周術期の薬学ケア

地域薬剤師が、患者さんから入院や手術のことを聞いた時に、フォローしたい内容

|手術前に確認しておきたい患者背景

 周術期の指示内容を確認する

かかりつけ薬剤師として、手術入院前後のフォローのために

手術前後に休薬が必要な薬

 
手術時に絶食の予定がある場合、手術前後の食事に応じて調節する
  • メトホルミン:外科手術前後には禁忌
  • SGLT2 阻害薬:術前3日前から休薬し、術後、十分に摂食できるようになったら再開
参考)日本糖尿病学会:「糖尿病治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation」
 

 手術の内容

白内障手術

緑内障の治療を受けている場合:

  • 緑内障
    • 白内障手術では、水晶体を厚みの薄い眼内レンズに交換するため、隅角はひらき、急性発作は起きなくなる
    • 緑内障がある人で、白内障手術の既往がある人については、「開放隅角緑内障」として対応
  • 緑内障治療薬と白内障手術
    • オミデネパグ イソプロストル(エイベリス (R))(PMDA
      • 禁忌:無水晶体眼又は眼内レンズ挿入眼の患者
      • 白内障手術3日前から休薬
    • プロスタグランジン製剤
      • 白内障手術後には、炎症を強める可能性があることから、休薬指示があることがある

抗凝固薬を服用している場合:

  • 抗血液凝固薬
    • 白内障手術の時には、抗血液凝固薬は休薬しないことが多い

α1 遮断薬を服用している場合:

  • 術中虹彩緊張低下症候群(IFIS)
    • 白内障手術は、散瞳させた状態で行うが、この調節がうまくいかなくなる状態が、術中虹彩緊張低下症候群(IFIS)
      • 手術中に IFIS が起こると、散瞳薬を点眼しても虹彩筋がうまく作用せず、瞳孔が開きにくかったり、1度は瞳孔が開くものの、術中に閉じてきてしまったりといった不安定な状態になる
      • α1 遮断薬を服用している方について、「白内障の手術予定がある」ことを聞いた時は、必ず、服用中の薬を伝えているか確認する
        • α1 遮断薬に注意が必要
          • シロドシン
          • タムスロシン
          • ドキサゾシン
          • ナフトピジル
          • ブナゾシン
          • プラゾシン
          • リスペリドン
          • (添付文書の「副作用」欄に術中虹彩緊張低下症候群の記載がある薬剤)
 
 
 
参考資料)
日本病院薬剤師会
根拠に基づいた周術期患者への薬学的管理ならびに手術室における薬剤師業務のチェックリスト(2022年度版)、令和4年9月1日 https://www.jshp.or.jp/activity/guideline/20220901-1.html
周術期薬剤業務の進め方、令和5年2月6日  https://www.jshp.or.jp/activity/guideline/20230206-1.html
周術期薬剤業務事例集、令和6年2月13日 https://www.jshp.or.jp/activity/guideline/20240213-1.html
一般社団法人 日本病院薬剤師会 (監修):「周術期の薬学管理 第3版」、南山堂.
 
 

|検査前に確認しておきたい患者背景

 MRI

【1】MRI自体に影響を及ぼす薬剤・治療器具との関連

① 鉄剤(経口または注射)

  • 注意点:鉄含有製剤は強い磁性を持つことがあり、アーチファクト(画像の乱れ)を引き起こす可能性がある
  • 対処:撮像部位や投与時期によって影響が出るか判断します。特に注射用鉄剤(フェリカルボキシマルトースなど)は注意
  • 施設によっては、経口鉄剤の服用は、前日までと説明されている
Q8 造影MRI検査を行うにあたり、注意が必要な薬剤はありますか?
Gd造影剤と相互作用のある薬剤は報告されていません。しかし、MR画像に影響を及ぼすために注意が必要な薬剤として静注用鉄剤があります。
【参考文献】
  • 1)Suto Y et al.: Br J Radiol 69(819):201-205(1996)
  • 2)Kato N et al.: Invest Radiol 37(12):680-684(2002)
ちょっと役立つ造影検査に関する話題MRI編- Ver.2.2
参考資料:
鉄サプリメント J. Stoneburgh, Proc. Intl. Soc. Mag. Reson. Med. 19 (2011) https://cds.ismrm.org/protected/11MProceedings/PDFfiles/2670.pdf?utm_source=chatgpt.com

MRI Artifacts due to Ingestion of Iron Supplements

鉄サプリメント摂取によるMRIアーチファクト
Journal Name & Publication Year(雑誌名と出版年)
Proceedings of the International Society for Magnetic Resonance in Medicine, 2011年
First and Last Authors(第一著者と最終著者)
J. Stoneburgh, M. D. Noseworthy
First Affiliations(第一所属)
Electrical and Computer Engineering, McMaster University, Hamilton, Ontario, Canada
Abstract(要旨)
鉄はMRIにおいて急激な信号位相ずれを引き起こす。特にMRI直前に鉄サプリメントを摂取すると、顕著なアーチファクトが発生する。本研究では、FIESTAイメージングと磁化率バランス(MSB)を用いて、未消化の鉄サプリメントが局所磁場に与える影響を実証した。
Background(背景)
鉄は重要な微量元素であり、多くの代謝経路に関与する。特に妊婦は鉄不足の監視が必要であり、鉄サプリメントの摂取が一般的である。鉄の磁性がMRIに影響を及ぼす可能性があるため、タイミングによっては画像に異常が生じることがある。
Methods(方法)
妊娠第3期の女性の胎児MRIスキャンにおいて、FIESTA画像に鉄由来のアーチファクトが観察された。彼女は鉄サプリメントを摂取していたが、1週間後に摂取を控えて再スキャンした結果、アーチファクトは消失した。また、鉄サプリメント(300mg ferrous gluconate)を寒天ゲルに埋め込み、3T GE Signa HD MRI装置で撮像し、磁化率バランス(MSB)で磁化率を測定した。
Results(結果)
鉄サプリメントのMRIでは、顕著な画像アーチファクトと特徴的な位相パターンが確認された。一方、同じサプリメントのCTではアーチファクトは発生しなかった。MSBで測定した磁化率は1.22×10⁻⁵であり、純水に比べて常磁性である。アーチファクトの原因は鉄成分による局所磁場の変化と考えられる。
Discussion(考察)
鉄サプリメントが未消化のまま体内に存在する場合、MRI画像に深刻なアーチファクトを生じさせる。これは特にFIESTAシーケンスで顕著であり、診断に支障をきたす。したがって、MRI前には鉄サプリメントの摂取を控えるように患者に指導すべきである。
Novelty compared to previous studies(既存研究との新規性)
鉄サプリメント自体によるMRIアーチファクトの具体的な実例と、磁化率の実測データを提示した点が新しい。CTではアーチファクトが生じない点も対照的である。
Limitations(限界)
温度変化がアーチファクトに与える影響については検討されていない。また、症例は単一である。
Potential Applications(応用可能性)
臨床現場でのMRI撮像前の問診において、鉄サプリメント摂取の有無を確認する手順が推奨される。特に妊婦など鉄補給が多い患者群において有用。

 

キレート作用がある医薬品・サプリメント

鉄キレート作用があるサプリメントでも、画像に影響を及ぼしたことが報告されている
  • クルクミン
参考資料:
クルクミンサプリメント Samuels J, Martin J, Richardson M, Skehan K. Effects of Dietary Supplements on Iron-Loading Susceptibility Artefacts in Pelvic MRI. Cureus. 2024 Jul 28;16(7):e65605. doi: 10.7759/cureus.65605. PMID: 39205737; PMCID: PMC11350153.

🔍 論文要約 — 「Effects of Dietary Supplements on Iron‑Loading Susceptibility Artefacts in Pelvic MRI」

◆ 対象と経緯

  • 前立腺がんの放射線治療計画のためにMRIを受けた80歳男性の症例。
  • MRI検査において、S状結腸・直腸に明らかなsusceptibility artifact(磁化率アーチファクト)が生じ、臨床利用に耐えない画質だった。
  • 安全スクリーニングでは金属異物や禁忌所見はなく、CTでは高密度物も確認されなかった。

◆ 病歴調査と仮説

  • 患者はクルクミン(ウコン抽出物)サプリメントを前立腺がん診断時から継続して服用していたことが判明。
  • MRI検査中のアーチファクトは、鉄をキレートし腸内に蓄積させたことによる磁化率差が原因と仮定された。
  • 実際、過去報告では鉄強化穀物の直後摂取に関連する類似アーティファクトが報告されていた。

◆ 処置と結果

  • クルクミンの服用を中止し、1週間後に再MRIを実施
  • 再撮像ではアーチファクトは消失し、放射線治療計画に必要な解剖学的視認性が確保された。

◆ 考察

  • クルクミンは、鉄のキレート作用を持つことが文献で示唆されており、腸内で鉄を結合させて磁化率の違いによるアーチファクトを引き起こした可能性が高い。
  • MRI安全スクリーニングにおいて、鉄キレート作用のあるサプリメント(例:クルクミンなど)を対象とした問診を加えることが有益。
  • 特に放射線治療の計画用MRIでは、画質が治療精度に直結するため、事前の詳細な服用状況確認が重要。

◆ まとめ

  • クルクミンのような鉄キレート作用をもつ健康補助食品が、MRIにおいて意図しない画像劣化(susceptibility artifact)を引き起こす可能性があることが示された。
  • 高画質を要求されるMRI検査では、補助食品やサプリメントの服用歴の確認が必要不可欠である。

 

② 磁性インプラント・埋め込み型デバイスとの関連薬

  • 該当薬剤例:金属製インスリンポンプや薬剤注入ポンプなどの埋込型医療機器に薬剤が関連している場合
  • 注意点:装置がMRI非対応であれば検査不能
  • 対処:事前にMRI適合性(MR Conditional等)を確認。
 

【3】その他の留意事項

① 抗精神病薬やパーキンソン病治療薬

  • 注意点:MRIで閉所恐怖症・不安が悪化する可能性があり、薬剤の調整が必要なことも。

② 鎮静薬・睡眠薬

  • 注意点:小児や認知症患者、高齢者ではMRI中に動かないよう一時的に使用することがあるため、併用薬との相互作用に注意。