SGLT2阻害薬
薬効群名
特長:
- 尿糖排泄を促進し、血糖を低下させる
- 体重の減少も認められる
作用機序

SGLTとは?
SGLT とは、Na+/glucose co-transporter の事であり、ブドウ糖を管腔側から血管側へ輸送するためのトランスポーター
SGLT1:小腸・腎近位直尿細管に発現している
SGLT2:腎近位曲尿細管の管腔膜に特異的に発現している
健常者では糸球体で濾過されたグルコースはほぼ完全に再吸収されているところ、2型糖尿病ではSGLT2の発現が亢進し、尿細管からのブドウ糖再吸収能が上昇していることが、糖尿病における高血糖の成因の一つになっている
SGLT2阻害薬は、
腎近位尿細管でのブドウ糖再吸収を抑制することで、血糖値を下げる
薬剤名
適応症
2型糖尿病 | 1型糖尿病 | 慢性心不全 | 慢性腎臓病 | 2型糖尿病を合併する慢性腎臓病 | |
---|---|---|---|---|---|
イプラグリフロジン | ○ | ○ | |||
ダパグリフロジン | ○ | ○ | ○* | ○** | |
ルセオグリフロジン | ○ | ||||
トホグリフロジン | ○ | ||||
カナグリフロジン | ○ | ○** | |||
エンパグリフロジン | ○ | [10mg錠] ○* | [10mg錠] ○** |
* ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。
**ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。
患者背景を考慮した薬物治療
高齢者
高齢者には慎重に
サルコペニアリスクが懸念される
サルコペニアリスクの要因
- 筋肉量の減少
- 急速な体重減少
- 筋力低下
一方、サルコペニアリスクを増大させないとの報告もある
代表的な副作用
低血糖
単独使用では、低血糖は起こしにくい
他の薬剤との併用では注意する
ケトン体増加
(正常血糖ケトーシス)
機序:ブドウ糖の排出に伴い、脂肪分解が促進され、ケトン体産生が増大し、正常血糖ケトーシス/ケトアシドーシスを発症しやすくなる
→簡易型アルコール検知機の誤作動(偽陽性)の可能性がある
呼気アルコール検知器:陽性となった事例が報告されている
著名なインスリン分泌低下では、ケトアシドーシスの出現に注意
脱水
尿糖排泄増加するため、浸透圧利尿作用から、急性腎障害、体液量減少関連イベントが起きやすい
→75歳以上・利尿薬を併用している患者では注意
対策:飲水指導(ペットボトル500mL1本分を追加)
尿路感染症
性器感染症
尿糖排泄増加するため、性器感染症の頻度が増加する可能性がある
→性器感染症の既往のある患者への使用は慎重に
心不全に対して使うときはメリットの方が大きいため、十分な予防を講じることが大切
対策:飲水指導(ペットボトル500mL1本分を追加)
注意事項
シックデイ
発熱や消化器症状などで食事が十分に取れないとき
- 脱水の悪化
- ケトアシドーシスリスク
対策:シックデイの過ごし方の指導を普段から
- 脱水の対策
- 消化の良いものを食べる
- 体調観察
- 休薬・・・原疾患によって休薬の考え方は異なる
- 糖尿病:休薬
- CKD:休薬を検討しても良い
手術前の休薬
食事摂取制限を伴う手術を受ける場合
- 予定手術
- DM:手術 3 日前から休薬し、術後は食事摂取が可能になってから再開 [1]
- 2 型糖尿病非合併・心不全:術前の終日絶食日に SGLT2 阻害薬を休薬し、術後は食事摂取が可能になってから再開 [2]
- 糖尿病非合併・CKD:SGLT2阻害薬の中止を考慮 [3]
- 緊急手術
- 現場での判断 [2]
- SGLT2i使用者: 3.8%
- 非使用者: 3.5%
- 平均治療効果 (ATE): 0.2% (95% CI, −1.7% to 2.2%)
緊急手術となった事例の解析
P (Patient / Population)
・対象: 18歳以上の2型糖尿病患者
・条件: 2016年1月1日~2022年12月15日の間に緊急手術を受けた患者
・総数: 34,671人
・SGLT2阻害薬使用者: 2,607人 (7.5%)
・非使用者: 32,064人 (92.5%)
I (Intervention / Exposure)
・SGLT2阻害薬 (SGLT2i) の術前使用
C (Comparison / Control)
・SGLT2阻害薬を使用していない患者
O (Outcome / 結果)
・術後14日以内の糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の発生率
結論 (Conclusion)
・SGLT2阻害薬の術前使用は、術後の糖尿病性ケトアシドーシス (DKA) のリスク増加と関連しなかった。
・現行の「手術3日前からSGLT2阻害薬を中止する」というガイドラインの見直しが検討されるべき可能性がある。
Additional Effect
SGLT2 阻害薬による、循環器疾患への作用や腎保護作用について、「クラスエフェクト」があることが示唆されている(SGLT2 阻害薬全般に共通する効果)
心血管イベント抑制効果
EMPA, DAPA, KANA
心血管疾患の発生リスクを抑制する効果は、SGLT2 阻害薬に共通する
腎イベント抑制効果
EMPA, DAPA, KANA, others
- 糖尿病合併CKD:アルブミン尿(蛋白尿)の有無,程度にかかわらずSGLT2 阻害薬の投与を積極的に考慮
- eGFR15 mL/分/ 1.73 m2 未満(末期腎不全):新規に開始すべきではない
- 投与中にeGFR15 mL/分/ 1.73 m2 未満になった:副作用に注意しながら継続
- 糖尿病非合併CKD
- 蛋白尿陽性:eGFR15 mL/分/ 1.73 m2 以上であれば、積極的な使用を考慮
- 蛋白尿陰性:エビデンス不足。eGFR 60 mL/分/ 1.73 m2 未満であれば、ベネフィットを勘案し、使用を慎重に検討
- SGLT2 阻害薬投与後にeGFR initial dip を認めることがあるため,早期(2 週間~2 カ月程度)にeGFR を評価することが望ましい
CKD 進行抑制効果・心血管由来の死亡抑制効果
EMPA
COPD
ガイドライン・Recommendation