アスピリン喘息に注意すべき薬?
アスピリン喘息患者に注意すべき薬とは?
A. アスピリン以外にも、非ステロイド性解熱消炎鎮痛薬や副腎皮質ステロイド薬の急速静注などによって、喘息発作が引き起こされる可能性があるため、注意が必要です。
アスピリン不耐症とは?アスピリン喘息アスピリン喘息の機序アスピリン喘息の発作誘発物質アスピリンNSAIDステロイドの急速静注添加物を含んだ医薬品の急速投与関連する薬剤アセトアミノフェンイグラチモド注意点アスピリンアレルギーの場合に注意すべき医療用医薬品 ピリンアレルギーの場合に注意すべき医療用医薬品
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、臨床でも幅広く使用されているが、注意すべき副作用もある。
その一つが、「アスピリン不耐症」である。
アスピリン不耐症とは?
アスピリン不耐症とは、アラキドン酸シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害作用を持つ薬剤である、アスピリンや NSAIDs に対する過敏反応の一部である。過敏反応の発現する臓器や発現機序によって、5つの病型に分けられており、このうち、COX-1 阻害を機序とする Ⅰ〜Ⅲ 型がアスピリン不耐症に相当し、Ⅰ 型アレルギー機序による Ⅳ・Ⅴ 型が NSAIDs アレルギーに相当する。
アスピリン不耐症の機序として、アレルギー反応ではなく、COX-1 阻害が機序である。そのため、アレルギー機序とは異なり、他の NSAIDs 交差過敏性があること、初回使用でも誘発されることに注意が必要である。
病型 | 反応 | 基礎疾患 | 機序 | 他のNSAIDs との交差過敏性 | 初回使用 での誘発 |
---|---|---|---|---|---|
Ⅰ | 鼻症状と喘息 | 喘息、鼻茸、副鼻腔炎 | COX-1 阻害 | 有 | 有 |
Ⅱ | 蕁麻疹(血管浮腫) | 慢性蕁麻疹 | COX-1 阻害 | 有 | 有 |
Ⅲ | 蕁麻疹、血管浮腫 | なし | COX-1 阻害 | 有 | 有 |
Ⅳ | 蕁麻疹、血管浮腫 | なし | 免疫学的 | 無 | 無 |
Ⅴ | アナフィラキシー | なし | 免疫学的 | 無 | 無 |
アスピリン喘息
アスピリン不耐症は、症状発現臓器によって、気道型と皮膚型に分類されており、気道型不耐症が、いわゆる「アスピリン喘息」である。
アスピリン喘息の機序
アラキドン酸代謝経路には、プロスタグランジン(PG)合成系とロイコトリエン(LT)合成系がある。COX 阻害により、システイニルロイコトリエンが過剰になることが引き金になると考えられている。そのため、COX 阻害作用のある薬剤には注意が必要である。
アスピリン喘息の発作誘発物質
発作を誘発する物質として、以下のようなものがある [2, 3]。
アスピリン
- アスピリン:★★★★ 「禁忌」
NSAID
- 酸性 NSAIDs:★★★★ 「禁忌」
- 塩基性 NSAIDs:★☆☆☆ (注意)ただし、添付文書では「禁忌」
- COX-2 阻害薬:☆☆☆☆ (注意)ただし、添付文書では「禁忌」
注意点
・COX 阻害作用の強い薬剤ほど、危険性が高い:酸性 NSAIDs
・全ての剤型に注意が必要
アスピリン喘息は薬剤が持つ COX 阻害作用が原因であり、COX 阻害作用が強い薬ほど、危険性は高いとされている。そのため、NSAIDs のうち、COX 阻害作用が強い、酸性 NSAIDs には、特に注意が必要である。さらに、不耐症は、常用量の20分の1〜10分の1程度の極少量からも誘発されることから、内用薬、坐薬、注射薬といった薬物血中濃度が高くなる剤型だけに注意すれば良いのではなく、外用薬(貼付薬、塗布薬、点眼薬)にも注意が必要である。
ステロイドの急速静注
- コハク酸エステル型ステロイドの急速静注:★★★★
<静注用ステロイド製剤>
コハク酸エステル型 | リン酸エステル型 | |
---|---|---|
プレドニゾロン系 | プレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム(水溶性プレドニン) メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム(ソル・メドロール) | メチルプレドニゾロン酢酸エステル(デポ・メドロール) |
コルチゾン系 | ヒドロコルチゾンコハク酸エステルナトリウム(ソル・コーテフ) | ヒドロコルチゾンリン酸エステルナトリウム(水溶性ハイドロコートン) |
フッ素付加 | デキサメタゾンリン酸エステルナトリウム(オルガドロン、デカドロン) ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム(リンデロン) |
過敏反応は、ステロイド骨格そのものに原因があるのではなく、コハク酸エステルが原因であると考えられている。しかし、リン酸エステル型ステロイドの急速静注でも喘息発作を起こしたことが報告されており、原因として、添加物が影響したと考えられている [4]。
そのため、アスピリン喘息患者では、すべてのステロイド薬の急速静注及び添加物を含んだ注射薬の急速投与には、十分な注意が必要であるといえる。なお、点滴静注で投与することは、安全性が高くなると考えられている。
特に、麻薬性鎮痛薬など、アスピリン喘息に対しても安全と考えられる注射薬であっても、アスピリン喘息を誘発する添加物を含む注射薬もあるため、注意が必要である。
添加物を含んだ医薬品の急速投与
- 添加物を含んだ医薬品の急速投与:★★★☆
- 発作誘発物質である可能性があるもの
- タートラジン(食用黄色4号):医薬品の添加物としても使われている
- 安息香酸ナトリウム(防腐剤):医薬品の添加物としても使われている(注射剤含む)
- パラベン(防腐剤):医薬品の添加物としても使われている
- 亜硫酸塩(酸化防止剤):医薬品の添加物としても使われている
- 発作誘発物質である疑いがあるもの
- ベンジルアルコール(注射薬の無痛化剤、食品の香料):医薬品の添加物としても使われている(注射剤含む)
- タール系アゾ色素:医薬品の添加物としても使われている
- サンセットイエロー(食用黄色5号)
- アマランス(食用赤色2号)
- ニューコクシン(食用赤色102号)
関連する薬剤
アセトアミノフェン
- アセトアミノフェン/高用量:★★★☆
- アセトアミノフェン/1回 300mg 以下:☆☆☆☆
アセトアミノフェンは、COX 阻害作用が弱いため、危険性は低いと考えられていたが、添付文書には「禁忌」とされていたため、使用できなかった。しかし、これまでに蓄積された知見をもとに、2023年10月12日に添付文書が改訂された。
これまで、アスピリン喘息患者への使用は「禁忌」とされていたが、その禁忌項目は削除された。ただし、アスピリン喘息またはその既往歴のある患者に対して、1回あたりの用量が 300mg 以下であれば、使用することができる。
添付文書では、アスピリン喘息患者及び既往歴のある患者には用量が制限されているため、高用量は使わないように注意が必要である。
イグラチモド
イグラチモドは、免疫調整作用を持つ抗リウマチ薬である。COX-2 選択的阻害作用を持ち、もともと COX 阻害薬として開発されていた。添付文書には、「本剤の成分に過敏症の既往があるもの」に禁忌とされており、NSAIDs と構造が類似するため、アスピリン喘息患者には使用すべきではないと考えられる。
注意点
関連する語句を最初に概説したが、患者にも用語を勘違いしている場合がある。「アスピリンアレルギー」「ピリンアレルギー」と申告を受けると、医療者側としては、他剤は使用可能であろうと考えるが、実際には、「アスピリン喘息」であり、他の解熱消炎鎮痛薬にも注意が必要な場合がある。
そのため、副作用歴を確認するときには、十分注意が必要である。具体的には、下記のようなことがある。
- 申告内容が正確かを確認する
- 副作用歴の申告を受けたときに、他の痛み止めでは、副作用歴はなかったかを確認する
- もし、不正確だった場合
- 正しい知識を伝えるとともに、お薬手帳の記載内容など、適宜訂正する
参考文献)
- 榊原博樹:「Ⅴ. 喘息の亜型・特殊型 2. アスピリン喘息」、日本内科学会雑誌、98, 3089-3095 (2009).https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/95/1/95_1_148/_pdf/-char/ja
- 谷口正実:「アスピリン(NSAID)不耐症の病態と治療」、日本内科学会雑誌、95、149-157 (2005).https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/95/1/95_1_148/_pdf/-char/ja
- 福岡県薬剤師会:「14. アスピリン喘息患者への解熱鎮痛消炎薬の投与」. https://www.fpa.or.jp/library/kusuriQA/14.pdf
- 榎本貴子ら:「アスピリン喘息とステロイド薬過敏症に関する検討 : アンケート調査と問診による非ステロイド性消炎鎮痛薬過敏症の実態とステロイド薬過敏症との関連について」、アレルギー、44 (5)、534-539 (1995).https://doi.org/10.15036/arerugi.44.534