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食物アレルギーと注意すべき医薬品

 
食物アレルギーを持つ方は、アレルギー症状の引き金となる原因食物を摂取しないように制限することが重要です。医薬品の中には、食物アレルギーを引き起こしうる食物由来の成分を含むものがありますので、食物アレルギーのある方には、その医薬品を使わないようにしなければなりません。
漢方薬は、食品由来の生薬を配合していますが、食品表示法の対象ではないため、アレルギー物質の表示義務がありません。成分には、生薬の名前が記載されているため、見ただけではわかりにくいものがあり、注意が必要です。

牛乳アレルギー

牛乳アレルギーに禁忌の薬

牛乳アレルギーの原因となる主要なアレルゲンは、カゼインβ-ラクトグロブリンα-ラクトアルブミン、およびボビン (bovine) 血清アルブミンです。これらのタンパク質は、特に乳児において免疫反応を引き起こしやすいです。
医薬品の中にも、乳タンパクを含有するものがあります。牛乳アレルギー・乳アレルギーを持つ方には、乳タンパクを含む医薬品は禁忌ですので、使用を避ける必要があります。
牛乳アレルギーに禁忌の薬
 
 

「乳糖」と牛乳アレルギーの関係

牛乳アレルギーをお持ちの方は、成分表示を非常に気がけていらっしゃいます。そのため「乳」という文字を非常に気になさいます。代表的なものに「乳糖」があります。
 
乳糖とは、哺乳類の乳に含まれる主要な糖質です。
「乳糖」は、さまざまな医薬品の添加物として使用されており、それ自身は、アレルゲン性を持ちません
しかし、医薬品薬局方で規定された純度の高い乳糖であっても、ごく微量の乳タンパク質が夾雑しており、1 mg/g 程度のタンパク質が検出されています。(酒井信夫、2012
混在する乳タンパク質のため、アレルギー症状が起こる可能性があるので、摂取を回避することは重要です。
 
添加剤として乳糖を含む薬剤のうち、「注) 夾雑物として乳蛋白を含む。」と記載されている薬剤を挙げています。
(補足)あげているのは、「乳糖を含む薬剤」かつ「注) 夾雑物として乳蛋白を含む。」と記載されている医薬品です。乳糖を含む薬剤でも、夾雑物としての乳蛋白の可能性が記載されていないものがあります。この場合、「夾雑物として含まれるかが不明」なのか、「夾雑物がない」のか、現在の私の知識では不明です。下述のように、ガイドラインでは、乳糖は、口から食べる場合は、問題ないことが多い、とされているので、内服薬であれば、問題ないことが多いと考えられます。ただし、アレルギーが重度の場合は、もちろん注意が必要です。
乳タンパクを含む可能性がある薬剤
 
含有量は微量であっても、外用薬には特に注意が必要であると言えます。
  • 吸入剤:投与部位に、薬液を直接吹き付ける(高濃度の薬液が直接触れる)
  • 注射剤:血中濃度が迅速にあがる
<症例報告>
<症例報告>
  • 牛乳アレルギーのある患者が、乳糖を含む DPI を使用後に、アレルギー症状を発症した症例が報告されています(Robles J, 2014
  • 牛乳アレルギー及び気管支喘息の既往を持つ6歳女児が、インフルエンザ罹患時に吸入剤を使用し、アレルギー症状を発症した症例が報告されています(森川みき, 2016
  • 吸入・経口・注射薬による牛乳タンパクアレルギー反応が引き起こされた症例が報告されています(Santoro A, 2019
  • 重度の牛乳アレルギー及び気管支喘息の既往を持つ8歳児で、MDI(長時間作用型β刺激薬、吸入ステロイド)を使用していたところに、DPI を追加したところ、アレルギー症状を発症した症例が報告されています(Anna Nowak-Wegrzyn, 2004)。
  • 重度の牛乳アレルギーと短腸症候群を持つ1歳児において、メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム注射剤投与でアナフィラキシーを発症した症例が報告されています(Porcaro F, 2024)。
 
牛乳アレルギーを持つ方において、乳糖の摂取で即時アレルギー反応が起こることは稀です。食物アレルギー診療ガイドライン2021では、「乳糖にはごく微量の抗原が含まれているが、通常は摂取可能なことが多い。」とされています。
ただし、乳糖を含む加工食品を摂取して即時アレルギー反応をおこした症例も報告されているため(前田晶子, 2020)、重度の牛乳アレルギーの場合は、注意が必要です。
 
牛乳アレルギーと薬剤 【疑義照会で対応する】 ・「禁忌」の薬剤・・・牛乳アレルギーの方には、使わない ・乳タンパクを含有する薬剤・・・牛乳アレルギーの方には、使わない ・乳糖を含有する品  ・「夾雑物として乳蛋白を含む」と記載された薬剤・・・・・・牛乳アレルギーの方には、使わない  ・夾雑物の記載がない・・・個別対応

事例に学ぶ

医療事故情報収集等事業の第51回報告書では、食物アレルギーをもつ患者さんが、食物由来の成分を含む医薬品を摂取した後にアレルギー症状を起こした事例が紹介されています。
  • 乳糖を含む注射剤
乳糖を含む注射剤を注射した後にアレルギー症状を起こした事例が報告されています。 (現在は販売中止しているため、その製品の添加剤である乳糖には、乳蛋白が夾雑する可能性があるのかどうか、添付文書情報を入手できていません。)
ただし、注射剤は、血管内に直接投与するため、添加剤にも特に注意が必要です。乳糖を含む注射剤には注意が必要です。
  • 乳酸菌製剤
報告書では「牛乳アレルギー」のある患者さんに禁忌の薬剤として、乳酸菌製剤が挙げられています。報告書作成時点(2017年)はもちろんそうなのですが、現在では、多くの製剤で製造工程が見直され、乳蛋白を含まない製剤に改良されており、禁忌ではない製剤があります。
 

乳糖を含有する注射剤

 

乳酸菌製剤とアレルギー

乳酸菌製剤には、乳成分が混入する可能性があることから、牛乳アレルギーのある患者には「禁忌」の製剤がありました。上述の第51回報告書にも記載されていました。
現在では、製剤方法の変更に伴い、禁忌が削除になったものが多くあります。つまり、牛乳アレルギーのある方にも使用可能になりました。(販売終了している製品もあり)
 
  • ビオフェルミンR散/ビオフェルミンR錠:元から使用可能
  • レベニン散/レベニン錠:元から使用可能
 
  • ラックビー R 散:製造方法変更に伴い使用可能(2022年6月に禁忌が削除)
 
  • 耐性乳酸菌散10%「トーワ」:禁忌
 

卵アレルギー

卵アレルギーに禁忌の薬

鶏卵アレルギーを引き起こす原因となるアレルゲンとして、卵白に含まれる「オボアルブミン」「オボムコイド」があります [1]。
鶏卵アレルギーを持つ人に禁忌の医薬品の成分に、塩化リゾチームがあります。
  • 塩化リゾチーム(リゾチーム塩酸塩)
塩化リゾチーム
リゾチームは、卵白から発見された酵素で、最近の細胞壁分解作用、免疫溶菌促進作用、白血球の貪食能増強作用、組織修復作用、膿粘液分解作用、線毛運動促進作用などを持ち、上気道感染症などによく用いられてきました。卵白に含まれる成分であり、鶏卵から精製して作られたリゾチームは、鶏卵アレルギーのある方には禁忌です。ただし、消炎酵素製剤の慢性副鼻腔炎と気管支炎に対する治療効果を再評価した結果、現在の医療では有用性が低いと評価された [2] ことを受けて、塩化リゾチームを含む医療用医薬品自体が販売中止され、使われなくなりました。

色んな分野で使われている

ただし、リゾチームは、医薬品以外にも広く使用されています。
医療用医薬品でも一部の点眼薬にはリゾチームを含む製剤 [3] があります。
一般用医薬品には、総合感冒薬など、リゾチームを含有する製剤があります。
体臭を防ぐ目的で、化粧品やデオドラント関連品に使用されていたり、他にも、食品添加物、歯磨き剤にも含まれている場合があるため、十分に注意が必要です。
 

ワクチン

インフルエンザワクチン摂取の際に記入する問診票に「ニワトリの肉や卵にアレルギーがありますか」と、尋ねる質問項目があることをご存知でしょうか?一部のワクチンは、製造する際に、発育鶏卵をつかってウイルスを培養を使用するため、ニワトリに由来する成分が混入する可能性があり、アレルギーがある方には摂取できません。
鶏卵と関連するワクチンは3つあります。
  • MRワクチン:麻しん(はしか)風しん混合ワクチン
  • ムンプスワクチン:おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)のワクチン
    • この二つは、ニワトリの胚細胞を使ってワクチンを製造しています。そのため、卵白タンパク質は混入していないので、ワクチン接種可能
  • インフルエンザワクチン:インフルエンザのワクチン
    • 製造する過程で、有精卵を使用しており、日本製のワクチンでは1mLあたり数ng(ナノグラム)の鶏卵タンパク質が含まれる可能性があります。非常に微量であるため、通常通りに接種して重篤な反応が生じる可能性はきわめて低いとされています [4]。
    • ただし、重度の卵アレルギーの方は、個別に医師と相談して判断する必要があります。
    • フルミスト (R)・・弱毒生ワクチン
      • 発育鶏卵を使用して製造しているので、卵由来の卵白アレルゲンが混入する可能性があります。
      • 鶏卵、鶏肉、その他鶏由来のものでアナフィラキシーを呈したことが明らかな方は、接種不適当者(予防接種を受けることが適当でない)とされています。
 
改訂・追加情報
添付文書改訂 OTC の抗菌点眼薬のうち、「スルファメトキサゾール含有製剤(一般用医薬品)」「スルファメトキサゾールナトリウム含有製剤(一般用医薬品)」についても、鶏卵アレルギーのある方には禁忌である旨、添付文書が改訂されました。
添付文書改訂 フルミスト
2024年10月に販売開始されたインフルエンザの経鼻ワクチンです。鶏卵、鶏肉、その他鶏由来のもので、穴フィラキシーを呈したことが明らかな方は、接種不適当者とされました。
 
卵アレルギーに注意が必要な薬剤(R6.8改訂内容を追記する予定)

卵アレルギーに注意が必要な薬剤

 
アレルギー反応を起こした症例報告等
 
参考文献)
[1] 上野川 修一: 食品アレルギーとその原因物質, 日本釀造協會雜誌, 1987, 82 巻, 10 号. https://doi.org/10.6013/jbrewsocjapan1915.82.670
[2] 厚生労働省 薬事・食品衛生審議会 医薬品再評価部会、2016年3月17日
[4] 令和4年度厚生労働科学研究費補助金/アレルギー疾患患者(乳幼児~成人)のアンメットニーズとその解決法の可視化に関する研究:「小児のアレルギー疾患 保健指導の手引き 2023年改訂版」

小麦アレルギー

小麦アレルギーには、小麦摂取後数分以内に、じんましん、下痢、腹痛、呼吸困難などの症状が出現する即時型小麦アレルギーと、小麦摂取後に、運動などの二次的な要因が加わることでアレルギー症状を示す小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)があります。乳幼児における小麦アレルギーのの大部分は、即時型小麦アレルギーであり、成人になってから発症する小麦アレルギーのほとんどは、WDEIA だと考えられています。
小麦に含まれるアレルゲンは、アルブミン・グロブリン等の水溶性蛋白質と、グルテンと呼ばれているグリアジン・グルテニン等の不溶性蛋白質の2種類に大別されます。グルテンに含まれる「ω5-グリアジン」が WDEIA の主要なアレルゲンです。
小麦アレルギーの特異的 IgE 検査で検査される項目には、以下の3つがあります。
  • 小麦
  • グルテン
  • ω5-グリアジン
 

小麦アレルギーに禁忌の薬

現在、小麦アレルギーに禁忌と電子添文に記載されている薬はありません。しかし、小麦に由来する成分を含む医薬品はあります。
 

小麦に由来する成分を含む医薬品

医療用医薬品の中には、小麦に由来する成分を含むものがありますが、添付文書を見ても、禁忌等には、「小麦アレルギー」についての注意事項は記載されていません。
小麦粉や小麦胚芽油を含む医療用医薬品があります。
  • 小麦粉
  • 小麦胚芽油
 
調べた範囲では、症例報告は検索しても出てきませんでしたが、小麦アレルギーがある方が、小麦に由来する成分を含む医薬品を摂取した場合、アレルギー症状が出る可能性があると言えますので、十分に注意が必要であると考えます。
 

生薬である、「ショウバク(小麦)」

生薬の一つである、「ショウバク(小麦)」とは、小麦の果実を、脱粒して乾燥させたものです。
そのため、小麦アレルギーのある方が、ショウバクを含む医薬品を摂取すると、アレルギー症状が起こる可能性があると考えられます。そのため、摂取を避けることが重要です [1]。
 
「ショウバク(小麦)」を含む漢方薬として、「甘麦大棗湯」があります。これは、医療用医薬品のほか、一般用医薬品にもありますので、注意が必要です。
間違えやすいものとして、「麦門冬湯」があります。これは、「麦」という漢字を含みますが、「バクモンドウ(麦門冬)」というユリ科のジャノヒゲを起源とする生薬を含むためであり、小麦ではありません
 

小麦アレルギーに注意すべき医薬品

 
 

経皮感作による小麦アレルギー発症

また、小麦アレルギーに関連して、過去に起こった健康被害として、経皮感作のために小麦アレルギーが発症した事例があります [2]。小麦分解物を含む石鹸を使用したために発生しました。
動植物由来の成分を、皮膚に塗布することにも注意が必要です。
 
[1] 日本漢方生薬製剤協会 安全性委員会:「漢方服薬指導 Q&A」、Vol. 2.(PDF
[2] 厚生労働省:「茶のしずく石鹸」の自主回収について(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/cyanoshizuku/index.html
 
 

ゼラチンアレルギー

 
  • アキョウ(阿膠)を含む漢方薬
    • 温経湯
    • きゅう帰膠艾湯
    • 炙甘草湯
    • 猪苓湯
    • 猪苓湯合四物湯
  • 精製ゼラチンを含む薬剤
    • ウロナーゼ静注用6万単位
    • ウロナーゼ冠動注用12万単位
    • フルミスト点鼻液
 
  • ワクチン
    • 1994年〜2000年頃、乳児期のゼラチン含有ワクチン接種のとき、ゼラチンアレルギーの報告が相次いだことから、各種ワクチンのゼラチンフリー化が進んだ
  • カプセル
    • 医療用医薬品のカプセルもゼラチンフリー化が進んでいる
 

食物不耐症

食物不耐症とは、食物に含まれる特定の物質を分解する酵素が不足しているなどの理由で、食物を消化できないため、原因食物の摂取により特定の症状が現れます。
食物アレルギーとは異なり、免疫機序によるものではありませんが、食物の摂取によって症状が出る、という点が共通しているので、こちらにまとめています。
 

果糖不耐症

注意すべき医薬品の成分:
  • ソルビトール
  • 果糖

乳糖不耐症

注意すべき医薬品の成分:
  • 乳糖