irAE

irAE

免疫チェックポイント阻害薬は、従来型の抗がん薬とは機序の異なる免疫関連有害事象(immune-related adverse event: irAE)が発現する可能性がある
  • irAE は免疫反応に基づく有害事象
    • 様々な組織で発現する可能性がある
    • 発現時期の予測が困難
      • 免疫チェックポイント阻害薬の投与が終了して一定期間経過しても発現する可能性がある
    • 重篤な有害事象の発現頻度は細胞障害性抗がん薬に比べ低いものの、対応の遅れがときに致死的な結果を招く

irAE の傾向

  • 抗 PD-1 抗体抗 PD-L1抗体
    • 間質性肺障害および甲状腺機能低下の発現リスクが抗 CTLA-4 抗体に比べ有意に高い
  • 抗 CTLA-4 抗体
    • 大腸炎および下垂体炎の頻度が高い
  • ニボルマブとイピリムマブを同時併用するレジメン
    • それぞれを単剤で投与した場合に比べ、irAE の発現頻度は高くなるので特に注意を要する
 

皮膚障害

皮疹、発疹、掻痒症、紅斑および白斑など多様な症状を呈する

対処

Grade に応じて対処する
基本は保湿。それに加えて、ステロイド外用剤や経口抗ヒスタミン薬。
定義投与の可否対処方法
Grade 1皮疹(びらん・水疱以外の)が体表面積の10% 未満投与を継続する・経過観察:皮膚症状を頻回に(毎週など)モニタリングする。 ・投薬:なし、または外用療法[顔面(ミディアムクラスのステロイド外用剤)、顔面以外(ストロングクラス以上のステロイド外用剤)]。 ・症状が軽快せず、2 週間以上継続する場合は Grade 2 として取り扱う。
Grade 2皮疹(びらん・水疱 以 外 の )が 体表 面 積 の10%~30% 未満投与を継続する・経過観察:皮膚症状を頻回に(毎週など)モニタリングする。 ・皮膚科専門医と協議する。 ・投薬:外用療法[顔面(ストロングクラスのステロイド外用剤)、顔面以外(ベリーストロングクラス以上のステロイド外用剤)]。 ・抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬内服 ・皮膚生検実施を検討する ・症状が軽快せず、2 週間以上継続する場合は Grade 3 として取り扱う。
Grade 3皮疹(びらん・水疱以外の)が体表面積の30% 以上・投与を一時中止する ・ベースラインまたはGrade 1 以下に回復した場合、投与再開を検討する・経過観察:皮膚症状を極めて頻回に(毎日など)モニタリングする。 ・皮膚科および眼科専門医と協議する。 ・投薬:外用療法[顔面(ストロングクラスのステロイド外用剤)、顔面以外(ベリーストロングクラス以上のステロイド外用剤)]。 ・抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬内服 ・プレドニゾロン0.5~1 mg/kg/日 ・皮膚生検を実施する ・症状が軽快せず、2 週間以上継続する場合は Grade 4 として取り扱う。
Grade 4皮疹(びらん・水疱以外の)が体表面積の30% 以上でびらん・水疱が10% 未満認められ、発熱と粘膜疹を伴う。・投与を中止し、入院のうえ厳重管理と治療をする。 ・ベースラインまたはGrade 1 以下に回復した場合、投与再開を検討する・経過観察:入院のうえ皮膚症状を極めて頻回に(毎日 2~3 回など)モニタリングする。 ・皮膚科および眼科専門医と協議する。 ・投薬:外用療法[顔面(ストロングクラスのステロイド外用剤)、顔面以外(ベリーストロングクラス以上のステロイド外用剤)]。 ・抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬内服 ・プレドニゾロン0.5~1 mg/kg/日または1~2 mg/kg/日 ・必要に応じてステロイドパルス療法やその他の治療法[免疫グロブリン製剤の大量投与(IVIG 療法)、血漿交換療法、抗菌薬、補液など]を検討する。 ・皮膚生検を実施する。
ASCO や NCCN のガイドラインでは、Grade1 以上では、保湿剤の併用が推奨されている。
 

間質性肺疾患

検査項目

治療前:
胸部聴診、画像検査、KL-6(シアル化糖鎖抗原 KL-6)および SP-D(肺サーファクタントプロテイン D)など
治療開始後:
定期的に胸部聴診と必要な検査

自覚症状

発熱、乾性咳嗽、呼吸苦、息切れ
胸部 X 線検査にて異常所見が認められた場合は、高分解能 CT 検査に加え、間質性肺疾患に関する検査値と鑑別のため感染症関連の検査値を評価する

発現リスク

  • 抗 PD-1 抗体・抗 PD-L1 抗体>抗 CTLA-4 抗体(イピリムマブ)
  • 抗 PD-1 抗体>抗 PD-L1 抗体
    • しかし、その差は軽度であり、現時点では臨床的な差はないと考えられている
  • 再投与>初回投与
    • 免疫チェックポイント阻害薬の投与歴がある患者に分子標的薬を投与する場合、間質性肺疾患の発現リスクが高い可能性が指摘されている

対処

間質性肺疾患が疑われた場合、Grade によらず免疫チェックポイント阻害薬を一旦中止する。
Grade1(特に症状がなく画像的変化のみ)呼吸器専門医および感染症専門医と連携のもと経過を慎重に観察する
Grade2プレドニゾロン換算で1.0 mg/kg/日の静注メチルプレドニゾロンまたは等価量の経口剤
Grade3プレドニゾロン換算2~4 mg/kg/日の静注メチルプレドニゾロンまたは等価量の経口剤
他の irAE と同様、ステロイドへの反応性が比較的高いことが特徴で、適宜必要な検査を行い、経過をみながら1 週間に5~10 mg ずつ、4~6 週かけて漸減する。
他の irAE に比べ間質性肺疾患では、症状改善後に免疫チェックポイント阻害薬の再投与が検討されることは少ない
 

下痢、大腸炎

自覚症状

主な症状は下痢。
重症例では持続する腹痛や下痢、血便およびタール便を認める

観察項目

排便回数
脱水

発現頻度

  • 抗 PD-1 抗体および抗 PD-L1 抗体:10~15% 程度
  • 抗 CTLA-4 抗体イピリムマブ:25~30%

対処

原因の鑑別が特に重要
→不用意に止瀉薬を使用すると、症状をマスクして、対処が遅れる可能性がある
  • 免疫チェックポイント阻害薬による自己免疫性下痢
    • 症状をマスクしてしまい irAE の把握と適切な治療開始が遅れて重症化することがある
  • 感染性腸炎との鑑別
    • 便培養検査を実施して感染性腸炎の可能性を除外するのと併行して、単純 X 線または腹部 CT 検査を行う
定義投与の可否対処方法
Grade 1投与継続可能慎重にモニタリングしながら対症療法を行う
Grade2免疫チェックポイント阻害薬は一旦休薬消化器専門医と連携して、感染症などの他の要因が無いか評価
Grade3以上免疫チェックポイント阻害薬は休薬プレドニゾロン換算1~2 mg/kg/日の静脈内投与を開始し、症状が改善したら経口投与に切替え、漸減する。ステロイドを3~5 日投与しても効果不十分の場合は、インフリキシマブ(保険適応外:5 mg/kg)の投与を検討する ※重篤な感染症併発時はインフリキシマブは投与禁忌もあり得るため注意
 

肝機能検査値異常

発現頻度

CTLA-4 阻害薬=抗 PD-1 抗体=抗 PD-L1 抗体
単剤での発現頻度は5~15%

検査項目

初期症状は乏しく、症状に先立って AST(aspartate aminotransferase)、ALT(alanine aminotransferase)ビリルビン値およびアルカリホスファターゼの上昇を認める

対処

Grade 1投与継続可能肝機能を慎重にモニタリング
Grade 2免疫チェックポイント阻害薬を休薬・肝臓専門医にコンサルト ・異常値が5~7 日以上継続する場合  ・プレドニゾロン(5~10mg/kg/日)の投与を考慮する  ・日和見感染症予防のため抗菌薬(ST 合剤など)の併用を考慮 プレドニゾロンの投与量が10 mg/日以下で、かつGrade 1 まで落ち着けば免疫チェックポイント阻害薬の投与再開が可能
Grade 3投与を中止・肝機能を1~2 日ごと頻回にモニタリング ・1~2 mg/kg/日の静注メチルプレドニゾロンまたは等価量の経口剤を投与 ※肝機能検査値への影響を懸念して(根拠は不十分)、インフリキシマブは推奨されていない ステロイドを3 日程度投与しても効果不十分な場合は、ミコフェノール酸モフェチル(保険適応外:500 mg/回を1 日2回)の投与が検討される。
 

甲状腺機能障害

症状

  • 甲状腺機能亢進(主な症状:動悸、頻脈、手指の振戦、発汗増加、体重減少など)
  • 甲状腺機能低下(主な症状:倦怠感、浮腫、寒気、眠気、動作緩慢など)
両面の機能障害が認められる。

発現頻度

発現頻度は約10% で、irAE のなかで最も高頻度に発現する内分泌障害

検査項目

  • TSH
  • T3
  • T4
  • ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)およびコルチゾール
    • 副腎機能低下を併発することがあるため

対処

無症候性の甲状腺機能亢進症 TSH が0.1~0.5 mU/mL免疫チェックポイント阻害薬を継続TSH 等を定期的に測定
TSH が0.1 mU/mL 未満に低下、または症候性甲状腺機能亢進症免疫チェクポイント阻害薬を休薬内分泌専門医と連携し、症状に応じてβ遮断薬の投与を検討
無症候性の甲状腺機能低下症免疫チェックポイント阻害薬の継続が可能内分泌専門医と連携のもと、甲状腺ホルモン(レボチロキシンとして25~50 mg/日より漸増、高齢者あるいは心疾患を有する場合は12.5 mg/日)の投与を検討する
甲状腺機能低下に伴う症状を認める場合免疫チェックポイント阻害薬を休薬甲状腺ホルモンを投与 状態が安定すれば甲状腺ホルモンを併用しながら免疫チェックポイント阻害薬を再開できる 副腎皮質機能低下症も合併している場合があるため、レボチロキシンの補充を検討する際は ACTH およびコルチゾールも評価する 副腎皮質機能低下症を合併している場合はヒドロコルチゾンの投与を先行し、2~3 日後から甲状腺ホ ルモンの投与を開始する