食欲不振
副作用の機序
食欲不振の原因となる薬剤について
📌薬理作用の延長
食欲減退作用がある
- 396糖尿病用剤:メトホルミン
- メトホルミンは、GLP-1の分泌を増加させるため、満腹中枢を刺激して食欲を低下させる作用がある。また、消化管の運動を低下させるため、食物が長く滞留し、満腹感をもたらす。(薬効といえる)
- 食欲抑制薬
- マジンドール(サノレックス (R))
- GLP-1受容体作動薬:
- セマグルチド(ウゴービ(R))
📌薬の効きすぎが原因
予防・対策:効き過ぎになる要因がないか?・・・薬剤の変更、相互作用、体重減少などの患者背景の変化はなかったか?
中枢神経抑制作用がある
抗コリン作用がある・・唾液分泌が低下する
抗コリン作用を持つ薬剤であり、唾液分泌低下から、食欲低下を引き起こす可能性がある。
- 116抗パーキンソン剤:抗コリン薬
消化管運動に影響する
○消化管運動を促進する:消化管運動を促進する薬であるが、消化管運動に影響することで、腹部膨満感を引き起こし、嘔気誘発・食欲不振につながる可能性がある。
ドパミンD2受容体拮抗作用を持つ薬。本来、消化管の運動を助け、食欲不振の治療のために用いられるような作用である(実際に使用されている薬剤もある)。中枢ドパミン受容体拮抗作用がある薬剤は、制吐作用目的で使用することもある。
- 111全身麻酔剤:ドロペリドール・・・制吐作用
- 232消化性潰瘍用剤:スルピリド
直接・関節的にアセチルコリンエステラーゼ阻害作用をもち、消化管運動を亢進させる。
- 239:アコチアミド、イトプリド
蠕動運動を亢進させる作用を持つ
- 235下剤、浣腸剤:
- センノシド、ピコスルファート、ヒマシ油、カスカラサグラダ流エキス
○便の量を増やす:
下剤のうち、便をカサ増しさせて排出を促す作用のある薬剤は、腹部膨満感から食欲不振につながる可能性もある。
- 235下剤、浣腸剤
- ルビプロストン、カルメロースナトリウム
📌薬の副作用が原因
- 消化管機能や腹部症状に影響する
胃腸障害が起こるため
胃腸障害(粘膜の炎症)の原因薬剤であり、胃腸障害から、食欲低下を引き起こす可能性がある。
- 114解熱鎮痛消炎剤
- 慢性疼痛に対する、漫然使用に注意
- 399他に分類されない代謝性薬剤:ビスホスホネート
- 服薬後の口腔内残薬確認(口腔ケアを行う)・服薬後の体制保持(上体を起こす)に注意
全身循環に移行し、全身性の副作用を起こす可能性がある
- 113眼科用剤:ジクロフェナク
クリーゼの初期症状としての消化器症状
コリンエステラーゼ/アセチルコリンエステラーゼ阻害作用をもち、アセチルコリン作用を強めることで、消化管運動を促進させる可能性がある。ただし、効きすぎによるコリン作動性クリーゼには十分注意が必要である。主な初期症状には、「下痢、腹痛、嘔吐、唾液分泌」があり、これに続き、気道分泌過多、食欲不振、発汗にも注意が必要。
- 123自律神経用剤:ジスチグミン、ネオスチグミン、ピリドスチグミン、アンベノニウム
- 113眼科用剤:ジスチグミン
高マグネシウム血症の症状
- 234制酸剤:酸化マグネシウム
緩下剤として汎用されている。高齢者・腎機能低下者では、高マグネシウム血症に特に注意が必要。(定期的にMg値を検査)
- 「味」に影響する
薬が味や匂いの感じ方に影響する
- 亜鉛とキレートを形成する
- ACEi
薬自体に苦味がある
ガイドラインにおける記載
各ガイドラインでは、薬剤のリスクについて、どのような記載がされているのか
詳細は各ガイドラインを参照
「高齢者の安全な薬物治療ガイドライン2015」
「高齢者に有用性が示唆される我が国の医療用漢方製剤のリスト」解説
(1)抑肝散
・・うつ、不安、悲哀、無動、食欲不振といった陰性症状には無効であるのみならず、症状を増悪させることすらある。・・・
・・抑肝散加陳皮半夏がある。抑肝散の適応となる易怒を伴う BPSD で、さらに食欲低下、抑うつ傾向を伴う人に用いる。・・
CQ. 高齢者のうつ病に対する抗うつ薬使用上の注意点は?
A. 三環系抗うつ薬は、他の薬剤に比べて抗コリン作用が強いため高齢発症のうつ病に対して特に慎重に使用するべきである(エビデンスの質:高、推奨度:強)。 SSRI も高齢者に対して転倒や消化管出血などのリスクがあり、これらのハイリスク群に対する使用には特に注意が必要である(エビデンスの質:中、推奨度:強)。 スルピリドは、錐体外路症状が発現しやすいため可能な限り使用を控えるべきである(エビデンスの質:低、推奨度:強)。
食欲不振がみられるうつ状態の患者にしばしばスルピリドが使用された。しかしスルピリドはパーキンソン症状や遅発性ジスキネジアなどの錐体外路症状発現のリスクがあり、使用はできる限り控えるべきである。
がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン(2017年版)
Ⅱ章 背景知識
7. 食欲不振
1.定義
がんの食欲不振には、明確な定義はないが、「食事を摂取したい欲が消失している状態」を言う。
5.治療 (要点を抜粋)
- 食事摂取を無理には勧めない
- 栄養にこだわることなく、患者の嗜好に合わせて、食べやすいように、形態・量・味付け・盛り付け・食器など工夫する
- 輸液:「終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン2013年版」参考
- 悪液質の治療薬:コルチコステロイド、消化管運動改善薬、六君子湯、エイコサペンタエン酸(EPA)、プロゲステロン製剤、グレリン受容体作動薬
原因薬剤
「多職種連携推進のための在宅患者訪問薬剤管理指導ガイド」に記載されている原因薬剤一覧
○ 銘柄名ごと
食欲不振に影響する薬剤一覧/銘柄名ごと2024/12/3 9:152024/12/3 9:16○ 一般名ごと
高齢者の体重減少の原因/ゴロでの覚え方
M, medication 薬剤
E, emotional 精神疾患(抑うつ)
A, alcholism, anorexia tardive, or abuse of elders アルコール依存、晩発性食欲不振症、高齢者における過剰使用
L, late life paranoia 老年期妄想
S, swallowing problems (dysphagia) 嚥下障害
O, oral problems 口腔トラブル
N, no money 金欠
W, wandering and other dementia-related problem 徘徊や、他の認知症関連行動
H, hypothyroidism, hyperglycemia 甲状腺機能低下症、高血糖
E, enteral problems (malabsoption) 腸管疾患(吸収不良)
E, eating problems 食事の問題(自分で食べられない)
L, low salt, low cholesterol 低塩・低コレステロール食
S, shopping and meal preparation problems 買物、食事の用意に関する問題
食事量減少/食欲低下の原因推論のためのチェクリスト

「新悪役職人殿、社会の内戦に疲れ、パイ食し、正味8回、焼酎口移ししたい」
しん | 心不全 |
あく | 悪液質 |
やく | 薬剤(向精神薬、唾液減少、嘔気誘発作用) |
しょくにん | 食物認知・認知症 |
どの | 嚥下障害(のど) |
しゃかい | 買い物、社会的問題、孤独 |
の | (脳)意識障害 |
ない | 内分泌疾患(甲状腺機能低下、高血糖) |
せん | せん妄 |
に | (匂い)嗅覚不良 |
つかれ | 耐久性、持久力低下 |
ぱい | (肺)呼吸不全 |
しょくし | 食嗜好 |
しょう | 消耗状態 |
み | 味覚不良 |
はっ | 発熱 |
かい | 食事介助が必要 |
しょう | 消化器系疾患 |
ちゅう | 中枢神経系疾患 |
くち | 口腔問題 |
うつし | うつ・心理・精神疾患 |
たい | 痛い(疼痛) |
前田圭介医師
食思不振が薬物療法に与える影響
「食後服用」→「空腹時服用」への変化による影響
治療効果の低下
副作用リスクの増加
患者さん・家族向けの説明資料
- 術後の食事をおいしく楽しく 胃がん手術後の患者さまとご家族の皆様へ
- 勇美記念財団HP(https://www.yuumi.or.jp)から入手可能