自然災害と保険調剤

こちらでは、災害時の保険調剤について、これまでの通知等をまとめています。ただし、通知の内容は災害の程度等によって異なる可能性があり、今後、災害が発生した時に、この内容が必ず適応されるというわけではないことをご理解ください。 正確な情報は、厚生労働省から出される事務連絡を確認する必要があります

調剤を行う場所について

仮設医療機関等

医療機関の建物が全半壊した場合、仮設の建物等において保険診療等、調剤を行うことが可能、とされたことがある ・仮設店舗での営業には、新規の開設許可は不要だが、様式を届け出る(原則、事前届出だが、事後でも可)
原則:
薬剤師法第二十二条において、薬剤師は、居宅等を除き、「薬局以外の場所で、販売又は授与の目的で調剤してはならない」とされていますが、同条ただし書きや薬剤師法施行規則第十三条の三において、「災害その他特殊の事由により薬剤師が薬局において調剤することができない場合」はその限りではないと規定されています。
薬局を開設するためには、必要事項を記載した申請書を、薬局の所在地の都道府県知事に提出するとともに、内容に変更があった場合は、変更届を提出します。
薬剤師法 第二十二条 
(調剤の場所)
第二十二条 薬剤師は、医療を受ける者の居宅等(居宅その他の厚生労働省令で定める場所をいう。)において医師又は歯科医師が交付した処方せんにより、当該居宅等において調剤の業務のうち厚生労働省令で定めるものを行う場合を除き、薬局以外の場所で、販売又は授与の目的で調剤してはならない。ただし、病院若しくは診療所又は飼育動物診療施設(獣医療法(平成四年法律第四十六号)第二条第二項に規定する診療施設をいい、往診のみによつて獣医師に飼育動物の診療業務を行わせる者の住所を含む。以下この条において同じ。)の調剤所において、その病院若しくは診療所又は飼育動物診療施設で診療に従事する医師若しくは歯科医師又は獣医師の処方せんによつて調剤する場合及び災害その他特殊の事由により薬剤師が薬局において調剤することができない場合その他の厚生労働省令で定める特別の事情がある場合は、この限りでない。
薬剤師法施行規則 第十三条の三
(調剤の場所の特例に関する特別の事情)
第十三条の三法第二十二条ただし書に規定する厚生労働省令で定める特別の事情は、次のとおりとする。 一災害その他特殊の事由により薬剤師が薬局において調剤することができない場合 二患者が負傷等により寝たきりの状態にあり、又は歩行が困難である場合、患者又は現にその看護に当たつている者が運搬することが困難な物が処方された場合その他これらに準ずる場合に、薬剤師が医療を受ける者の居宅等(第十三条各号に掲げる場所をいう。)を訪問して前条の業務を行う場合
薬機法 第四条
(開設の許可) 第四条
薬局は、その所在地の都道府県知事(その所在地が保健所を設置する市又は特別区の区域にある場合においては、市長又は区長。次項、第七条第四項並びに第十条第一項(第三十八条第一項並びに第四十条第一項及び第二項において準用する場合を含む。)及び第二項(第三十八条第一項において準用する場合を含む。)において同じ。)の許可を受けなければ、開設してはならない。 2前項の許可を受けようとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した申請書をその薬局の所在地の都道府県知事に提出しなければならない。
一氏名又は名称及び住所並びに法人にあつては、その代表者の氏名 二その薬局の名称及び所在地 三その薬局の構造設備の概要 四その薬局において調剤及び調剤された薬剤の販売又は授与の業務を行う体制の概要並びにその薬局において医薬品の販売業を併せ行う場合にあつては医薬品の販売又は授与の業務を行う体制の概要 五法人にあつては、薬事に関する業務に責任を有する役員の氏名 六次条第三号イからトまでに該当しない旨その他厚生労働省令で定める事項
3前項の申請書には、次に掲げる書類を添付しなければならない。
一その薬局の平面図 二第七条第一項ただし書又は第二項の規定により薬局の管理者を指定してその薬局を実地に管理させる場合にあつては、その薬局の管理者の氏名及び住所を記載した書類 三第一項の許可を受けようとする者及び前号の薬局の管理者以外にその薬局において薬事に関する実務に従事する薬剤師又は登録販売者を置く場合にあつては、その薬剤師又は登録販売者の氏名及び住所を記載した書類 四その薬局において医薬品の販売業を併せ行う場合にあつては、次のイ及びロに掲げる書類
イその薬局において販売し、又は授与する医薬品の薬局医薬品、要指導医薬品及び一般用医薬品に係る厚生労働省令で定める区分を記載した書類 ロその薬局においてその薬局以外の場所にいる者に対して一般用医薬品を販売し、又は授与する場合にあつては、その者との間の通信手段その他の厚生労働省令で定める事項を記載した書類
五その他厚生労働省令で定める書類
4第一項の許可は、六年ごとにその更新を受けなければ、その期間の経過によつて、その効力を失う。 5この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一登録販売者第三十六条の八第二項の登録を受けた者をいう。 二薬局医薬品要指導医薬品及び一般用医薬品以外の医薬品(専ら動物のために使用されることが目的とされているものを除く。)をいう。 三要指導医薬品次のイからニまでに掲げる医薬品(専ら動物のために使用されることが目的とされているものを除く。)のうち、その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであつて、薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているものであり、かつ、その適正な使用のために薬剤師の対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導が行われることが必要なものとして、厚生労働大臣が薬事審議会の意見を聴いて指定するものをいう。
イその製造販売の承認の申請に際して第十四条第十一項に該当するとされた医薬品であつて、当該申請に係る承認を受けてから厚生労働省令で定める期間を経過しないもの ロその製造販売の承認の申請に際してイに掲げる医薬品と有効成分、分量、用法、用量、効能、効果等が同一性を有すると認められた医薬品であつて、当該申請に係る承認を受けてから厚生労働省令で定める期間を経過しないもの ハ第四十四条第一項に規定する毒薬 ニ第四十四条第二項に規定する劇薬
四一般用医薬品医薬品のうち、その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであつて、薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているもの(要指導医薬品を除く。)をいう。
薬局に関連する許可:
  • 薬局開設の許可
  • 医薬品の販売業の許可
  • 高度管理医療機器等販売業又は貸与業の許可
  • 管理医療機器販売業又は貸与業の届出
 
災害時の対応:
これまでに、自然災害時には、保険医療機関等の建物が全半壊した場合、全半壊した医療機関と仮設医療機関等が近接していること、診療体制等からこれまでの医療体制と継続性があると認められる場合に、仮設医療機関での保険診療等を認めるという事務連絡が出されました。
共通して、場所的近接性継続性が認められる場合、仮設診療所等での保険診療・保険調剤を認めるという通知が出されていた
 
能登半島地震の時には、被災者に対して医療を提供する目的で仮設診療所を開設する場合、開設許可・届出の手続きを事後的に行うことが認められました。
能登半島地震の際、薬局に関して、厚労省から都道府県に出された文書を見ると、近接する店舗で当該薬局等に係る業務を行うことは、所在地の都道府県知事等の判断により、 薬局等の業務について保健衛生上支障を生じない範囲において認められるとされています。その際、新規に開設許可得る必要はないが、仮設店舗で業務を行うこと、復旧に要する期間を、参考様式で届け出るように、とされました(原則、事前届出ですが、業務開始後速やかに届け出ることも可)
 

営業時間等を変更するときの届出

被災地の医療提供体制を整えるために、一時的に変更(営業時間や薬剤師の数等)する場合、変更内容の届出は省略可能、とされたことがある
原則:
薬局を開設するために届出ている事項を変更する場合は、その旨を届け出なければなりません。
薬機法 第十条
(休廃止等の届出) 第十条薬局開設者は、その薬局を廃止し、休止し、若しくは休止した薬局を再開したとき、又はその薬局の管理者その他厚生労働省令で定める事項を変更したときは、三十日以内に、厚生労働省令で定めるところにより、その薬局の所在地の都道府県知事にその旨を届け出なければならない。 2薬局開設者は、その薬局の名称その他厚生労働省令で定める事項を変更しようとするときは、あらかじめ、厚生労働省令で定めるところにより、その薬局の所在地の都道府県知事にその旨を届け出なければならない。
薬機法施行規則 第十六条
(変更の届出) 第十六条 法第十条第一項の厚生労働省令で定める事項は、次のとおりとする。 一 薬局開設者の氏名(薬局開設者が法人であるときは、その業務を行う役員の氏名を含む。)又は住所 二 薬局の構造設備の主要部分 三 通常の営業日及び営業時間 四 薬局の管理者の氏名、住所又は週当たり勤務時間数 五 薬局の管理者以外の当該薬局において薬事に関する実務に従事する薬剤師又は登録販売者の氏名又は週当たり勤務時間数 六 放射性医薬品を取り扱うときは、その放射性医薬品の種類 七 当該薬局において併せ行う医薬品の販売業その他の業務の種類 八 当該薬局において販売し、又は授与する医薬品の第一条第三項各号に掲げる区分(特定販売を行う医薬品の区分のみを変更した場合を除く。) 2 法第十条第一項の規定による届出は、様式第六による届書を提出することによつて行うものとする。ただし、前項第四号の薬局の管理者が再教育研修命令を受けた者であるときは、薬剤師法第八条の二第三項の再教育研修修了登録証を提示し、又はその写しを添付するものとする。 3 前項の届書には、次の各号に掲げる届書の区分に応じて当該各号に定める書類を添えなければならない。ただし、申請等の行為の際当該届書の提出先とされている都道府県知事(その所在地が保健所を設置する市又は特別区の区域にある場合においては、市長又は区長。以下この項において同じ。)に提出され、又は当該都道府県知事を経由して厚生労働大臣に提出された書類については、当該届書にその旨が付記されたときは、この限りでない。 一 第一項第一号に掲げる薬局開設者の氏名に係る届書 薬局開設者の戸籍謄本、戸籍抄本又は戸籍記載事項証明書(薬局開設者が法人であるときは、登記事項証明書) 二 第一項第一号に掲げる役員に係る届書 新たに役員となつた者に係る精神の機能の障害又は新たに役員となつた者が麻薬、大麻、あへん若しくは覚醒剤の中毒者であるかないかに関する医師の診断書 三 第一項第四号又は第五号に掲げる事項に係る届書(新たに管理者又は当該薬局において薬事に関する実務に従事する薬剤師若しくは登録販売者となつた者が薬局開設者である場合を除く。) 雇用契約書の写しその他薬局開設者の新たに管理者又は当該薬局において薬事に関する実務に従事する薬剤師若しくは登録販売者となつた者に対する使用関係を証する書類 4 申請者が法人である場合であつて、都道府県知事(その所在地が保健所を設置する市又は特別区の区域にある場合においては、市長又は区長)がその役員の職務内容から判断して業務に支障がないと認めたときは、前項第二号に掲げる診断書に代えて当該役員が法第五条第三号ホ及びヘに該当しないことを疎明する書類を提出することができる。
 
災害時の対応:
これまでに、被災地の医療提供体制を整えるために、一時的に営業時間や薬剤師の数等を変更する場合、届出は省略可能とする通知が出されました。
ただし、これは一時的なものであり、通常の手続きを行うことが可能になった場合は、速やかに通常定められた手続きを行うように、ともされています。
 
令和元年台風19号の時の通知では、届出は省略可能ですが、「薬局等の開設者等は当該変更事項がわかるように記録等を残しておくこと」とされていることもありますので、可能な範囲で手元に記録を残しておくことが望ましいと思います。
 
 

保険調剤について

被保険者証の確認

被災による紛失等のため、被保険者証等を提示できない場合、必要事項を記録することで、保険調剤として取り扱い可能、とされたことがある
災害時の対応:
被災により、被保険者証、健康手帳等を提示できない場合、保険薬局において、下記の事項を確認することで、保険調剤として取り扱い可能とされました。
  • 社保:事業所名を確認し、調剤録に記載
  • 国保・後期高齢者:住所を確認し、調剤録に記載
 

オンライン資格確認等システム

オンライン資格確認等システムにおける 『緊急時医療情報・資格確認機能』をアクティブ化する対象範囲・期間では、「災害時医療情報閲覧機能」(災害時モード)を利用することで、保険資格が確認可能
災害時の対応:
オンライン資格確認等システムにおける 『緊急時医療情報・資格確認機能』をアクティブ化する対象範囲・期間に該当する場合、「災害時医療情報閲覧機能」(災害時モード)を利用することで、保険資格が確認できます。
参考資料)救急時医療情報閲覧に係る業務フロー
  • 患者から、医療情報を閲覧することについて口頭等で同意を取得
  • 本人から同意取得できない場合(意識不明等)
    • 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、 本人の同意を得ることが困難な場合には、個人情報の保護に関する法律 (平成 15 年法律第 57 号) 第 20 条第2項第2号に基づき、本人の同意は必要ないとされています
      • 個人情報の保護に関する法律 (平成 15 年法律第 57 号) 第 20 条第2項第2号
        (適正な取得) 第二十条個人情報取扱事業者は、偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはならない。
        2個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、要配慮個人情報を取得してはならない。
        二人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
    • 「患者の生命、身体の保護のために必要がある」と判断される場合、閲覧可能
    • その場合は、システムで閲覧する時に「同意なし」を選択し、確認する
【注意事項】「緊急時医療情報・資格確認機能」(災害時モード)の利用にあたり、オンライン資格確認等利用規約第 25条第1項各号に掲げる禁止事項に違反した場合、利用停止や名称公表等の措置をとられることもあることをご留意ください。
オンライン資格確認等利用規約第 25条第1項
(禁止事項) 第25条 サービス利用者は、本サービスを利用するに当たり、次の各号に掲げる行為を行っ てはならないものとします。
一 本サービスの利用目的(患者の資格情報の確認及び医療行為等への活用)以外の用 途で本システムを使用する行為
二 第 21 条第2項の場合を除いて、患者の同意なく薬剤情報・診療情報・特定健診情報を 閲覧する行為
三 患者情報の更新以外の目的で、本システム上で管理されているデータを変更する行為 又はそのおそれがある行為
四 本システム上で管理されているデータを改ざんする行為又はそのおそれがある行為
五 本システム用マスタアカウント、本システム用アカウント若しくは本システム用電子証明書を第三者に使用させる行為(第 16 条第2項による場合を除く。)又は第三者へ貸 与、譲渡、売買若しくは担保の目的に供する行為
六 本規約上の地位を第三者に承継させ又は本規約に基づく権利義務の全部若しくは一 部を第三者に譲渡し、承継させ又は担保に供する行為
七 他のサービス利用者の有する本システム用マスタアカウント、本システム用アカウン ト、及び本システム用電子証明書を使用する又はその入手を試みる行為
八 前号に掲げる行為以外に、他のサービス利用者の本システムの利用を妨害する行為 又はそのおそれがある行為
九 法令若しくは本規約に違反する行為又はそのおそれがある行為
十 公序良俗に反する行為
十一 本システムに対する不正アクセス行為、クラッキング行為その他設備等に支障を与 える等の行為
十二 本システムの管理及び運営を妨害する行為又はそのおそれがある行為
十三 本システムに対し、ウイルスに感染したファイルを送信する行為又はそのおそれがあ る行為
十四 本サービスを構成するソフトウェアの解析、リバースエンジニアリングその他ソースコードを入手しようとする行為
2 実施機関は、本サービスの利用に関して、サービス利用者の行為が前項各号のいずれか に該当するものであることを知った場合、事前に通知することなく、当該サービス利用者に 対して本サービスの全部又は一部の提供を一時停止し又は前項各号に該当する行為に 関連する情報を削除することができるものとします。ただし、実施機関は、サービス利用者 の行為を監視する義務を負うものではありません。
アクティブ化が実施された自然災害の例
令和6年能登半島地震
令和6年7月9日からの大雨災害
 

処方せん発行元

災害時の対応:
①処方せんに処方せん発行元医療機関名が記載されていない場合
→処方せんの交付を受けた場所を患者に確認し、調剤録に記入する
②処方せん発行元が、救護所、避難所救護センター等の場合
  • 災害救助法に基づく場合(適用地域・適用期間内)
    • 災害救助法に基づく医療の一環として処方せんの交付を受けた場合
    • 救護所、避難所救護センター等で処方せんの交付を受けた場合
    • 保険調剤としては取り扱えない
       当該調剤に係る報酬は救護所の設置主体である県市町に請求する

自己負担・診療報酬

被災状況に応じて、一部負担金の猶予や減免が認められる場合があります

自己負担の猶予

災害時の対応:
健康保険制度においては、災害その他の特別の事情がある被保険者に対し、健康保険法(大正 11 年法律第 70 号)第 75 条の2及び第 110 条の2の規定に基づき、保険者の判断により、一部負担金等の徴収猶予及び減免を行うことができるとされています。
薬局では、一部負担金の支払い猶予申立てをした人が来局された場合、
  • 被保険者証などがある場合
    • 住所が対象地域であることを確認し
    • 申し立て内容を記録
  • 被保険者証などが提示できない場合
    • 下記を記録
      • 社保:氏名、生年月日、被保険者の勤務する事業所名、住所及び連絡先
      • 国保:氏名、生年月日、住所及び連絡先(国民健康保険組合の被保険者については、 これらに加えて組合名)
    • 申し立てた内容について、保険者から内容の確認が行われることを説明
 

処方せんについて

事後的に処方せんが発行される場合、保険調剤として取り扱える、とされたことがある
事例ごとに対応が異なるので注意が必要です。

処方せん様式

通常の処方せん様式によらない、医師の指示を記した文書等でも可能
事後的に処方せんが発行される場合、保険調剤として取り扱える
引用元)「東日本大震災における活動報告書」、平成24年3月
引用元)「東日本大震災における活動報告書」、平成24年3月
 

処方せん医薬品について

処方せん医薬品の販売・授与

大規模災害時は、処方箋医薬品の販売・授与が認められる「正当な理由」とされている 事後的に処方せんが発行されることを条件として、要件を満たす場合に、保険調剤として取り扱い可能、とされたことがある
原則:
薬機法第四十九条第1項には、薬剤師は、医師等から処方せんの交付を受けた者以外に対して、「正当な理由なく、厚生労働大臣の指定する医薬品を販売し、又は授与してはならない」とされています。
この正当な理由とは、厚労省医薬食品局長通知(薬食発第 0330016 号、平成17年3月30日)において、「大規模災害時等において、医師等の受診が困難な場合、又は医師等からの処方せんの交付が困難な場合に、患者に対し、必要な処方せん医薬品を販売する場合」他とされています。
薬機法 第四十九条
(処方箋医薬品の販売)
第四十九条
薬局開設者又は医薬品の販売業者は、医師、歯科医師又は獣医師から処方箋の交付を受けた者以外の者に対して、正当な理由なく、厚生労働大臣の指定する医薬品を販売し、又は授与してはならない。ただし、薬剤師等に販売し、又は授与するときは、この限りでない。 2薬局開設者又は医薬品の販売業者は、その薬局又は店舗に帳簿を備え、医師、歯科医師又は獣医師から処方箋の交付を受けた者に対して前項に規定する医薬品を販売し、又は授与したときは、厚生労働省令の定めるところにより、その医薬品の販売又は授与に関する事項を記載しなければならない。 3薬局開設者又は医薬品の販売業者は、前項の帳簿を、最終の記載の日から二年間、保存しなければならない。
厚労省医薬食品局長通知(薬食発第 0330016 号、平成17年3月30日)
 
災害時の対応:
大規模災害時等は「正当な理由にあたる」との通知はありますが、実際に大規模災害が発生した時には、別途、事務連絡が出されています。
 

薬局医薬品の販売・授与

原則:
薬局医薬品の販売・授与についても、正当な理由がなければ、使用者本人以外への販売・授与は認められていません。
厚生労働省医薬食品局長:「薬局医薬品の取り扱いについて」、薬食発 0318 第4号、平成26年3月18日.
災害時の対応:
大規模災害時等は「正当な理由にあたる」とされていますが、実際に、大規模災害が発生した時には、別途、事務連絡が出されていますので、事務連絡の内容を確認し、対応することが望ましいです。
 

医療用麻薬

受診困難な場合等、麻薬施用者である医師に患者の症状等を連絡し、施用の指示が確認できる場合に、施用のために交付可能、とされたことがある
原則:
災害時の対応:
麻薬施用者である医師への受診が困難な場合、及び、麻薬処方箋の交付を受けることが困難な場合においては、麻薬小売業者である薬局では、当該患者の症状等について麻薬施用者である医師へ連絡し、当該患者に対する医療用麻薬の施用の指示が確認できる場合において、必要な医療用麻薬を施用のため交付することができるとする、事務連絡が出されたことがあります。
なお、この際、患者さんに提供した記録を、「適切に保管・管理」することが求められているため、確認した医師の氏名(麻薬の場合は麻薬施用者番号等)、患者さんの氏名及び住所、薬剤名及び数量・販売日時、患者さんの症状等の記録を残す必要があります。
また、熊本地震の際の事務連絡では、記録を残すだけではなく医師に報告することが求められています。
  • 譲り渡した医療用麻薬等の品名、数量及び譲渡先(譲り受けた患者の氏名や、その者が特定可能な個人情報等)について記録
  • 連絡を取った医師等に報告する
 

医療用麻薬の県境移動

原則:
交付されたものが必要なくなった場合に、麻薬小売業者等が回収する場合を除いて、原則として、麻薬営業者でなければ、麻薬の譲渡はできません。
(ただし、麻薬小売業者間では条件を満たす場合、麻薬小売業者間譲渡許可を受けて、麻薬小売業者間で譲渡することは可能です。)
災害時の対応:
東日本大震災の時は、被災各県において医療用麻薬の需給が逼迫している状況を受けて、麻薬卸売業者麻薬小売業者又は麻薬診療施設の開設者が、県境を超えて譲渡する場合の許可の取り扱いについて、事務連絡が出されました。
麻薬及び向精神薬取締法 https://laws.e-gov.go.jp/law/328AC0000000014
(譲渡し) 第二十四条麻薬営業者でなければ、麻薬を譲り渡してはならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
2前項ただし書の規定は、施用のため交付される麻薬が第二十七条第一項、第三項若しくは第四項の規定に違反して交付されるものであるか、又は麻薬処方せんが同条第三項若しくは第四項の規定に違反して交付されたものであるときは、適用しない。
11麻薬小売業者は、麻薬処方せん(第二十七条第三項又は第四項の規定に違反して交付されたものを除く。)を所持する者以外の者に麻薬を譲り渡してはならない。
12前項の規定は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める者の許可を受けて譲り渡すときは、適用しない。
一麻薬小売業者が他の麻薬小売業者に麻薬を譲り渡す場合都道府県知事 二前号に掲げる場合以外の場合厚生労働大臣
 

向精神薬

受診困難な場合等、医師等に患者の症状等を連絡し、施用の指示が確認できる場合に、施用のために交付可能、とされたことがある
災害時の対応:
被災者の方が、医師等の受診が困難な場合、又は医師等からの処方箋の交付が困難に、薬剤師が被災者の患者さんの症状等について医師等へ連絡し、当該患者さんに対する施用の指示が確認できる場合、施用のために交付できるという、事務連絡が出されました。
さらに、その指示は包括な施用の指示でも構わないが、事前に了承を得ている医師等に患者さんに提供した薬剤名及び数量について報告する必要がある旨、事務連絡が出されました。
熊本地震や能登半島地震の時も同様に、医療用麻薬については、症状等を報告した上で、医師等の指示を確認した場合に、施用のために交付可能であり、交付後、報告することという事務連絡が出されました。向精神薬については、医師等の指示には、包括的指示の確認でも可能である旨、事務連絡が出されました。
 

救護班が行う医療

災害救助法適用地域では、救護班が行う医療には、災害救助法が適用される

災害救助法が規定している医療

災害のために、通常の保険診療では対応ができない場合に、応急的な処置として、災害救助法で医療が行われます。
災害救助法の概要
災害救助法の概要(令和2年度版)https://www.bousai.go.jp/taisaku/kyuujo/pdf/siryo1-1.pdf
災害救助法の概要(令和2年度版)https://www.bousai.go.jp/taisaku/kyuujo/pdf/siryo1-1.pdf

災害処方箋

災害処方箋とは、災害救助法に基づき、救護所など保険医療機関以外の場所で、救護班が診療を行った際に交付する処方せんのことをいいます。
災害処方箋に基づいて調剤した場合、保険調剤として取り扱うことはできません。災害救助法の適用となる医療は、県市町に費用を請求するため、請求方法等は、県市町に確認する必要があります。