類されている。(スタンダードスタチンの薬剤間、ストロングスタチンの薬剤間では、効果には差はないと考えられている)
スタチンの主な副作用には、腹部不快感・腹痛などの消化器症状や発疹や皮膚そう痒などの皮膚症状など、いずれも休薬で改善する、軽微な症状が主である。
ただ、非常に稀であるが、重篤な副作用として、横紋筋融解症がある。

横紋筋融解症

横紋筋融解症とは、骨格筋が融解・壊死し、細胞内の成分が血中に流出するため、大量のミオグロビンが腎細管に負担をかけるため、急性腎不全に至るものである。骨格筋が融解・壊死するため、筋力低下筋肉痛の徴候が出現する可能性がある。また、細胞内の成分が血中に流出するため、赤褐色尿(ミオグロビン尿)や、筋細胞内にあったクレアチニンキナーゼや乳酸脱水素酵素、AST、ALTが血中に放出されるため、検査値として血中濃度が高値として、その徴候を知ることができる。
呼吸筋が壊れた場合、呼吸障害が現れる可能性もある。
早期診断が重要であり、腎不全や呼吸障害がなければ、予後は比較的良好で、筋組織はほぼ完全に回復する。
筋肉が壊れる横紋筋融解症の原因として、けが・熱中症・薬剤がある。
原因薬剤として、特に、脂質異常症治療薬が重要であり、フィブラート系薬剤やスタチンが原因薬剤である。その他に、抗菌薬や向精神薬、麻薬などがある。
スタチンについて、横紋筋融解症は発生したら重篤であるため、初期症状に注意が必要ではあるが、発生頻度としては、筋肉痛やミオパチーの方が多い。
スタチンとフィブラート系を併用すると副作用リスクの可能性が高くなるため、注意が必要である。(併用注意)
スタチンによるミオパチーの発症リスク因子として、高齢者、女性、腎機能低下、甲状腺機能低下症などが知られており、さらに、高用量ほどリスクが増大する。

小腸コレステロールトランスポーター阻害薬

小腸で、食事由来や胆汁酸由来のコレステロールが再吸収されるのを阻害する。スタチンとは異なる作用箇所が異なるため、スタチン単剤効果が不十分であるときに、併用すると、相加効果が期待できる。

トリグリセリド低下薬

フィブラート系
肝臓での中性脂肪の合成を抑えるなどの効果の他、HDL コレステロールを増加させる効果もある。
n-3系多価不飽和脂肪酸
・イコサペント酸エチル(EPA)
・オメガ-3 脂肪酸エチル

HDL コレステロール増加薬

フィブラート系薬、選択的 PPAR αモジュレーター、ニコチン酸誘導体は、HDL コレステロール増加作用が強く、一部のスタチンにも、HDL コレステロール増加作用がある。
しかし、HDL コレステロールが低い状態だけである場合、HDL コレステロールを増やす目的のためだけに薬物療法が行われることはまれである。