SGLT2 阻害薬
SGLT2 阻害薬
薬剤一覧
SGLT2 阻害薬の特徴
【ステートメント】
・近位尿細管のブドウ糖の再吸収を抑制して、尿糖排泄を促進し、血糖低下作用を発揮する。インスリンと独立した血糖改善作用を介して、血糖コントロールの改善が得られ、体重の減少も認められる。 [1]
<有効性>
- インスリン分泌を促進させることなく、腎糸球体で濾過されたブドウ糖の、近位尿細管における再吸収を抑制して、血糖の上昇を抑制する。
- 尿中のブドウ糖排泄の増加により、体重が減少すると考えられている。
- 腎機能障害を合併する糖尿病患者では、血糖降下作用は得られない可能性がある
- ダパグリフロジン:中等度の腎機能障害(eGFR 30〜44 mL/min/1.73m)を合併する2型糖尿病患者では、体重や血圧は低下させたが、血糖コントロールは改善させなかった
- 重度腎機能障害(eGFR 30 未満):血糖降下作用は期待できない(薬剤間で一定の基準は定められていない)
<安全性>
- 脂肪分解が促進し、ケトン体の産生増加が起こりやすい
→簡易型アルコール検知機の誤作動(偽陽性)の可能性がある
- 浸透圧利尿作用により、急性腎障害、体液量減少関連イベントが起きやすい
→75歳以上・利尿薬を併用している患者では注意
- 性器感染症の頻度の増加
→性器感染症の既往のある患者への使用は慎重に
心不全に対して使うときはメリットの方が大きいため、十分な予防を講じることが大切
- 低血糖
- SU薬やインスリン治療との併用でも低血糖の頻度を増加させない
薬効群内の薬剤比較
適応症
2型糖尿病 | 1型糖尿病 | 慢性心不全 | 慢性腎臓病 | 2型糖尿病を合併する慢性腎臓病 | |
---|---|---|---|---|---|
イプラグリフロジン | ○ | ○ | |||
ダパグリフロジン | ○ | ○ | ○* | ○** | |
ルセオグリフロジン | ○ | ||||
トホグリフロジン | ○ | ||||
カナグリフロジン | ○ | ○** | |||
エンパグリフロジン | ○ | [10mg錠] ○* | [10mg錠] ○** |
* ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。
**ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。
有効性
SGLT2 阻害薬による、循環器疾患への作用や腎保護作用について、「クラスエフェクト」があることが示唆されている(SGLT2 阻害薬全般に共通する効果)
心血管イベント抑制効果
SGLT2 阻害薬による心血管イベントの抑制効果について、「糖尿病診療ガイドライン2019」[1] には、「エンパグリフロジン」や「日本の承認用量を超えたカナグリフロジン」では効果が認められたことが、ステートメントに明記されていた。
その後、心血管疾患の発生リスクを抑制する効果は、SGLT2 阻害薬に共通することが示されている。
Suzuki Y, Cardiovasc Diabetol (2022) [PMID: 35585590] : EMPA, DAPA, KANA
心血管イベント抑制効果の作用機序
- 利尿およびナトリウム排泄を促進し、心室負荷の調整と血圧低下をもたらす(Verma & McMurray, 2018; Filippatosら, 2019)
- ケトン体生成を増加させることで心臓のエネルギー代謝を改善し、効率的なエネルギー源を提供する(Lopaschuk & Verma, 2020; Maejima, 2020)
- ミトコンドリア機能を調節し、心筋細胞におけるエネルギー効率や酸化防御を強化する(Maejima, 2020)
- 炎症の抑制、交感神経系の抑制、および心筋の悪化するリモデリングの防止にも寄与する可能性があります(Lopaschuk & Verma, 2020)
腎イベント抑制効果
Suzuki Y, Kidney Int (2022) [PMID: 35961884] : EMPA, DAPA, KANA, others
- 糖尿病合併CKD:アルブミン尿(蛋白尿)の有無,程度にかかわらずSGLT2 阻害薬の投与を積極的に考慮
- eGFR15 mL/分/ 1.73 m2 未満(末期腎不全):新規に開始すべきではない
- 投与中にeGFR15 mL/分/ 1.73 m2 未満になった:副作用に注意しながら継続
- 糖尿病非合併CKD
- 蛋白尿陽性:eGFR15 mL/分/ 1.73 m2 以上であれば、積極的な使用を考慮
- 蛋白尿陰性:エビデンス不足。eGFR 60 mL/分/ 1.73 m2 未満であれば、ベネフィットを勘案し、使用を慎重に検討
- SGLT2 阻害薬投与後にeGFR initial dip を認めることがあるため,早期(2 週間~2 カ月程度)にeGFR を評価することが望ましい
腎イベント抑制効果の作用機序
- 【メイン】尿細管糸球体フィードバックを調整することによって糸球体内圧を低下 (Fonseca-Correa & Correa-Rotter, 2021)
- 腎血行動態を改善し、アルブミン尿を減少させ、糸球体濾過率の低下を遅らせる(Tsimihodimos et al., 2018)
- ケトン体生成の増加や脂質代謝の改善などの代謝変化を誘導し、腎保護に寄与する可能性もある(Nishiyama & Kitada, 2023)
- 腎臓内の酸化ストレスや炎症を低減し、VEGF-aの生成によって腎虚血を改善する (Nishiyama & Kitada, 2023; Mima, 2018).
- 血圧、体重、血糖コントロールに対する有益な効果もあり、これらが腎保護効果をさらに強化 (Tsimihodimos et al., 2018; Mima, 2018).
腎保護効果
- ①糸球体過剰濾過の抑制
- 健常人には、尿細管糸球体フィードバック(tubulo-glomerular feedback: TGF)の仕組みがある
- 原尿中の Na・Cl が少ない=“体液量減少”と判断して輸入細動脈を拡張させ、GFR を増加させ糸球体・尿細管虚血を予防する
- 原尿中の Na・Cl が多い=“体液量過剰”と判断して輸入細動脈を収縮させ、GFR を減少させて糸球体過剰濾過を予防する
- 糖尿病性腎症(特に初期)
- 原尿中のブドウ糖排泄亢進→近位尿細管でのSGLT2 を介した Na・ブドウ糖の再吸収が亢進→尿中 Na量が減少し TGF が活性化
- 尿中 Na量が減少しているが、体液量は減少していないので、糸球体過剰濾過→糸球体内圧が亢進し、蛋白尿
- SGLT2阻害薬
- 近位尿細管でのSGLT2 を介した Na・ブドウ糖の再吸収を抑制→TGF抑制
- 輸入細動脈を収縮させ、GFR 低下
- ②貧血是正による組織低酸素の改善
- ③尿酸排泄の亢進
- ④腎静脈うっ血の是正
CKD 進行抑制効果・心血管由来の死亡抑制効果
- エンパグリフロジン
COPD
最近、SGLT2阻害薬が、COPDに対して保護的な効果を持つ可能性が注目されている
- SGLT2iの使用が非使用者に比べてCOPDの増悪および関連する入院の発生率を大幅に低減することが確認された(Guptaら, 2023)
- SGLT2i使用者がジペプチジルペプチダーゼ-4阻害薬使用者に比べ、閉塞性気道疾患の新規発症リスクが35%、増悪率が46%減少した(Auら, 2023)
- 抗炎症作用、血糖コントロールの改善、および体重減少が関与していると考えられている(Guptaら, 2024)
- SGLT2iは代謝に必要なグルコースの利用を抑制し、内因性の二酸化炭素生成を減少させることで、CO2貯留を伴う肺疾患患者に有益な影響を与える可能性もあります(Brikman & Dori, 2020)
代謝への影響
- 総コレステロール:低下
- エビデンスは不足しているが、抗動脈硬化作用はクラスエフェクトの可能性が高いと考えられている
- 中性脂肪:低下
- 血清尿酸値:低下
- SGLT2 阻害薬に共通する、クラスエフェクトと考えられている
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/gnamtsunyo/44/1/44_61/_pdf/-char/ja
安全性
ガイドライン・Recommendation
参考資料
[1] 日本糖尿病学会:「糖尿病診療ガイドライン2019」.http://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=4
[2] 日本糖尿病薬物療法学会:「SGLT2 阻害薬患者指導箋」 https://www.jsnp.org/news/2023/11/sglt2_jsnp.php