血管新生阻害薬
作用機序
がん細胞は、自ら血管新生因子(VEGFなど)を放出し、新生血管を促進し、がん細胞の増殖・生存に必要な酸素・栄養素を補給している。
血管新生の機序
- リガンド:VEGF など
がん細胞は、低酸素状態に陥ったことなどをきっかけにして、VEGF を放出する
- 受容体:VEGFR など
- 受容体からの信号伝達:
血管内皮細胞には、VEGF 受容体(VEGFR)が発現している
VEGFR には、3種類ある(VEGFR1, VEGFR2, VEGFR3)
(1) VEGFR に VEGF が結合する
(2) VEGFR は2量体を形成し、受容体の細胞内領域にあるチロシンキナーゼが活性化される
(3) チロシンキナーゼは、タンパク質をリン酸化する
(4) 細胞内シグナル伝達が開始される
(5) 血管新生が活性化される
(6) 新たな血管ができ、がん細胞の増殖が促進される
血管新生阻害薬
リガンド(VEGFなど)に対する薬
- 抗 VEGF 抗体薬・・・VEGF と結合し、VEGF と受容体(VEGFR)との結合を阻害する
- VEGF 阻害薬・・・VEGF と結合し、VEGF と受容体(VEGFR)との結合を阻害する
受容体に対する薬
- 抗 VEGFR2 抗体薬・・・VEGFR に結合し、VEGF の結合を阻害する
- VEGFR-TKI(チロシンキナーゼ阻害薬)・・・VEGFRはチロシンキナーゼ活性を持っており、チロシンキナーゼが作用し、タンパク質をリン酸化することで、細胞増殖シグナルをON状態にする。VEGFR-TKI は、チロシンキナーゼ活性を阻害することで、細胞増殖シグナルの放出を阻害する
「がん細胞を兵糧攻めにする」
血管阻害薬の作用機序の特徴として、異常に増殖するがん細胞に栄養を供給させるための血管新生を阻害するため、「兵糧攻め」にする薬と形容することが多い。
そのため、レジメンとして、単剤で使用するのではなく、他の抗がん薬と併用することで効果を上げる、ことが特徴と言える。
特徴的な副作用
血管・血液に関連した特徴的な副作用を認める
主作用:がん病巣で血管新生を阻害することで、がん細胞の増殖を抑制する
副作用:正常組織での血管新生を阻害する
機序 | 対策 | |
---|---|---|
高血圧 | 血管拡張因子(NO)の産生を阻害する | 定期的に血圧を測定 発症した場合、高血圧に対する治療を行う |
出血 | 毛細血管の破綻のため、軽症の鼻出血が多い まれに重篤な出血や、脳転移例では脳出血もありうることに注意 | 出血傾向に注意 重度の出血が見られる場合や、脳出血を疑う症状が見られた場合、投与を中止し適切な治療を行う |
蛋白尿 | ・腎臓の毛細血管の障害のため ・蛋白尿の頻度は高いが、重篤な腎機能障害に至ることはまれ | 定期的に尿蛋白の検査を行う 増加が見られた場合は、休薬 |
血栓塞栓症 | ・動脈血栓症(虚血性心疾患や脳梗塞など)のリスクが、より上昇すると言われている ・静脈血栓症(深部静脈血栓症など)にも注意する | 血栓塞栓症を疑う症状が見られた場合、投与を中止し、適切な治療を行う |
創傷治癒遅延 | 血管新生は組織修復に必須の過程であるため、その阻害により創傷の治癒が遅くなる | 手術前後は休薬する |