重症高血圧(令和5年12月)
重症高血圧
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- 患者の皆様へ(PDF:228KB)(令和5年12月)
- 医療関係者の皆様へ(PDF:352KB)(令和5年12月)
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2023年9月20日 第15回重篤副作用総合対策検討会 議事録
日本循環器学会の苅尾参考人から資料2-1を御説明いただきたいと思います。苅尾先生、よろしくお願いします。
○苅尾参考人 よろしくお願いします。自治医科大学の苅尾でございます。
重症高血圧、これは薬剤によって引き起こされる。これが本当に重要かどうかという最初の議論から相談を受けたのですけれども、薬を飲み始めてから急に血圧が高くなって、循環器の疾患を引き起こして入ってこられる。特に心不全ですね。高齢者であったり腎機能が悪い人であったりとか、そういう患者さんを診ることが非常に多いわけです。それをできるだけ早いところから、医療機関の先生だけではなくて、一番大事なのは他職種、特に薬剤師さんのほうからもチェックしていただく。薬剤師さんのところから、こういう副作用があったときには家庭血圧で自己チェックしてください、そういうふうなことをもう一遍違う視点からアラートすることによって、より早くリスクを検出して重症化の予防になると考えて、これは非常に大事なことだと考えたわけです。
今回、いろいろ書いたのですけれども、できるだけ分かりやすい言葉で書きました。いろんな先生方の意見を聞きながらですけれども、特に薬剤師さんの立場から、林先生からもいろいろ新規のコメントとか、また、今日来ていただいている先生方のいろんなチェックを受けて、よりよいものになったのではないかと考えている次第であります。
今日の趣旨ですが、資料の8ページを御覧ください。「医療関係者の皆様へ」のポツをずっとつけているところがエッセンシャルなところであります。
重篤な、急性に起こってきます高血圧緊急症、また、特に血圧が180/120ぐらいまで上がるような人、その先には循環器のイベント、腎臓のイベント、こういったものがある。これが内分泌の疾患、また、疾患と薬剤の組合せでハイリスク群、ハイリスクの薬によってその組合せで引き起こされるということをもう一度きちっとリマインドして、今回のマニュアルにまとめたということであります。
特にその中で、薬剤師も医師も、こういう疾患を持って、こういう薬が出ている人にプラス、こういう薬剤を使ったらその組合せで上がるだろうというようなことが専門家から見ると推定されるわけです。その組合せを見過ごすことなく、そういう人には、血圧もきっと上がっていく、家庭血圧を活用しながら、より早期から言及していただく、そういうチェック機構をぜひ本会を通じて、また、このマニュアルをどう利活用していくかどうかで、これは林先生にもお願いしまして、パンフレットなどを作っていただいて、薬剤師さんのところに貼ってもらう、そういう利活用のことも考えているわけであります。上がってきてから、イベントを起こしてから気がつくのではなくて、ハイリスク群の人を同定し、ハイリスクの薬を投与したら、そのときを基準にしながら、家庭血圧をずっとつけていってもらって、時々チェックして重症化を予防する、そういう活用がこのマニュアルをもってもう一遍リマインドして普及していったらと思います。
特に改定のポイントなのですけれども、家庭血圧の自己測定、そして、特にハイリスク患者、ハイリスクの薬の投与を受ける患者に対してぜひ自己測定を推奨していただけたらと思います。非常に行き渡っているのですけれども、家庭血圧の自己測定をやっていない方も結構おられるのです。高くなってから、絶対値のレベルだけではなくて、どれぐらいの勢いで上がっていくか、特に最近の分子標的薬、抗がん剤などは急激なスピードで上がっていく場合も散見されます。「こういう薬を飲むのだったら気をつけてね。家庭血圧を測っておいてくださいよ」、そういうお声がけに使っていただけたらと思います。
以上が今回のマニュアルを新たに作ったことの意義、その利活用の方向であります。
以上です。
○五十嵐座長 御説明ありがとうございました。
それでは、資料2-1につきまして、質問あるいは御意見ございましたら、どうぞ、薄井先生。
○薄井構成員 慈恵医大の薄井でございます。
苅尾先生、どうもありがとうございます。非常に分かりやすくて、重要なところが網羅されているので、非常にすばらしいマニュアルと思っております。
2つぐらい質問させていただきたいと思います。
まず、9ページの先生がポイントのところでお話しされましたけれども、(4)の「医療関係者の対応のポイント」というところですが、非常に重要なことが書いてあると思います。私、専門が血液腫瘍なので、血液がんや固形がんも拝見することが多くて、最近では様々な抗がん剤の高血圧クリーゼというのは結構問題になっております。
その中で、細かいことをお話しするようで申し訳ないのですけれども、ちょうど真ん中のところにがんの患者さんの分子標的薬のことが書いてありますね。これは非常に重要な点だと思っております。これを踏まえて、先ほど事務局から御説明があった20ページの参考1を見ておりますと、例えば参考1の医薬品のところの令和2年度、令和3年度とありますけれども、分子標的薬も様々なものが高血圧クリーゼになっております。特に重要と思うのは、患者さんが経口抗がん薬を出されて飲んでいるうちに血圧が上がってきて脳梗塞を発症され、がんではなくてそういうトラブルで亡くなるということも多いものですから、ここの書き方は非常に重要だと思うのですが、「担がん患者」ということがちょっと難しいかなと思いました。例えば特に悪性腫瘍の患者さんへの分子標的薬とか、そんな内容にされると医療関係者の方でも読みやすいかなと思ったものですから、この辺の書きぶりをもう少し御検討いただけると宜しいかと思います。
もう一つは、分子標的薬、様々ありますけれども、経口薬も含めてとか、何かそこを注意書きになさるとかいうことがあると、もうちょっと注意されるかなと思ったものですから、そのへんを御検討いただけると宜しいかと思いますが、いかがでございましょう。
○苅尾参考人 分かりました。悪性腫瘍を有しておられる患者さんとか、そういう形の書き方にしまして、特に注射薬だったらいつもチェックしますけれども、自分で飲んでいるうちにしばらく間がたってしまいますので、特に経口薬のときは注意が必要である、そういう文言にしたいと思います。
○薄井構成員 ありがとうございます。
それと症例が出ておりましたね。あれはすごく重要で、特にレンバチニブの甲状腺がんの患者さんでしたか。
○苅尾参考人 そうです。
○薄井構成員 非常に重要なので、これは結構あるのです。日常でよく起きていますので、こういうことで注意喚起をかけていただくのは非常に良いことなので、強調していただいても宜しいかなと思いました。
非常にすばらしいマニュアルだと思いますし、薬剤師さんもそうですけれども、現場の医師たちもこれを基にきちんと高血圧の管理をすることが重要だということが伝わるのではないかと思いました。どうもありがとうございました。
以上でございます。
○苅尾参考人 分かりました。貴重なコメントどうもありがとうございます。
○五十嵐座長 どうもありがとうございます。
それでは、2か所、少し修正があるということですね。これは間違いではなくて、より分かりやすくする、そういう方向に修正していただきたいと思います。
ほかはいかがでしょうか。
大変細かいことなのですけれども、8ページに「急性腎不全」という言葉が2つ使われています。山縣先生、間違いではないのでしょうけれども、最近は「急性腎障害」という言葉のほうをよく使うのでしょうか。
○山縣構成員 おっしゃるとおりでございます。今は「急性腎不全」という言葉はなるべき避けるようにして、腎機能の悪い方が急激に悪化したものも含めた「急性腎障害」というふうに呼称を変えておりますので、修正していただいたほうがよろしいかなと思います。
○苅尾参考人 分かりました。修正しておきます。
○五十嵐座長 8ページに2か所ありますので、よろしくお願いします。
○苅尾参考人 2か所ですね。分かりました。
○五十嵐座長 間違いではないと思うのですけれども、一般の方は「急性腎不全」のほうが分かりやすいし、多くのドクターも多分そういう意識だとは思いますが、用語が最近変わってきているのですね。よろしくお願いします。
○苅尾参考人 なるほど。分かりました。
○五十嵐座長 山縣先生、どうぞ。
○山縣構成員 今の用語の関係でもう一個確認なのですけれども、重症高血圧症という定義なのですが、文書にも書いてあるように、高血圧緊急症をほぼそのまま用いるというようなことで、あえて高血圧緊急症ではなく重症高血圧マニュアルにした何か意図があるのでしょうか。もちろんこのほうが高血圧のちょっと重症なものも含めてという、少し広く取ろうという意図なのかなとも解釈したのですが、そういうことでよろしいですか。
○苅尾参考人 そのとおりです。やはり緊急症の氷山の一角であって、レベルが上がってきた前の段階、また、一般の先生方にも分かりやすい形で、これは定義を書いたのですけれども、そこにより幅広くということで重症という形にしております。
○山縣構成員 了解いたしました。結構です。
○五十嵐座長 ありがとうございます。
ほかはいかがでしょうか。
それでは、幾つか御指摘がありましたけれども、細かな点だったと思いますが、文言を少し修正していただくということでよろしいでしょうか。
では、基本的には循環器学会が作成いただきましたマニュアル案は了承するということにしたいと思います。どうもありがとうございました。
○苅尾参考人 どうもありがとうございました。
○五十嵐座長 苅尾先生、後、どうぞよろしくお願いいたします。
○苅尾参考人 分かりました。
○五十嵐座長 今後の進め方につきましては、事務局に最後にまとめていただきますので、よろしくお願いいたします。
高血圧緊急症の原因薬剤
褐色細胞腫を背景とする場合は、 ドパミン受容体拮抗薬 (メトクロプラミド) 、グルカゴン、β遮断薬単独投与、三環系抗うつ薬、SNRI、MAO 阻害薬、高用量デキサメタゾン(2 mg 以上) 、造影剤の使用、化学療法などを契機に高血圧クリーゼとなる場合がある。 一般に、重度の血圧上昇をきたす可能性がある主な原因薬剤は以下のとおりである。
(1) 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
治療方法:
高齢者では特に長期間の使用を避け、 減量・中止する。 原因の一つが、 腎プ
ロスタグランジン産生抑制による血管拡張の抑制のため、降圧薬としてはカ
ルシウム拮抗薬が最も降圧効果が得やすい。
(2) 甘草,グリチルリチン
治療方法:
減量・ 中止を基本とする。 原因が、 内因性ステロイド作用の増強及びミネラ
ルコルチコイド受容体の活性化とされている。 降圧薬としては、 ミネラルコル
チコイド受容体拮抗薬が最も効果が得やすい。
(3) グルココルチコイド
治療方法:
減量あるいは中止が第一であるが、原疾患への影響を考慮する必要性があるために、 主治医に相談することが重要である。 甘草と同様に、 ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬が最も降圧効果が得やすい。
(4) 免疫抑制薬
治療方法:
中止は困難である場合が多く、 降圧が必要な場合には、 通常の降圧薬治療を
開始・ 増強する。 降圧薬によっては、 免疫抑制薬の血液中の薬物濃度を上昇さ
せる可能性があるため注意する。
(5) エリスロポエチン製剤・HIF-PH 阻害薬
治療方法:
減量 ・ 中止を基本とする。 必要があれば通常の降圧薬治療を開始 ・ 増強する。
(6) エストロゲン
治療方法:
減量・ 中止を基本とする。 降圧薬としては、 原因が肝臓でのアンジオテンシ
ノーゲンの産生の亢進のため ACE 阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬
(ARB)が選択されるが、挙児希望などを考慮する場合がある。
(7) モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬、抗うつ薬
治療方法:
減量・ 中止を基本とする。 中止できない場合には、 α遮断薬や中枢系交感神
経抑制薬を考慮する。
(8) 抗 VEGF(vascular endothelial growth factor)薬
治療方法:
治療開始前から厳格な高血圧治療を行うとともに、治療開始後に高血圧が
発症・管理不良となった場合には、 可能であれば減量・休薬し、 必要があれば
通常の降圧薬治療を開始・増強する。
ベバシズマブ:抗 VEGF 抗体
ラムシルマブ:抗 VEGF 受容体抗体
アフリベルセプト: VEGF 標的融合蛋白
(9) マルチキナーゼ阻害薬
治療方法:
中止は困難である場合が多く、 降圧が必要な場合は、 通常の降圧薬治療を開
始・増強する
高血圧 | Grade 3 以上の高血圧 | |
---|---|---|
ソラフェニブ | 27.5% | 12.2% |
スニチニブ | 49.4% | 16.0% |
カボザンチニブ | 32.6% |
(10) 経口血小板減少抑制薬/脾臓チロシンキナーゼ阻害薬
治療方法:
減量あるいは中止の検討は必要であるが、原疾患への影響を考慮する必要があ
るために、主治医に相談することが重要である。降圧が必要な場合は、通常の降圧薬治療を開始・増強する。
ホスタマチニブ