術前休薬

術前に休薬する医薬品

手術前に休薬が必要な医薬品があります。休薬が必要な理由には、以下のようなものがあります。
出血リスクが高くなるため
血栓リスクが高くなるため
副作用の恐れが高くなるため
薬を続けるメリットと、休薬することによるデメリットを天秤にかけて、個別に、休薬するのか・どのくらいの日数休薬するのか、個別に判断します。
(こちらに示しているのは、あくまでも原則であることをご承知ください)
 

出血リスクのある薬

抗血栓薬 ・抗凝固薬 ・抗血小板薬
例えば、血栓形成を阻害する血栓凝固阻止剤(抗凝固薬・抗血小板薬)は、血栓症を予防するために服用しますが、その薬理作用のため、出血した時に固まりにくくなるため、出血リスクは高くなります。そのため、手術で切開する場合など、出血リスクが高い場合には、休薬が検討されます。
ただし、血栓症の予防のために重要な薬ですので、休薬すると血栓症が起こるリスクが上がる可能性があります。手術がどの程度の侵襲性をともなう手術なのか、によって休薬の必要性を判断します。
その他にも出血リスクのある薬がいくつかあります。休薬の必要性や期間については、①どの程度の出血リスクがあるのか:影響の程度・どのくらいの期間影響が続くのか、②手術の侵襲度(どの程度の出血を伴うような処置なのか)によって、個別に判断します。
サプリメント
出血に影響する可能性があるサプリメント
イチョウ葉エキス、魚油(EPA、DHA)、ガーリック(にんにく)、朝鮮人参、ジンジャー(しょうが)、ビタミンE など
 

血栓リスクがある薬

エストロゲン・プロゲステロン製剤
肝臓における血液凝固因子産生を促進し、血液凝固能が亢進するため、手術時に使用すると、周術期の血栓症が問題となることに注意が必要である
ただし、「低用量経口避妊薬、低用量エストロゲン・プロゲストーゲン配合剤ガイドライン」では、安静臥床を要しない場合は、OC は禁忌ではないとしている。
中用量ピル(プラノバール)は、電子添文では、禁忌となってはいない(8. 重要な基本的注意として記載されているのみ)が、注意は必要。低用量ピルは、「手術前4週以内、術後2週以内、産後4週以内及び長期間安静状態の患者」には禁忌であることが記載されている。

副作用の恐れがある薬

糖尿病治療薬
術前の血糖管理はインスリン、乳酸アシドーシス
絶食を伴う手術他
手術前後は、インスリンによる血糖管理が望まれること、乳酸アシドーシスリスクが高まることから、投与禁忌とされている
高血圧治療薬 ・RAS 阻害薬
ACE阻害薬 ARB ARNI ※合剤
過度な血圧低下の可能性があるため【休薬】
麻酔及び手術中にレニン-アンジオテンシン系の抑制作用による高度な血圧低下を起こす可能性があるため、電子添文には、「手術前24時間は投与しないことが望ましい」ことが、「8. 重要な基本的注意」に掲載されている
高血圧治療薬 ・β遮断薬
 
以前は休薬が推奨されていたが、近年、継続が推奨されている
【継続】
以前は、心抑制作用が周術期に悪影響を与える(反跳性高血圧・不整脈等)と考えられていたため、術前の休薬が推奨されていた。電子添文には、「手術前48時間は投与しないことが望ましい」ことが、「8. 重要な基本的注意」に掲載されている。
近年、β遮断薬が、周術期の心臓イベントを減少させるという知見が集積されている。
①手術を受ける医療機関に服用中の薬剤を確実に伝える、②どのような指示があったかを確認すること、が重要
※急な中断は、反跳性高血圧などの影響があるため、休薬する場合も、漸減が必要
三環系抗うつ薬
休薬を推奨する意見と、継続を推奨する意見、両方があり、個別に判断すべき
 
【休薬】麻酔薬との相互作用
休薬を推奨するもの:手術2週間から休薬
相互作用により麻酔薬の作用が増強するため、術前休薬を推奨する意見がある
 
【継続】長期使用者では、休薬時に離脱症状の可能性があるため継続
継続を推奨するもの:
三環系抗うつ薬を1ヶ月以上服用している患者では、突然中断すると、離脱症状が出現する可能性があるため、継続を推奨する意見がある
参照元)今浦将治:「術前の休薬・継続による術前環境の適正化」、外科と代謝、55巻5号、2021年10月.https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssmn/55/5/55_179/_pdf
MAO 阻害薬
 
休薬を推奨する意見もあるが、個別に判断
休薬を推奨するもの:手術2週間から休薬
交感神経刺激作用が増強するため、休薬が推奨されている
オピオイドとの併用で、セロトニン症候群のリスクが増加するため、休薬が推奨されている(しかし、相互作用の可能性があるのは、一部の薬剤→次項参照)
併用薬によって判断
フェニルピペリジン系オピオイド(ペチジン、トラマドール、メサドン、デキストロメトルファン、プロポキシフェン)は弱いセロトニン再取り込み阻害作用を持つため注意が必要であるが、一方で、モルヒネ、コデイン、オキシコドン、ブプレノルフィンはセロトニン再取り込み阻害作用を持たないため、MAO 阻害薬と併用してもセロトニン毒性を増強することはないと考えられている
 

創傷治癒遅延の影響がある薬

(一部の抗がん薬) 血管新生阻害薬
創傷治癒遅延の可能性があるため【休薬】
参考)
 
 
 
参考資料)
日本麻酔科学会 https://anesth.or.jp
周術期禁煙プラクティカルガイド
術前絶飲食ガイドライン
 
薬剤ごと術前休薬期間の一覧2024/8/29 3:022024/9/9 0:26